4.2.3 ギアポンプ

4.2.3 ギアポンプ(gear pump)

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1. ギアポンプの構造と種類

ギアポンプは、基本的には定容量形容積式ポンプです。高圧まで対応できる油圧ポンプとしては最も部品点数が少なく、低速域では容積効率が低いですが、高回転域まで使用可能です。ピストンポンプなどほかの油圧ポンプと比較して、コンタミナントの影響を受けにくい特徴があります。

ギアポンプの構造は、大きくは外接式ギアポンプと内接式ギアポンプとに分類されます。また、歯車の種類により、平歯車、はすば歯車、やまば歯車などがあり、歯形は、インボリュート歯形と特殊歯形とに分類されます。特殊歯形にはサイクロイド歯形や、トロコイド歯形、正弦曲線歯形、楕円歯形などがあります。

1.1 外接式ギアポンプ(external gear pump)

外接式ギアポンプの構造例を、図4.2.3.1 に示します。2つの外歯歯車がケーシングと呼ばれる容器内で噛み合っています。ポンプ軸が外部動力により回転すると、歯車の噛合い部が離れる際に空間が生じます。その空間に作動油が吸い込まれて歯形の溝の間に充満します。この作動油がケーシングの内周に沿って吐出側に移動して、歯車の噛合いにより吐出口に押し出されます。

図4.2.3.1 外接式ギアポンプ

外接式ギアポンプは、定格圧力として一般的には、最高圧力が20.6MPa、高圧用としては25.0MPa程度までがカタログ品としてあります。

1.2 内接式ギアポンプ(internal gear pump)

内接式ギアポンプは、ケーシングの中で内歯歯車と外歯歯車との一部が噛み合って回転してポンプ作用を行います。

内接式ギアポンプには、歯形にトロコイド曲線を用いたトロコイドポンプ(trochoid pump)と、噛み合わない部分にフィラーリングと呼ばれる三日月形の仕切り板を設けて、その円弧面が刃先と摺動してシールする形式とがあります。これらのうち、トロコイドポンプは低圧用に適用されます。図4.2.3.2にトロコイドポンプ、図4.2.3.3にフィラーリングタイプを示します。

図4.2.3.2 トロコイドポンプ

図4.2.3.3 フィラーリングタイプ内接式ギアポンプ

2. 押しのけ容積

インボリュート平歯車の場合の、1回転あたりの理論押しのけ容積Vは、次式で表されます。

   (式4.2.3.1)

ここで、
B:歯幅
D:駆動歯車の外径
D’:従動歯車の外径
A:歯車の中心距離
I=z/z’:
z:駆動歯車の歯数
z’:従動歯車の歯数(内接の場合は負号をとります)
tn:軸直角断面歯形の法線ピッチ
βg:基礎円筒状のはすば角

駆動歯車、従動歯車の2つの歯車の諸元が等しい場合は、
D = D’, i=1 から、次式になります。

   (式4.2.3.2) 

さらに、標準平歯車の場合に、モジュールをm、工具圧力角をαnとすると、

  (式4.2.3.3)

この式は、外接形、内接形のどちらにも適用できます。

また、式4.2.3.3.の{}内の第2項は第1項と比較すると非常に小さいので、さらに簡略化できて、

    (式4.2.3.4)

となります。

また、瞬間押しのけ容積を考えると、1回転中に歯数と同じ回数の脈動を繰り返します。
その脈動率εは、

   (式4.2.3.5)

で示されます。
標準平歯車では、式4.2.3.5に式4.2.3.2を代入して

   (式4.2.3.6)

となります。

押しのけ容積が周期的に変化するため、ポンプが一定回転数で運転されていても、吐出圧力は押しのけ容積の変動と同様の脈動が生じます。これは、振動や騒音の原因となります。

式4.2.3.6 から、歯数zが少ないほど脈動率εは大きくなります。しかし、押しのけ容積が同じ場合は、歯数が少なくモジュールが大きいほど歯車が小型になり、全効率も高くなります。
効率や製作工数の観点から、外接ギアポンプの場合は、8~14枚の歯数が多く使用されています。

