4.4.3 流量制御弁

4.4.3 流量制御弁(flow control valve)

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1.流量制御弁とは

流量制御弁は、その名前の通りですが、作動油の流量を制御する弁(バルブ)の総称です。作動油の流量を調整して、油圧シリンダや油圧モータなどのアクチュエータが運動する速度を制御するために使用されます。

 

2.流量制御弁の種類

弁は、その絞り要素を流れる流量により圧力差が生じます。

 

\( \Delta P= \displaystyle \frac{ \rho }{ 2 } \frac{ Q^2 }{ (C_{ d } A_{ 0 })^2 } \)    (式4.4.3.1)

ここで、
\( \Delta P \): 圧力差
\( \rho \):密度
\( Q \):絞り通過流量
\( C_{ d } \):絞りの流量係数
\( A_{ 0 } \):絞りの断面積

これら3要素(絞り要素、流量、圧力差)の組合せにより大きく2つの種類が考えられます。

(1)絞り要素の開口度を任意の一定値に取ると、流量と圧力差とはある一定の関係によってあらわされます(オリフィス流れやチョーク流れ)。

これに対応するのは、絞り弁です。これは、無保証の流量制御弁ともいわれ、ニードル弁やグローブ弁、ゲート弁が相当し、基本的な弁構造になります。

(2)圧力差を一定にすると、開口度と流量とは一定の関係を保ちます。

この形式は、常時圧力差を一定とする装置を付加することにより設定された一定流量を保つことができるので、圧力補償付流量調整弁あるいは単に流量調整弁といいます。

さらに、背圧または負荷により生じた差圧、および作動油の温度変化に関わりなく、管路内を流れる流量を設定された値に保持する弁を、圧力・温度補償付流量調整弁といいます。

これらの他、流量制御弁としては以下のものが分類されます。

(3)単一油圧源から2個のアクチュエータを駆動させる際に、それぞれへ流入する管路の負荷の変動に関係なく、一定比率で流量を分割して流す弁を、分流弁といいます。

(4)単一油圧源からの流量を分留させて、2つの回路を構成して使用することを目的とする分流弁で、制御された一定量の流量を優先的に片方に、残りを他方に流す弁を、特にフロープライオリティ弁といいます。

(5)一方向流れのみを制御流れとし、他方向の流れを自由流れとする弁をスローリターン弁といいます。さらに、制御流れの機構が固定絞りのものを特にリストリクタ弁といいます。

(6)特殊な弁として、カム操作などにより流量を徐々に減少させるデセラレーション弁、油圧プレスの油タンクとアクチュエータとを接続するプレフィル弁などがあります。

 

3.主要な流量制御弁

3.1 絞り弁(restrictor, metering valve)

絞り弁は、作動油が通過する断面の開口度を変化させることにより流量を調整します。そのため、必ず圧力損失が伴います。

開口度の調整が比較的容易なニードル弁の例を、図4.4.3.1 に示します。作動方法は、円すい形のニードルと呼ばれる弁体を調整ねじにより上下させて、シートとの間に環状の可変オリフィスを形成して、流量を調整します。

絞り弁の通貨流量は、絞り弁前後の圧力差の平方根に比例して変化します。そのため、絞り面積が固定され一定でも、圧力変動があれば完全な流量制御を行うことはできません。

図4.4.3.1 ニードル弁


図4.4.3.2 逆止弁付可変絞り弁

油圧回路で使用される場合は、多くの場合逆止弁(チェック弁)を組み合わせて使用します。この例を図4.4.3.2 に示します。

 

3.2 (圧力補償付)流量調整弁(pressure compensated flow control valve)
(1)圧力補償の仕組み

負荷や背圧の変化に関係なく、流量を設定された値に保持する弁を、圧力補償付流量調整弁、また単純に流量調整弁といいます。流量調整弁の例を図4.4.3.3 に示します。圧力補償のためのスプールとばね、および流量を調整する絞り弁で構成されています。

圧力補償スプールの右側は弁のマニホールドとオリフィスを形成しています。このオリフィスを圧力補償オリフィスといいます。

作動油は一次側から入って圧力補償オリフィス、流量調整用絞り弁を通過して二次側へ流れます。絞り弁の入口側圧力\( P_{ 1 } \) は、焼結を通じて圧力補償スプールの断面積\( A_{ 2 } \)、\( A_{ 3 } \) 部に作用します。出口側圧力\( P_{ 2 } \)は、圧力補償スプールの断面積\( A_{ 1 } \)部に作用します。

