3.1 調査にあたっての注意点

3.1 調査にあたっての注意点(Points to note in investigation)

 

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1. 調査の目的

一般に事故・破損品の調査には、2つの側面があります。
ひとつは、調査の目的が、破損に至った原因の解明による再発防止や、機器、装置の改良にある場合です。この場合は、一般的には、当事者を含む当該機器あるいは技術についての専門家(設計者など)によって調査が行われます。破損の発生の工学的な要因の追求と、再発防止に重点がおかれます。

もう一つは、重大な災害が発生した場合で、この場合の原因調査は、主として災害の責任を明らかにすることを目的とします。通常は当事者を含まない第三者によって行われます。この場合の原因調査には、詳細かつ厳密な手法が採用されます。また、原因を追及して、責任の所在を明らかにする過程について、詳細な記録が作成され、その証拠についても保全されます。

いわば、前者が専門技術的調査、後者が災害原因の法的な鑑定及び公的な調査になります。事故の規模によっては両方の調査が要求されます。両方の調査においてその方法や結論とすべき内容については共通点が多いけれども、異なった結論が導かれる場合もあります。

そのため、事故・破損の原因調査では、あらかじめ目的と立場を明確にして調査過程で、混乱を避ける必要があります。

2. 調査の心構え

事故原因の調査を行う場合、多くの場合破損品のみ、もしくは破損品の一部しか入手できない場合が多いです。そのため破損品の周辺の状態を正しく把握できないこともあります。そのため、正しい情報が得られずに誤った判断をする場合もあります。

破壊・損傷の再発防止のための対策を適格に行うためには、以下の項目について検討する必要があります。

(1)材料メーカや、部材の製作者、熱処理業者から処理条件を開示してもらうこと。使用者側からは、その部材が組み込まれている機器、」設備の使用条件等を示してもらうことが必要です。お互いに不完全な情報の開示では、的確な対策が立てられず、また再発防止にも役立ちません。

(2)破損品の設計者は、破損した事実を受け止めて、製造条件や使用条件が、設計時の条件とかい離していないかを、よく吟味する必要があります。先入観を持たず原点の戻って考える必要があります。

(3)可能であれば、事故が発生状況を現地・現物で把握することが望ましいです。作業中の状態を観察し、破損部品の機能や使用状況(負荷条件、使用環境)、また破損部品の周辺の状況についても、調査し把握することが必要です。

(4)破損材が組み込まれる機器・装置など、全体を俯瞰することができる図面やスケッチなどや、破損部品と同じ履歴を持った部材の入手、比較調査も原因究明に有効です。

 

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3. 破損材の一般的な調査項目

破損原因を究明するために必要な項目を列挙します。

3.1 一般的な調査手順

(1)破損部品材料の調査
 ・成分分析(SEM-EDXなど)。微量成分元素の分析。
 ・製造履歴の把握:製鋼、機械処理、熱処理工程などの把握
 ・材料の機械的性質の把握:引張強さ、硬さ、衝撃強さ、疲労強度など
 ・材料の物理的性質、化学的性質の把握:熱膨張係数、熱伝導率、耐熱性、耐食性など
 ・破損部材の外観観察
 ・組織の観察:破断面付近の材料組織の観察(マクロ的、ミクロ的)
 ・破損部材の破面観察:マクロ的、ミクロ的
 ・表面の状態:錆、切欠きなど
 ・破断面の断面積:発生応力の推定

(2)設計条件、および使用条件
 ・外力:種類(引張力、圧縮力、ねじれ力など)、大きさ、繰返し数など
 ・使用環境:温度、湿度、雰囲気(乾燥状態、多湿状態など)
 ・設計条件と使用条件との差異

(3)シミュレーション
 ・有限要素法(FEM)などの数値解析
 ・実験室レベルでの再現試験
 ・実機器/実設備での再現試験、応力測定

(4)総合的検討および対策

3.2 クレームレベルの調査手順

オーソドックスな方法では、これらを順序良く実施すればよいのですが、時間と経費が非常にかかるのも事実です。

従って、クレームなどのレベルの解析では、簡便的に次のような手順で調査することが多いです。
(1)破面観察および破面近傍の観察(マクロ的)
 ・段差や切欠き、面取り、表面粗さの観察、計測。
 ・破断面で、き裂の起点、き裂の進展方向。
 ・負荷応力の種類、大きさ、表面の残留応力の調査。

(2)金属組織の観察(ミクロ的)
 ・化学成分や金属組織、結晶粒度、非金属介在物の有無
 ・金属の性質と機械的性質との関係、設計応力などとの関係。

(3)破損部周辺の観察
 ・破損部品のみならず、その周辺部をよく観察/調査が必要。
 ・破損時の周囲の状況により二次的な破損の有無。

ただし、このような簡易解析の場合でも、必要なポイントは必ず押さえておく必要があります。

 

 

 

参考文献
100事例でわかる 機械部品の疲労破壊・破断面の見方  藤木榮 日刊工業新聞社
機械部品の破損解析   長岡金吾   工学図書