内接ギアポンプの場合は、iの値が負になりますので、脈動率εは小さくなりますので、外接形と比較して、圧力脈動や騒音は非常に小さくなります。

3. 逃げ溝

2項で示した、押しのけ容積と脈動率は理論値であり、実際のギアポンプでは、歯先や歯車側面からの漏れや、歯溝圧力の高低圧の切換りの遅れがあるので、実際の脈動は理論値と異なります。
歯溝圧力の高低圧の切換りは、歯車の噛合い部で行われます。図4.2.3.4(a)の斜線に示す閉じ込み(entrapment trapping)部が生じます。この閉じ込み部は歯車の回転に伴い、図4.2.3.4(b)のように容積が変化します。閉じ込み部の容積が減少→増加するときに、それぞれ閉じ込み部に高圧→負圧が発生するので、ギアポンプの振動・騒音の原因となります。

図4.2.3.4 (a) 閉込みの進行状態

図4.2.3.4 (b) 閉込み過程における容積変化

このような閉じ込みの不具合を回避するために、図4.2.3.4(a)に破線で示されるように、歯車中心線から両側に幅Bの逃げ溝(幅2B)を側板の、かみ合い部の側面に設けます。Bは、0.5tncosαを基本寸法として、これよりわずかに小さくします。ここで、αはかみ合い圧力角です。

4. 軸受荷重

外接式ギアポンプでの、歯車まわりの圧力分布を考えます。歯先とケーシングとの隙間(歯先隙間)が円周上で一定の場合、歯車円周の圧力分布は、低圧側から高圧側に直線的に変化していることが観察されています(図4.2.3.5)。 

図4.2.3.5 歯車円周の圧力分布

その結果、軸には不平衡力が作用します。その大きさは、次式で示されます。

    (式4.2.3.7)

近似的には、

     (式4.2.3.8)

一般にギアポンプの耐久性は、軸受寿命によります。軸受寿命は軸受荷重によるので、軸受寿命を増加させ耐久性を改善するためには、軸受荷重を軽減させる必要があります。式4.2.3.8より、b/Dを小さくすればよいですが、全効率が低下する傾向があります。そのため、軸受寿命の許容する範囲内で、b/Dを大きくするのが一般的な対策です。

5. 容積効率を改善するための対策

容積効率の低下を防止するために、ケーシングと歯車側面との間に可動側板を設けて、その背面に高圧油を導いて、側板を歯車に接触させる機構が採用されています(図4.2.3.6)。この可動側板の背面に高圧油を作用させる領域は、歯車と側板間の圧力分布を考慮して、歯車への側板の接触力を適正にして、容積効率、機械効率を向上させるために、Oリングなどのシールにより可動側板の圧力分布を適正化させています。

図4.2.3.6 可動側板の圧力バランス

また、歯先とケーシングとの隙間からの漏れ(歯先漏れ)に対する対策として汎用のギアポンプでよく行われるは、ギアポンプの出荷検査時にギアの刃先でアルミケーシングの内面を削ることで、最小隙間を得る方法です。これをワイプというようです。

6. トロコイドポンプについて

トロコイドポンプは、図4.2.3.2のようにトロコイド歯形で、内歯歯車と歯数が内歯歯車.より1枚少ない外歯歯車との組合せで構成されています。外歯歯車を駆動軸によって回転させると、外歯歯車は内歯歯車に接触しながら、同一方向に回転します。作動の状態は図4.2.3.7に示します。
トロコイドポンプは、ジロータポンプ(Gerotor pump)とも言われています。

図4.2.3.7 トロコイドポンプ作動図

トロコイドポンプの長所と短所について示します。

[長所]
(1) 構造が簡単で、小型で軽量。
(2) 両方の歯車とも回転しますが、両歯車の相対速度が小さいので高速回転でも歯の摩耗が少なくて済みます。
(3) 閉込み現象が少ないので、騒音が小さいです。
(4) 吸込みポートが構造上大きくできるので、吸込み性能がフィラ-リング式と比較して高いです。

