13.4 塗装方法

13.4 塗装方法(painting method)

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塗装方法は、適用用途や塗料の形態により、色々な塗装方法が適用されています。

表13.4.1 は、代表的な塗装方法について特徴と用途を記載しています。これらについて、個別に概略を説明します。

表13.4.1 各種塗装方法の特徴と用途

 

 

1.バルク塗布

1.1 はけ(刷毛)塗り

はけ塗りは、古くからおこなわれている塗装方法です。現在でも多くの塗装現場、特に建築現場で用いられています。はけ塗りには乾燥の遅い塗料が適します。

はけは、色々な種類があります(表13.4.2)。 これらのうちよく使われているのは、筋かいはけ、ずんどう(寸胴)はけです。

表13.4.2 はけの種類と特徴

はけによる塗り方の基本を4段階に分けて示します。

(1)塗料の含ませ
 はけの毛先から毛たけの2/3くらいまで塗料を含ませて、塗料容器の内側で毛先を軽く叩いて、塗料が垂れないようにします。

(2)塗料の塗付け
 水平面の塗付けの場合は、左右に塗付けます。垂直面の場合は、はけを下から上に塗付けます。この塗付けの動作を「配る」といいます。

(3)塗料のならし
 (2)項の塗料に塗付け(配り)の方向と直角方向に、塗付けの終わったはけを用いて、塗料の厚みを均一にします。

(4)はけ目を通す
 塗料を均一な厚みにするためと、はけ目を整えるために行うことを「むら切り」といいます。毛先を整えたはけで、隅から隅まで平行にはけ目を通します。隅部以外の途中では塗り継ぎをしないようにしなければなりません。むら切りはけと称する平はけを用いる場合もあります。

はけ塗りの基本動作を図13.4.3 に示します。

図13.4.3 はけ塗りの基本動作

 

1.2 ローラブラシ塗り

ローラブラシとは、アルミニウム合金製円筒の外周にフェルトや合成樹脂スポンジを巻いて、これに柄を付けたものです。塗料をフェルト/スポンジ部に含ませてローリングしながら塗装します。

基本的には、はけと工具が異なるだけで塗り方の基本ははけと同じです。1回の動作ではけより幅広く塗れるので、ならしの操作が節約できます。ローラの動きは逆Wの文字を書くように、配り塗りを行って、ローラを転がし続けて、元の位置に戻るようにならし塗りを行います(図13.4.4)。ただし、隅部はあらかじめはけ塗りをしておく必要があります。むら切りはローラブラシを一方向に動かして、ローラ目を通して仕上げます。

図13.4.4 ローラブラシの運行順序

 

1.3 ロールコータ塗装

ロールコータ塗装の原理を示します(図13.4.5)。塗料タンクからピックアップロールで塗料を均一に巻き上げて、膜厚調整を行うドクターロールに塗料が移送されて、さらに均一な厚みの液膜状態を保持してコーティングロールに移動して、コーティングロールから被塗物に転写されます。

図13.4.5 ロールコータ塗装

コーティングロールから被塗物への転写方法については、コーティングロールの回転方向と被塗物の移動方向が同じになるナチュラル形と、逆になるリバース形とが有ります。ロール目が付きにくく均一な塗膜厚みが得られるのはリバース形です。
リバースコースタは、ヘラと被塗物の運動が逆になり、ヘラで塗料を掻き取るようになるので、塗料を均一に付着させることができます。
一方、ナチュラルコータは、ドクターロールで均一化した液膜の断面をコーティングローラで引き裂くように被塗物上に塗料を押し広げるようにゆきます。リバース形と比較して、ロール目が残りやすく膜厚の調整が難しくなります。

 

1.4 カーテンフローコータ塗装

カーテンフローコータ塗装の原理を示します(図13.4.6)。塗料タンクより塗料をポンプで吸い上げてヘッドに供給し、ヘッド下の均一幅の隙間から押し流すことにより得られるカーテン状の液膜を、一定速度で動くコンベアに載せられた被塗物が通過すると塗料が塗布されます。

図13.4.6 カーテンフローコータ塗装の原理

作業効率が良好で、合板やスレート板などの平板の連続塗装に適します。

一方短所は、

(1)曲面を有する被塗物では濡れない箇所が生じる。
(2)塗膜を薄くできない。

などがあります。

 

