スクラッチ硬さ(scratch hardness)
スクラッチ硬さ(scratch hardness)
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Contents
1. スクラッチ硬さ試験とは何か
スクラッチ硬さ試験は、材料の表面硬さを測定する一つの方法であり、特に薄膜やコーティングの耐摩耗性などの特性を評価するのに用いられます。
PVDやCVD法に代表されるドライプロセスによるコーティング膜は、光学機器や金型・工具、自動車部品など機械部品に広く用いられています。これらの表面改質層の厚みは、μmオーダーで非常に薄いため、特性を評価するには工夫が必要となります。
この試験では、標準化されたダイヤモンドの先端を持つスタイラス(ロックウェルCスケール圧子など)を用いて、試料の表面に一定の速度で引っかき傷を入れます。スタイラスにかけられる荷重は、所定の荷重を保持したままスクラッチする方法と、連続的に荷重を増加させながらスクラッチする方法とがありますが、通常の硬質膜に対する試験の場合、徐々に増加させる方法を用いることが多いです。
この方法は、薄膜の接着強度や耐摩耗性を直接的に測定するため、非常に有効です。スクラッチ試験の結果は、材料開発や品質管理において重要な指標として活用されています。
2. スクラッチ硬さ試験の原理と基本的な測定方法
スクラッチ試験機は、スタイラスのチップ先端で試験品表面を引掻き、そのときの破壊形態からコーティング膜の特性を評価するものです。
試験装置の例を、図1に示します。また、試験結果の例を、図2 に示します。
測定は、試料を固定した状態でスタイラスを動かし、進行方向と垂直な力(通常は増加する荷重)を加えていきます。この力が増加するにつれて、薄膜の剥離や亀裂が発生しやすくなります。
スクラッチ時の摩擦抵抗やチップの押し込み深さなどのデータが得られますが、最も重要なのはスクラッチ痕内での亀裂の発生や膜の剥離による基材の露出、あるいはスクラッチ痕周辺での亀裂や剥離の発生形態などの観察で、これらを総合的に判断して膜の付着強さや特性を判断することになります。
図1スクラッチ試験機の例 出典:Technical Sheet No.13011 (地独)大阪府立産業技術総合研究所 2013/10/29
図2測定結果;出力例,資料面観察画像 出典:Technical Sheet No.13011 (地独)大阪府立産業技術総合研究所 2013/10/29
3. スクラッチ硬さ試験の応用:PVDやCVD薄膜の性質評価
物理気相成長(PVD)や化学気相成長(CVD)などの方法で作成される薄膜は、スクラッチ硬さ試験によってその性質を評価することができます。
この試験は、薄膜の耐摩耗性や接着性を測定し、特に半導体やディスプレイ、光学コーティングなどの分野での利用が見込まれます。PVDやCVDで作成された薄膜の硬度は、その機能性や耐久性に直結し、スクラッチ試験による定量的な評価が製品の品質向上につながります。
4. スクラッチ硬さ試験における評価指標と結果の解釈
スクラッチ硬さ試験では、主にスクラッチの深さと長さ、試料表面に発生する損傷の形状を評価指標としています。試験結果の解釈では、これらのデータから材料の硬度、割れやすさ、耐摩耗性を判断します。
例えば、より深いスクラッチが少ない荷重で発生した場合、その薄膜は比較的柔らかいと評価される可能性があります。逆に、大きな荷重を加えても薄いスクラッチしか生じない場合は、硬度が高いと判断されます。これにより、異なる薄膜材料を客観的に比較することが可能になります。
5. スクラッチ硬さ試験の限界と改善策
スクラッチ硬さ試験は非常に有用な評価方法である一方で、いくつかの限界も存在します。
例えば、試験条件(スクラッチの速度や荷重の増加率など)によって結果が大きく変わることがあります。
また、非常に薄い膜や非常に硬い材料の場合、正確な評価が難しいこともあります。これらの問題に対処するためには、試験機器の精度を向上させることや、異なる試験方法との併用によって、より包括的なデータを得ることが推奨されます。さらに、国際的な基準や規格に沿った試験実施が、一貫した結果を保証する上で重要です。
現在規定されている規格には以下のようなものがあります。主な用途は、セラミックスコーティング、ポリマーコーティング、及び塗膜などについてのスクラッチ硬さ試験です。
ISO 20252:ファインセラミックス – スクラッチ試験によるセラミックコーティングの密着性測定
ISO 1518 :塗膜及びワニス – スクラッチ試験
DIN EN 1071-3:高度な工業用セラミックスス クラッチ試験による密着性及びその他の機械的破壊モードの測定
ASTM C1624:定量的な単一ポイントスクラッチ試験によりセラミックコーティングの密着力及び機械的破壊モードを測定する標準試験方法
ASTM D7027:スクラッチ試験機を使用したポリマーコーティング及びプラスチックのスクラッチ評価
ASTM D7187:ナノスクラッチにより塗膜の機械的特性(スクラッチ/表面摩耗挙動)を測定する標準試験方法
ASTM G171 :ダイヤモンドスタイラスを使用して材料のスクラッチ硬さを測定する標準測定方法
JIS K7316 :プラスチック - スクラッチ特性の求め方
JIS R3255 :ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法
参考文献
スクラッチ試験機カタログ Anton Paar GmbH XCSIP006JA-E
PVDコーティングの密着性におよぼす工具鋼の硬さと一次炭化物の影響 三浦滉大 他 Sanyo Technical Report Vol.30(2023) No.1
スクラッチ試験機 Technical Sheet No.13011 (地独)大阪府立産業技術総合研究所 2013/10/29
引用図表
図1スクラッチ試験機の例 出典:Technical Sheet No.13011 (地独)大阪府立産業技術総合研究所 2013/10/29
図2測定結果;出力例,資料面観察画像 出典:Technical Sheet No.13011 (地独)大阪府立産業技術総合研究所 2013/10/29
ORG:2024/04/22