[短所]
(1) 歯面圧が大きいため、高圧化への取組みが遅れています。

 

7. 補足(個人的経験)

ギアポンプは、管理人が設計した唯一の容積式ポンプでした。その使い方も油圧技術で使用される動力源ではなく、プロセスでの移送用でした。その数少ない経験の中でも、何回か残念だったことがありました。

既に、30年以上前の出来事で、もう時効かなと思える内容ですので、特定できない形では述べさせて頂いてもよいかなと思い記します。

(1) 吸込みと吐出との導通
ギアポンプの種類は、やまば歯車を用いた外接式ギアポンプでした。重油の輸送用ポンプで、標準的な設計で、流量により歯幅を決めるだけの設計でした。図面を出図してしばらくしてから、購買から「歯切り屋が、おかしいと言ってきている。」と言ってきました。サプライヤに問い合わせると「歯の両側の位置が同じなんだけど、油漏れしないの?」との返事。

アッと気付きました。ギアポンプは歯と歯との間に、液体を保持して吸込み口から吐出口へ移動させる間に昇圧します。歯の両側が同じ位置にあることは、吸込み口と吐出口とが導通することになります。そうです。油はそのままスルーしてしまいます、ギアポンプの役割をしないことになります。

赤っ恥でした。それからは、幅についてはきっちり調べることにしました。まあ、設計というものは誤りを正すことというのが、私の教訓でした。

(2) 材質の適合性の追求不足
この案件は、自分の経験不足と追求不足を後悔するものでした。

管理人が、前職で在籍した会社は、化学プラント向けのポンプの受注生産がメインの仕事でした。少し、経験値が増え、一人で設計もできるようになった際に、客先から形式や材質の指定の上で、設計する案件でした。

概要は、ギアポンプで流体が石油ワックスを溶解した、液化プロパン・ブタンを移送するものでした。最初は客先指定の材質で設計しましたが、1か月も持たずギア欠損がありました。そこからは、客先より、材質の選定も含めて見直しを依頼され、3回ほど設計変更してトライしましたが、やはり3か月でギア欠損に至り、客先にても更新の指示がなくなり、最終的に終わりました、

やはり、当時では材質自体の性状や、熱処理・表面処理に対する知識がまだまだ足りなかったと思います。今でも、今この時点で設計するとしてらどのような設計をするかなと考えることがあります。

ただ、やっぱり何回かの試行錯誤がないと無理かなと思いますし、形式も不適切だったかなと考えます。

取り留めもない書き方でした。書かなかった方が良かったかもしれませんが、管理人の黒歴史の一つとして吐き出しました。すみません。

 

 

 

参考文献
油圧教本 増補改訂版   日刊工業新聞社
流体機械工学演習  前田照行  学献社
機械工学便覧 第6版 γ02-5-02章  日本機械学会
電子-油圧制御  一柳健   日刊工業新聞社
歯車ポンプ   市川常雄   日刊工業新聞社
疑問に答える機械の油圧(上)  ダイキン工業油機技術グループ  技術評論社

 

引用図表
[図4.2.3.1]  外接式ギアポンプ     流体機械工学演習
[図4.2.3.2]  トロコイドポンプ     流体機械工学演習
[図4.2.3.3]  フィラーリングタイプ内接式ギアポンプ 流体機械工学演習
[図4.2.3.4 (a)] 閉込みの進行状態  歯車ポンプ
[図4.2.3.4 (b)] 閉込み過程における容積変化  歯車ポンプ
[図4.2.3.5]  歯車円周の圧力分布  歯車ポンプ
[図4.2.3.6]  可動側板の圧力バランス  電子-油圧制御
[図4.2.3.7]  トロコイドポンプ作動図  油圧教本

ORG:2018/4/14