(1)ヌープ硬さ

(1)ヌープ硬さ(Knoop hardness)

 

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1. ヌープ硬さとは

ヌープ硬さは、微小部分の硬さを測定するために考えられた硬さ試験の一つです。ヌープ硬さは、主にセラミックス、ガラス、宝石などの極めて硬い脆性材料や、薄いフィルムやコーティング、表面硬化層などの硬さを測定するのに適しています。評価する際に使用されます。ヌープ硬さの名称は、1939年にこの測定法を開発したアメリカ国立標準技術研究所(NIST)のフレデリック・ヌープ(Frederick Knoop)に由来しています。

ヌープ硬さの測定には、横断面がひし形である菱面体晶のダイヤモンド圧子(ヌープ圧子(Knoop indenter); 対稜角が172°30′と130°)が用いられます。長い対角線と短い対角線の比率は、約7:1(正確には7.114)です。この形状により、ヌープ硬さは非常に小さな領域においても正確に測定できる特徴を持ちます。ヌープ試験はビッカース試験と同じ試験機を用いて、同じ手順で行います。一定の荷重を加えると、圧子が試料に押し込まれ、その痕跡ひし形になります。計測するのは、長軸の長さだけです。この長さからヌープ硬さの値(HK)が計算されます。
ヌープ硬さ試験は、硬さだけでなく、材料の均一性や異方性も評価するのに役立ちます。そのため、高精度を必要とする研究室や、材料評価において重要な役割を果たしています。例えば、新規材料の開発や品質管理、摩耗特性の評価など、多岐にわたる分野での応用が期待されます。

図1ヌープ圧子  出典:(https://www.buehler.com/jp/wp-content/uploads/2021/11/knoop-hardness-testing-23-9-1.jpg)

 

2. ヌープ硬さの測定方法

ヌープ硬さの測定方法は、高い精度と細部への注意が求められます。まず、測定に使用する試料を適切に準備しなければなりません。試料の表面は、平坦で欠けや傷がないように研磨されていることが重要です。次に、ダイヤモンド製のヌープ圧子を用意しますが、その形状は厳密に保持している必要があります。従って、定期的な校正と検査が欠かせません。管理人の私事になりますが、品質管理の業務に従事しているときは、硬さ測定前に校正していました。
測定の手順は以下の通りです。
① 試料を硬さ試験機にセットします。
② ヌープ圧子を、試料表面に徐々に押し付けます。
③ 試験荷重を一定時間保持します。圧子に付加する荷重は、測定の目的や試料の硬さによって設定されます。一般的には1 gfから2 000 gf(0.009 807 ~ 19.613 N;JIS B7734-2020)の範囲で荷重が選ばれます(通常は、10 ~ 1 000 gf)。保持時間は、10 ~ 15秒といわれています。
③ 保持時間後に圧子を元に戻します。
④ 試料表面には、圧子の形状が転写されたひし形の圧痕が残ります。この圧痕の長手方向の長さを測定します。この測定精度が、ヌープ硬さ試験結果の精度を決めます。通常はビッカース硬さ試験機と同様に精密顕微鏡を使用して測定します。自動測定する試験機もあります。
⑥ ヌープ硬さは、圧痕の長手方向の長さより、次式により求められます。

\( HK = \displaystyle\frac{ F試験荷重;Test Force }{ A_{ P } 圧痕の投影面積;Projected Area } = \displaystyle\frac{ F }{ C_{ p } \times L^2 } \)

ここで、
\( F \):試験荷重
\( L \):圧痕の長手方向の長さ
\( C_{ p } \):圧子定数(= 0.070 279)

試験荷重と測定長さの単位により、表2のような式になります。

表2ヌープ硬さ計算式  出典:参考ASTM E92 – 16

ヌープ硬さの表し方の例を示します。
例: 375 HK0.3 ;300gf(2.942 N)の荷重で、ヌープ硬さ375を意味します。

この測定方法により、非常に小さな試料や薄膜の硬度も高精度で評価することが可能です。そのため、ナノテクノロジーやマイクロエレクトロニクスなどの分野では、ヌープ硬さ試験が広く採用されています。

 

3. ヌープ硬さの測定における長所と短所

ヌープ硬さ試験及びその測定についての長所と短所を、以下に示します。用途や条件によって重要視されるポイントが異なるため、目安として考えればよいと思います。

3.1長所

① 微小領域での硬度測定が可能:ヌープ圧子の特異な形状により、非常に小さな面積においても正確に硬度を評価できるため、薄膜や微細な部品の評価に適しています。例えば、半導体ウェハや薄膜コーティングの材料特性を評価する際には、ヌープ硬さ試験が一般的に使用されます。また、局所的な応力や微小な欠陥の影響を評価するためにも、この試験は有効です。
② 異方性材料の評価に優れる:圧痕の形状が長軸と短軸を持つため、材料の結晶構造や応力分布を詳細に調べることができます。これにより、特定の方向に対する硬度が他の方向とどのように異なるかを明らかにすることが可能です。
参考文献:鉄鋼におけるヌープ硬さ異方性と応力との関係(第1報) 中野行夫・大谷南海男 福井工業大学紀要第14号1984年
A STEREOGRAPHIC REPRESENTATION OF KNOOP HARDNESS ANISOTROPY  M. Garfinkle et al.  NASA TN D-4226  1967年