1.5 ディッピング塗装

ディッピング塗装とは、被塗物を塗料槽に浸漬後引き上げて乾燥させる方式です(図13.4.7)。

図13.4.7 ディッピング塗装

塗料ロスが少なく、設備が簡単である一方、タレや流れがあり、膜厚が上下で不均一になる欠点があります。

 

1.6 電着塗装

電着塗装とは、電着用塗料(水溶性)を入れたタンクに被塗物を浸漬して、被塗物を陽極にして陰極との間に直流電流を通電させて、被塗物表面に塗料を付着させて塗膜を形成させる塗装方法です(図13.4.8)。

図13.4.8 電着塗装装置

電着塗装の機構

電着塗装の基本機構を図13.4.9 に示します。電着用塗料中に正負両極を差し込み、直流電圧を印加すると、以下の過程により塗膜を形成します。

1)塗料浴中で、荷電を持っている塗膜形成成分(樹脂や、顔料)が陽極(被塗物)へ移動する(a)。
2)塗膜生成成分が陽極表面で電荷を消失して凝着する(b)。
3)凝着した塗膜から電気浸透により脱水する(c)

所定時間後通電を止めて、被塗物を水洗して不要な塗料を除去した後、乾燥させ、さらに焼付けると加熱により樹脂成分が流動して、多孔質塗膜は目つぶしされて防錆力を発揮するようになります。

図13.4.9 電着塗装の基本機構

2. スプレー塗布

2.1 エアスプレー塗装

エアスプレー塗装は、塗料を霧状にして塗装する噴霧方法の一種でもっとも古くからある方法です。塗料を高速の空気流に衝突させて霧化します。

液体の塗料とコンプレッサから供給される圧縮空気とが混合させます。塗料に対する空気の容積比が大きいほど塗料粒子は小さくなり、仕上がりの外観は良好になります。一般的に使用されるスプレーガンは外部混合式(図13.4.10)です。

図13.4.10 外部混合式スプレーガンの塗料霧化機構

塗料の霧化は、空気キャップ部により行われます。空気キャップには、中心空気穴および補助空気穴、側面空気穴(角部)があります。中心空気穴から噴き出したエアーの負圧作用によりガンの出口(塗料ノズル)から出た塗料がガンの外部で霧化され塗料の微粒子が丸形のパターンを形成します。さらに側面空気穴から噴出する空気でスプレーパターンを楕円形に押しつぶします。スプレーガンの移動方向は側面空気穴のある角の方向になります。

噴霧粒子が小さいほど、一般に塗装面の鏡面光沢度は高くなりますが、跳ね返りによる塗料の損失も増加するので、ある程度の粒子径になるようにエア圧を設定します。

 

2.2 エアレススプレー塗装

エアレススプレー塗装は、圧縮空気を使用しない吹き付け塗装です。ハイドラスプレーともいいます。塗料にプランジャポンプなどで高圧(10~30MPa)を与えて、細いノズルから噴出、霧化させて塗装します。
溶剤を使用しないので、塗料のはね返りが少ないため塗料に無駄がありません。また、高粘度の塗料を使用できるので、厚い塗膜を付着させることができますので重防食塗装に有効です。ただし、仕上げ程度はエアスプレーよリ劣ります。

塗料は、楕円形の開口部を持つノズルチップから、高圧の液膜として射出されます(図13.4.11)。最初は扇形状に進みますが、液膜の先端部は空気との衝突により速度が低下する一方、塗料は連続的に押し出されますので、液膜は波を打ち出します。波を打った液膜はさらに周りの空気より大きな抵抗を受けて分裂が起こり、最終的には微細な液滴となって霧化します

図13.4.11 エアレススプレーによる塗料の霧化原理

 

2.3 静電スプレー塗装

エアスプレー、エアレススプレーによる噴霧粒子を、スプレーガン先端に取り付けたコロナピンに高電圧(-30~-100 kV)を印加して、塗装粒子をマイナスに帯電させて静電気による引力で、接地された被塗物に付着します(図13.4.12)。
塗装効率はエアレススプレーより向上します。

図13.4.12 静電エアスプレーの原理とエアスプレーとの比較

3.静電塗布

3.1 静電塗装

マイナスの高電圧(-90kV程度)に印加された円盤もしくは円筒形のカップを高速回転させて、中央部に塗料を供給して、遠心力で塗料を薄く引き伸ばし、外周/外縁からマイナスに帯電した霧化粒子として放出させ、被塗物に付着させます。静電エアスプレー式よりさらに塗着効率が向上します。仕上がり外観もきれいです。図13.4.13に円筒カップ回転方式に分類されるベル型静電塗装機の霧化機構を示します。