作動油が常時流れている状態(定常状態)で、圧力補償スプールに作用する力のバランスを考えます。

ばねの力を\( F \)とすると、

 

右向きに作用する力:\( F + A_{ 1 } P_{ 2 } \) 

左向きに作用する力:\( ( A_{ 2 } + A_{ 3 }) P_{ 1 } \)

 

となります。このとき圧力補償スプールは、これらの力が等しくなる位置で停止しているので、以下の式が成立します。

\( F + A_{ 1 } P_{ 2 } = ( A_{ 2 } + A_{ 3 }) P_{ 1 } \)

ここで、\( A_{ 1 } = A_{ 2 } + A_{ 3 } \) ですので、

\( P_{ 1 } – P_{ 2 } = F / A_{ 1 } \)

が成り立ちます。

すなわち、流量調整用絞り弁の前後の圧力差\( P_{ 1 } – P_{ 2 }  \) は、この圧力調整弁のばね力Fと圧力補償スプールの断面積で決められる一定値になります。この\( P_{ 1 } – P_{ 2 }  \) を補償圧力(コンペンセータ圧力)といいます。

例えば、一次側圧力\( P_{ 0 } \)が変化しても、それに伴う\( P_{ 1 } \)の変化は圧力補償スプールの作動により可変オリフィスが油路通過面積を変化させて、\( P_{ 2 } \)との圧力差を一定値に保つように働き、流量を一定に保持します。、

流量調整弁では、補償圧力\( P_{ 1 } – P_{ 2 }  \)は圧力補償スプールの作動により\( F / A_{ 1 } \)に等しくなります。一般には、\( F / A_{ 1 } \)は、2~4bar に設計されているようです。

図4.4.3.3(圧力補償付)流量調整弁の例

圧力補償付流量調整弁は、流量制御は厳密にできるが、油温が変化すると粘度も変化するが粘度の影響による流量の変化は制御が難しいです。粘度の影響をキャンセルできるように、絞り弁を薄刃オリフィスにしたり、熱膨張率の異なる金属により弁内の通路を油温に応じて変化させたりする形式の、圧力・温度補償付流量調整弁の例を図4.4.3.4 に示します。図は薄刃オリフィスを用いたものです。

図4.4.3.4 圧力・温度補償付流量調整弁

(2)流量調整弁の作動とアクチュエータの動き

流量制御弁の特性は、定常状態と過渡性能とに分けられます。前者は圧力補償特性(PC特性)、後者はジャンピング現象として示されます。

1)圧力補償特性

圧力補償特性は、図4.4.3.5 に示すように、弁の入口、出口の圧力差に対する通貨流量の関係で表されます。

図4.4.3.5 圧力補償特性

この図からわかることは、一定の調整流量を得るためには、入口と出口との間には、5~10barの圧力差が必要です。

これは、(1)で説明したF/A1と弁の内部通路の抵抗とによって定まる値です。これを流量調整弁の内部抵抗あるいは最小作動圧力差といいます。この最小作動圧力差は弁の種類やサイズにより決まり、その弁の固有値となります。また、同じ弁でも設定流量の大小により異なります。同一の弁では最大流量時に最小作動圧力差も最大になりますので、通常カタログ等に記載されています。

最小作動圧力差以下になると、絞り要素の流量特性と同じになり、圧力変化に伴って通貨流量が変化します。従って、流量調整弁を使用する際は、弁前後の圧力差が最小作動圧力差以上になるように、回路の圧力設定を行う必要があります。

2) 流量変動率

理論上は、最小作動圧力差以上で通過流量は一定になりますが、厳密に観察すると数%のオーダで流量が変化します。

最小作動圧力差と最大圧力差(最高使用圧力)との間における流量の変動の割合を流量変動率:\( \eta \)ηとして、次式で表します。この流量変動率が圧力補償性能を表します。

\( \eta = \displaystyle \frac{ Q_{ max } – Q_{ min }}{ Q_{ max } + Q_{ min }} \times 100 (%) \)  (式4.4.3.2)