3.2短所

① 測定が非常に繊細なため、高い精度の顕微鏡と測定器具が必要。
② 試料表面の平坦さが要求されるため、測定前に十分な研磨が必要。

これらのメリットとデメリットを理解し、適切な条件でヌープ硬さ試験を実施することで、信頼性の高い材料評価が可能となります。

 

4. ヌープ硬さと他の硬さ尺度との比較

ヌープ硬さ以外にも硬さを評価するための尺度は多く存在し、それぞれが異なる用途や条件に適した特性を持っています。ここでは、ヌープ硬さと比較されることの多いビッカース硬度とロックウェル硬度について比較します。

ビッカース硬さ(HV)は、ダイヤモンド製の四角錐圧子(稜角135 °)を用いて材料の硬さを測定する方法です。ビッカース硬さ試験の大きな特徴は、圧痕が正方形になるため、測定が比較的簡単である点です。測定の際には荷重が均等に分布されるため、異方性材料の評価にも適しています。ビッカース硬さは、幅広い材料に適用可能で、特に硬度が高い材料や薄膜の評価に向いています。

ロックウェル硬さ(HR)は、超硬合金製の球やダイヤモンド円錐を圧子として使用して、材料に押込み、その深さを測定する方法です。ロックウェル硬さ試験は、試料表面の面粗度の影響を受けにくく、測定が容易です。特に生産現場での品質管理や大量測定に適しており、試料表面の形状に対して平面だけではなく円筒面の測定も可能です。しかし、試験荷重は比較的大きく、微小領域の測定にはあまり向いていません。

これらと比較すると、ヌープ硬さ(HK)は、微小領域の正確な硬さ測定に優れています。ヌープ硬さ試験は、ダイヤモンド製の圧子によって非常に小さな圧痕が形成されるため、ビッカース硬度試験よりもさらに小さな領域での測定が可能です。また、異方性材料の特性評価や、微小部分での硬度差の評価に優れているため、これらの分野では他の硬さ試験と比較しても非常に有用です。
ただし、ヌープ硬さ試験機は、ビッカース硬さ試験機と共通です。

 

5. 産業におけるヌープ硬さの応用事例

ヌープ硬さ試験は、その独自の特性と高精度な測定が求められる分野で広く使用されています。以下に代表的な応用事例を紹介します。
まず、半導体産業では、ヌープ硬さ試験が極めて重要な役割を果たしています。半導体デバイスは、微細加工技術によって作成されるため、材料の硬さや表面特性が性能に大きく影響します。特に、ウェハ表面や薄膜の硬さを正確に評価するためには、ヌープ硬さ試験が不可欠です。この試験により、材料の品質管理が徹底され、デバイスの高性能化が実現されています。
また、航空宇宙産業においてもヌープ硬さ試験は広く応用されています。航空機のエンジンや機体の部品は、極限の環境下で高い信頼性を発揮する必要があります。このため、使用される材料の硬さと耐摩耗性を正確に評価することが求められます。ヌープ硬さ試験は、特に高温高圧下での性能評価において有効であり、材料の選定と最適化に寄与しています。

宝石や貴金属業界でも、ヌープ硬さ試験が重要です。ダイヤモンドやサファイア、ルビーなどの宝石は、その硬度が品質評価の一つの指標となります。ヌープ硬さ試験により、これらの宝石の微小な硬さの差を評価し、偽造品の検出や品質保証に役立てています。
さらに、医療機器や生体材料の分野でもヌープ硬さ試験が活用されています。医療機器の一部は、人体内部で使用されるため、生体適合性とともに耐久性が重要です。歯科用材料やインプラントなどの硬さを評価することで、安全で信頼性の高い医療機器の開発が進められています。

これらの応用事例からわかるように、ヌープ硬さ試験は多岐にわたる産業分野で重要な役割を果たしています。材料の特性評価や品質管理において、ヌープ硬さ試験の結果は信頼性の高いデータを提供し、製品の高性能化と高信頼性の実現に貢献しています。

 

参考文献
JIS B7734-2020:ヌープ硬さ試験 - 試験機の検証及び校正
ASTM E92 – 16
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引用図表
図1ヌープ圧子  出典:参考;https://www.buehler.com/jp/wp-content/uploads/2021/11/knoop-hardness-testing-23-9-1.jpg
表2ヌープ硬さ計算式  出典:参考ASTM E92 – 16

REV: 2024/07/31
ORG:2024/05/15