2.1.1 パスカルの原理

2.1.1 パスカルの原理(Pascal’s principle)

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1.圧力の定義

流体中に、面積が⊿Aの仮想的な面を考えます。この面に直角に作用する力を⊿Fとすると、その圧力の強さ(圧力度)pは次式によって定義されます。

              (式2.1.1.1)

全圧力Fが全面積Aに均一に作用する場合には、圧力の強さはp=F/A で表されます。通常、圧力の強さは単に圧力といわれます。

圧力の単位は、Pa(パスカル)を使います。Paの定義は、1m2あたり1N の力が加わる場合、1Paになります。
天気予報でいう標準大気圧は、1013hPa(ヘクトパスカル)になります。h(ヘクト)は100倍の意味です。油圧ポンプでは通常MPa(メガパスカル)という単位が使われます。M(メガ)は106倍を表します。

2.パスカルの原理

静止した流体は、次のような性質を持っています。これをパスカルの原理といいます。

(1)流体圧力は、面に対して直角に作用します。

(2)任意の場所での圧力は全ての方向に等しくなります。

(3)密閉容器の中の流体の一部に負荷された圧力は、同時に流体の各部に等しい強さで伝達されます。

また、

図2.1.1.1に示す連通管がピストンでフタをされたものを考えてみましょう。ちなみに左端はこの図では開放されていますが、実際には圧力計を付けた状態になります。

[図2.1.1.1] パスカルの原理の説明図

シリンダ1のA点に作用する圧力pAを考えます。

     (式2.1.1.2)

となります。ただし、ここでピストンとシリンダとの間に摺動摩擦は無く、この部分からは油の漏れも無く、かつ伝達によるエネルギ損失は無視できるものと仮定します。

特に、油圧の場合、式.2.1.1.2 における、ρgz1 および ρgz2 はF1/A1 および F2/A2 の値に比較してはるかに小さいのでこれを省略すると、

                (式2.1.1.3) 

が成立します。ここで、pはピストン1および2の端面に作用する油圧力です。式2.1.1.3 より、

               (式2.1.1.4)

が得られます。これより、発生する力はピストンの断面積に比例します。
A1をA2と比較して小さくすれば、F2はF1に比較して十分に大きな力が得られます。これを応用したものが、油圧プレスや油圧ジャッキです。

次に、ピストン1を距離s1だけ押し込めば、ピストン2は距離s2だけ押し出されます。油には圧縮性が無く、ある温度でシリンダの容積が一定と考えれば、

     (式2.1.1.5)

となります。すなわちピストンの移動距離は、その断面積に反比例します。

補講:圧力の単位

SI単位と各種単位系

圧力の単位は、SI単位(国際単位系)では、パスカルPa(N/m2,kg・m-1・s-2)になりますが、圧力は色々な分野で基本になる概念ですので、いろいろな単位が使用されてきました。

工業の分野では、昔は(といっても、私が大学生の時代(40年くらい前)には、実際の講義は工業単位系(重力単位系)でされていましたが。)、1kgに質量の物体が地球の重力(g = 9.80665 m・s-2)により受ける力、1kgf(キログラム重)を力の単位として、kgf/m2を圧力の単位とする工業単位系が使用されていました。計量法では既に使用は許容されていませんが、今でも慣用的に使用される場合があります。

重力単位系に基づいた、単位について見ていきましょう。
ポンド・インチ系では、1lb(1ポンド重)の力が、1in2に加わる圧力として、1lb/in2(psi)が使用されます。油圧ポンプは主にUSで開発が進んだことから、設計の単位は現在でもこのpsiに基づいた数値を基本になっています(もちろん、MPaで設計されていますが。)。

真空工学では、絶対圧力をmmHgで記述したTorr(トル,1Torr=1mmHg)がよく使用されます。この他、その圧力に相当する0℃での水銀柱の高さ(mmHg)、相当する4℃での水柱の高さ(mAq)、標準大気圧(大気圧において、温度が0℃で水銀柱の高さが760mmになるときを標準大気圧といいます。)を基準にした気圧(atm)などの単位があります。

気象学の分野では、大気圧に近い105Paを単位とするバールbar(またはb)が使用されていました。これをSI単位系で表示するために1mb(ミリバール)を1hPa(ヘクトパスカル)として表示するようになりました(ちなみに、barは吐出圧力が比較的低いターボポンプの圧力表示に良く使用されます。)。

これらの単位をPaに換算すると以下のようになります。

 1 atm = 101 325 Pa

 1 mmHg = 1 Torr = 133.322 Pa

 1 mAq = 9 806.65 Pa

 1 bar = 1 000 mb = 1 000 hPa = 100 000 Pa

 1 kgf/cm2 = 10 000 kgf/m2 = 1 at = 98 066.5 Pa

 1 psi = 6 894.76 Pa

絶対圧力とゲージ圧力

真空状態を基準に測定した圧力を絶対圧力(absolute pressure)、大気圧を基準に測定した圧力をゲージ圧力(gage pressure)またはゲージ圧といいます。ゲージ圧力と絶対圧力との関係は、

(ゲージ圧力) = (絶対圧力) - (大気圧)

になります。

大気圧より低い圧力をゲージ圧力で呼ぶ場合、真空圧力(vacuum pressure)ということがあります。
絶対圧力とゲージ圧力とを区別する場合は、それぞれの単位の後に、abs(絶対圧力)とgage(または g :ゲージ圧力)をつけます。ちなみに私は、基本的にgまたはabsを必ず付けるようにしています。その方が誤解を生む可能性が低いので。ただし、一般的にはどちらでもよいと思います。

 

 

参考文献
油圧教本 増補改訂版S5309発行 日刊工業新聞社
油圧制御     竹中利夫、浦田映三     丸善

 

引用図表
 [図2.1.1.1] パスカルの原理の説明図

 

ORG: 2018/1/6