ここで、

\( Q_{ max } \):各圧力における最大流量

\( Q_{ min } \):各圧力における最小流量

流量変動率は、弁の絞り部をある開度に設定したときに、その時の平均流量に対して上下にそれぞれ何%変動するかを表しています。

流量調整弁の設定流量と流量変動率との関係の例を、図4.4.3.6 に示します。ここで示す流量変動率は、弁前後の圧力差が最小から最大まで変化した場合の値を示しています。圧力差の変化幅が小さい場合は、流量変動率も小さくなります。

実際の使用例では、圧力差が大きく変動することはほとんど無いと考えられますので。流量はほぼ一定と考えても問題ありません。

図4.4.3.6 設定流量と流量変動率との関係

(3) ジャンピング現象とその防止法

流量調整弁は、圧力補償機構の応答遅れがありますので、作動油の流量が急激に変化すると、最初に大流量が短時間流れてアクチュエータの飛び出し現象が起こります。これをジャンピング現象といいます。

図4.4.3.7 に示す流量調整弁で説明します。圧力補償オリフィス部は、油が流れはじまるまでは、圧力補償スプールがばね力により右側に押付けられているため、油が流れているときと比較すると開度が大きくなっています。このため、入口に急に作動油が流れ込んでくると、圧力\( P_{ 1 } \)が上昇して絞り\( A \)前後の圧力差\( P_{ 1 } -P_{ 2 } \)が設定値\( F / A_{ 1 } \)になっても、圧力補償スプールは慣性により瞬間的に追従できず、わずかに時間遅れを生じた後、定常位置に移動します。この間は、絞り\( A \)前後の圧力差\( P_{ 1 } – P_{ 2 } \)が、設定値\( F / A_{ 1 } \)を超えてしまい、通過流量が規定流量より大きくなります。

また、作動油が流れていても、弁前後の圧力差が、その弁の最小作動圧力差より小さいときも、圧力補償オリフィス部が大きく開いているため、同じような現象が起こる場合があります。

このジャンピング現象を防止する対策として、図4.4.3.7 に示すように、圧力補償スプールの右側に、ジャンピング防止用調整ねじを設けて、圧力補償スプールを最初から定常一近くまでセットしておく方法がとられます。

図4.4.3.7 ジャンピング防止対策流量調整弁

(4)温度補償付流量調整弁

図4.4.3.3に示す、圧力補償付流量調整弁は、圧力変化に対しては流量を一定に保持することはできますが、温度変化による作動油の動粘度の変化に対しては流量を一定に保持することはできません。

油圧圧入機などで簡単な油圧回路を採用している場合、始動初めのアクチュエータの速度と、数時間運転した後のアクチュエータの速度は変化しています。これは、作動油の油温が油圧装置を運転することにより上昇して、動粘度が低下するためです。

これを避けるには、流量調整を頻度よく行うか、高価な装置を用いて油温制御を行う必要があります。

これらの役割をするのが、温度補償付流量調整弁です。実際の製品では、ほとんどが温度補償付流量調整弁です。

ここでは、図4.4.3.4でも示した薄刃オリフィス方式の温度補償機構について、解説しましょう。

既述したように、圧力補償は流量調整用の絞り前後の圧力差を一定になるようにしていますが、通常の絞りでは作動油の動粘度が変化すると流量が変化してしまいます。そこで、図4.4.3.4に示した温度補償付流量調整弁は、図4.4.3.8に示す薄刃オリフィス方式に絞りを用いています。薄刃オリフィスは流量係数が動粘度の影響を受けにくいため、温度が変化しても流量の変化は少なくて済みます。

図4.4.3.8 薄刃オリフィス方式の絞り

(5)流量調整弁の使用上の注意

流量調整弁を使用するにあたり、以下の点に注意する必要があります。
1)最小作動圧力差以下では、圧力補償しません。流量調整弁の出入口の圧力差が最小作動圧力差以上に保持できる回路圧にして下さい。
2)圧力補償にはスプールを利用します。そのため円周方向の隙間は非常に小さいです。そのため作動油は正常なものを使用する必要があります。特に微小流量を制御する場合は10μm程度のラインフィルタを使用して、コンタミナントが弁を通過するのを極力避ける必要があります。
3)油温変化に対する流量変化の許容値により、温度補償の必要性の有無を検討する必要があります。
4)流量調整弁で作動油が一方向にしか流れません。逆方向の流れが必要な場合は、逆止弁付流量調整弁を用いる必要があります。さらに往復の流量を制御したい場合は、逆止弁付流量調整弁を2個使用する必要があります。

 

