応力腐食割れ

応力腐食割れ(stress corrsion cracking)

 

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1. 応力腐食割れとは

主として金属材料を、電位やpHなどの環境因子がある状態で、環境の影響を受けない状態での性的な強度よりはるかに低い引張応力が作用している状態が付加されていると、ほとんど変形を起こさずに、割れが発生することがあります。この現象を応力腐食割れ(SCC:Stress Corrosion Cracking)といいます。
広義の応力腐食割れは、その割れの発生機構により、亀裂の先端が溶解してき裂が進む「活性路溶解型SCC(Active Path Corrosion type SCC)」と、材料中に水素が供給され、脆化して破壊に至る「水素脆化割れ(Hydrogen Embrittlement)」に大別されます。
本コンテンツでは、狭義のSCCとして「活性路溶解型SCC」を応力腐食割れとして記述します。

応力腐食割れの現象には、次のような特徴があります。
 ・ 引張応力が発生している状況でのみ応力腐食割れが発生し、圧縮応力では応力腐食割れが発生しません。
 ・ 腐食がほとんど認められない環境でも応力腐食割れは発生しますが、全面腐食が生じる環境では発生しません。
 ・ 金属材料と環境物質との特定の組合せの場合に応力腐食割れが発生します。
 ・ 主として合金に対して発生します。純金属の場合は感受性が極めて低いです。また、プラスチックでも事例が報告されています。
 ・ 熱処理による組織変化についても、感受性に影響を及ぼします。
 ・ 破面は、粒界割れ、粒内割れのどちらの場合もあります。材料と環境に依存します。
 ・ 遅れ破壊になります。

図1に、最も一般的な事例である、塩化物を含む高温水中で、応力腐食割れを発生したSUS304L製のチューブの例を示します。表面の腐食ピットなどの欠陥部から割れが枝分かれ状に進展している様子が観察されます。

図1 SUS304L製チューブの応力腐食割れ  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト(一般高圧ガス編) 平成14年

 

2. 応力腐食割れ発生の条件

一般に応力腐食割れは、材料的因子、腐食環境、および引張応力の3要素が同時に作用する場合に発生します(図2)。

(1)材料的因子

オーステナイト系ステンレス鋼に対して塩化物により応力腐食割れが発生しやすい現象はよく知られていますが、マルテンサイト系ステンレス鋼、高張力鋼、低合金鋼などの鉄系金属や、黄銅などの銅合金、アルミニウム合金などの非鉄金属など、多くの金属材料について、応力腐食割れが報告されています。

(2)腐食環境

材料と腐食環境因子との特定の組合せにより、応力腐食割れが発生します。これについては、別項で記述します。
主要な環境条件としては、塩化物イオン(Cl-)、湿度、pH値、酸素濃度などが挙げられます。
一番最初に応力腐食割れについての研究が行われたのは、銃弾の薬きょうである黄銅材のアンモニアに対する応力腐食割れだといわれています。

(3)引張応力

部材に負荷される力学的な引張応力や、加工時や溶接により発生する在留応力、熱応力などの引張応力成分が影響します。圧縮応力は応力腐食割れの因子にはなりません。

図2応力腐食割れの3要素  出典:ORIGINAL

 

3. 応力腐食割れのメカニズム

応力腐食割れのメカニズムとして、いくつか提案されています。ここでは主要なものについて記述します。

(1)一段階機構

メカノケミカル反応により、滑りステップに線状の微視的な腐食溝が発生します。その大部分は分極により再不働態化しますが、すべり速度が大きい部位(最大応力の発生個所)では腐食が進行して、多数の微視的腐食溝が連結・接合して、巨視的な腐食溝(割れ)を形成します。
塩素イオン(Cl-)は吸着およびpHの低下により再不働態化を妨げます。これは、電気化学腐食機構であって、再不働態化を遅延させる作用をもつNi、Siなどの合金元素は、割れを抑制するように働きます。一方、再不働態化を促進する作用をもつMo、Cuなどの合金元素は、割れを加速するように働きます。

(2)腐食と延性破壊の重複機構

応力が大きい場合は、微視的腐食溝の連結が延性破壊によって行われる部位が発生します。つまり、メカノケミカル反応の腐食と機械的破壊とが混合して現れます。
応力か小さい場合は一段階機構、応力か大きい場合には重複機構となるため、負荷応力に対する割れ時間(対数表示)の関係は、ほぼ二つの直線部分が現れます(図3)。

図3負荷応力に対する割れ時間  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト(一般高圧ガス編) H14年

(3)二段階機構

粒界割れでは, メカノケミカル反応と粒界析出相の電気化学反応により、粒界腐食が促進されて、腐食溝による切欠きが形成されます。
高強度合金の場合、切欠きが十分成長すると脆性破壊を起こす場合があります。例えば、高力アルミニウム合金、高張力鋼などです。
延性が大きい合金、例えば黄銅、オーステナイト系ステンレス鋼では、粒界腐食割れが一段階機構で進行します。

(4)残留応力による応力腐食割れ機構

残留応力のみによる割れ機構は、一段階機構と同様のプロセスになります。ただ、転位が密集した変形帯が腐食により滑りを起こしやすくなり、メカノケミカル反応が促進されます。

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4. 腐食物質、材料の感受性、および温度条件の組合せによる応力腐食割れ

応力腐食割れを発生する有害物質などの環境条件と材料との組合せの例を表4に示します。

 

表4 応力腐食割れを発生する環境条件と材料との組合せ  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト

 

5. 応力腐食割れを防止する技術

応力腐食割れを防止するためには、発生要因である材料的因子、腐食環境、および引張応力の3要素の内、最低でも何れか一要素を改善することが必要です。以下に、経験上や応力腐食割れの発生理論から提案されている防止法を列挙します。また、少し古い文献ですが、SCC防止対策へのアプローチの考え方を参考にしたものを示します(図5)。

(1)応力腐食割れを起こしやすい金属材料と環境物質との組合せを避ける。
(2)腐食を防止する:
 (ⅰ)カソー ド董気防食 ・・・ a;外部電源方式・流電陽極方式
               b;例えばZn(亜鉛)などの、アノードとなる金属をめっきする
               c;合金中にアノードとなる異相を分散させる
 (ⅱ)インヒビター
(3)応力除去: (ⅰ)熱処理、 (ⅱ)設計、組立工作法の改良
(4)金属組織の改善: 熱処理
(5)全面腐食性を与える: (ⅰ)加工度を過度に大きくする、 (ⅱ)窒化
(6)圧縮応力を表面に与える:
 (ⅰ)機械的研摩、圧延、窒化
 (ⅱ)酸洗、化学研摩などを実施した後、処理しないで使用しない。
(7)蒸気の凝縮を避ける

図5 応力腐食割れ(SCC)防止対策へのアプローチの考え方 出典参考:材料Vol.30 No.337

 

参考文献
高圧ガス製造保安係員講習テキスト(一般高圧ガス編) 高圧ガス保安協会編 H14年
金属防蝕技術便覧 新版  日刊工業新聞社  S53年
応力腐食割れとその対策  大久保勝夫 材料Vol.30 No.337 S56年

引用図表
図1 SUS304L製チューブの応力腐食割れ  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト(一般高圧ガス編) 平成14年
図2応力腐食割れの3要素  出典:ORIGINAL
図3負荷応力に対する割れ時間  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト(一般高圧ガス編) H14年
表4応力腐食割れを発生する環境条件と材料との組合せ  出典:高圧ガス製造保安係員講習テキスト
図5応力腐食割れ(SCC)防止対策へのアプローチの考え方 出典参考:材料Vol.30 No.337

ORG:2015/01/23