3.3 分流弁(flow dividing valve)

分流弁は、2個以上のアクチュエータを同期させて動かすのに使用されます。1つの流入口に対して2つの流出口があり、両方の流出口からの流量を、負荷の変動に関係なく一定の比率に制御できます。

アクチユエータへの一方向の作動のみを行う分流弁と、往復とも同調制御する分流・集流弁とがあります。

分流弁の一例を図4.4.3.9に示します。作動油入口Cからスプールの中間部の室aに入り、オリフィスb,b’を経て、可変絞り部c,c’ に至り、出口A,Bから流出します。

スプールの両端は、オリフィスb,b’の出口部分と導通しています。スプールが移動することにより、可変絞り部c,c’の開度が変化して、スプール両端の圧力が等しくなりオリフィスb,b’ 前後の圧力差が等しくなります。

例えば、出口A側に回路負荷が増加した場合、スプールの左側の圧力が増加して、スプールは右側に移動して、可変絞り部c’ 開度が小さくなって、スプール右側の圧力を増加させて左右の圧力が等しくなる位置で静止します。このように、オリフィスb,b’ を通過する流量は、回路内の圧力変動に関係なく、オリフィスの大きさにより決まる一定の値になり、両出口A,Bに一定の比率で分流されます。

図4.4.3.9 分流弁の構造

 

3.4 フロープライオリティ弁(flow priority valve)   

フロープライオリティ弁は、分流弁の一種で、1つの油圧源INからの作動油を2つに分流させて、制御された一定に流量を優先的に制御側PFへ、残りの流量を余剰側EFに流すように制御します。図4.4.3.10 に例を示します。

油圧源INより供給された作動油は、オリフィスを通ってPF側に流れます。この際、スプールはオリフィス前後の圧力差による力で、ばねを圧縮する方向になり圧縮により発生するばね力と釣合う位置で静止します。

供給流量が設定流量以下の場合は、オリフィス前後の圧力差はばねを圧縮する方向に作用しますが、A部を開口するほどスプールは移動しないため、圧力源のポンプからINに流入した作動油の全流量がPF側に流れます。

供給流量が設定流量以上の場合、オリフィス前後の圧力差による力でスプールが移動して、可変オリフィス部A,B の開度が変化して、常にばね力と釣合う位置で静止するので、オリフィス前後の圧力差は常に一定になります。従って、オリフィスを通過する流量は一定になり、制御PF側には設定流量の作動油が流れ、残りの作動油はEF側に流れることになります。

この状態でPF側の圧力が上昇すると、オリフィス後の圧力が大きくなって、スプールはA部の開度が小さくなる方向に移動して、オリフィス前の圧力を上昇させます。また、EF側の圧力が上昇した場合には、オリフィス前の圧力が大きくなり、スプールはB部の開度が小さくなるように移動して、オリフィス後の圧力を上昇させます。

このように、回路圧が変化しても常にオリフィス前後の圧力差を一定に保つので、オリフィスの通過流量は一定になります。

図4.4.3.10 フロープライオリティ弁

 

 

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参考文献
疑問に答える機械の油圧(上)  ダイキン工業雪技術グループ  技術評論社
実用油圧ポケットブック_2012年版 (一社)日本フルードパワー工業会
油圧教本 増補改訂版  塩崎義弘他  日刊工業新聞社
油圧工学   辻茂   日刊工業新聞社

 

引用図表
図4.4.3.1 ニードル弁   油圧教本
図4.4.3.2 逆止弁付可変絞り弁    油圧教本
図4.4.3.3(圧力補償付)流量調整弁の例   油圧教本
図4.4.3.4 圧力・温度補償付流量調整弁   実用油圧ポケットブック 2012年版
図4.4.3.5 圧力補償特性   疑問に答える機械の油圧 上
図4.4.3.6 設定流量と流量変動率との関係   疑問に答える機械の油圧 上
図4.4.3.7 ジャンピング防止対策流量調整弁   疑問に答える機械の油圧 上
図4.4.3.8 薄刃オリフィス方式の絞り    疑問に答える機械の油圧 上
図4.4.3.9 分流弁の構造   実用油圧ポケットブック 2012年版
図4.4.3.9 分流弁の構造   実用油圧ポケットブック 2012年版
図4.4.3.10 フロープライオリティ弁    実用油圧ポケットブック 2012年版

 

ORG: 2021/04/01