図13.4.13 ベル型静電塗装機の霧化機構

4. 粉体塗布

4.1 溶射法

粉体塗装の溶射法は、金属粉末の代わりにポリエチレンやナイロンなどの熱可塑性樹脂粉末塗料によく用いられます。溶射から発達した技法です。エポキシなど熱硬化性樹脂を用いる場合は、溶射後に焼付け再加熱して塗装皮膜を再溶融する必要があります。

溶射機には、ガス溶射機やプラズマジェット溶射機などがあります。図13.4.14 にガス溶射機、図13.4.15にプラズマジェット溶射機の構造を示します。

ガス溶射機では、酸素とアセチレンガスもしくはプロパンガスとを燃焼させて、2000~3000℃の高温炎を発生させます。この炎を包み込むように圧縮空気を噴射させて、炎の長さ調整と粉体塗料の酸化を防止します。炎の中心に粉体塗料を圧送して、溶融もしくは半溶融状態で被塗物に吹き付けられます。
通常は、塗料に密着性を高めるために、被塗物を100~200℃に予熱したり、溶射後に表面を加熱して再融解させて平滑な塗膜を仕上げます。本方法は焼付け炉が不要なので、化学装置のライニングや、大型構造物、屋外作業などが可能になります。

プラズマジェット溶射は、ガン内部で発生させた直流アークに不活性ガスを導入してプラズマを発生させます。この高温プラズマを中に、粉末塗料を供給して、加熱溶融してプラズマジェットに載せて、被塗物に衝突させ塗膜を形成させます。

図13.4.14 ガス溶射機の構造

図13.4.15 プラズマジェッ溶射機の構造

 

4.2 静電粉体吹付法

静電粉体吹付塗装は、接地した被塗物と粉体塗料の吹付けガンとの間に、30~90kVの直流電圧を印加してします。粉体塗料を吹き付けガンから空気力によって噴射すると、空気中に分散した塗料粒子が、ガン出口で発生するコロナ放電により荷電され、静電力と空気流により被塗物に到達して、静電気力により被塗物に吸着/成膜します。

 

4.3 流動浸漬法

多孔板を底に敷いたタンクに粉体塗料を入れて、圧縮空気もしくは不活性ガスを底部より吹き込むと、粉体塗料が浮き上がって流動状態になり流動層を形成します(図13.4.16)。

この流動層に、粉末塗料の溶融温度以上に加熱した被塗物を浸漬すると、被塗物の表面に接触した粉末塗料は溶融状態もしくは半溶融状態で塗膜を形成します。必要に応じて後加熱して仕上げます。

流動浸漬法の塗装要因は、被塗物の予熱温度や、浸漬時間、被塗物の形状・熱容量、塗料の粒度(一般には50~150μm)、融点などがあげられます。塗膜厚さを決定する要因は浸漬時間で通常は5~20秒です。膜厚は1コートで250~1500μm程度の厚膜が得られます。

一般に粉体塗装塗膜は、やや仕上がり外観が劣ります。

図13.4.16 流動浸漬法の原理

 

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参考文献
機械工学便覧 第6版  β02-05章   日本機械学会
トコトンやさしい塗料の本 中道俊彦/坪田実   日刊工業新聞社
塗装実務読本 第2版  副島啓治他  日刊工業新聞社
塗料と塗装の知識  関西ペイント  S54.6
塗料・塗装の基礎知識4  イプロス
MISUMI-VONA 技術資料 溶射法  https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/surface_treatment_technology/st01/c1771.html

 

引用図表
表13.4.1 各種塗装方法の特徴と用途  機械工学便覧他
表13.4.2 はけの種類と特徴   塗料と塗装の知識
図13.4.3 はけ塗りの基本動作   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.4 ローラブラシの運行順序   塗装実務読本 第2版
図13.4.5 ロールコータ塗装   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.6 カーテンフローコータ塗装   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.7 ディッピング塗装   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.8 電着塗装装置    日本工業塗装協同組合連合会  平成24年1月
図13.4.9 電着塗装の基本機構   塗料と塗装の知識
図13.4.10 外部混合式スプレーガンの塗料霧化機構  塗料・塗装の基礎知識4
図13.4.11 エアレススプレーによる塗料の霧化原理   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.12 静電エアスプレーの原理とエアスプレーとの比較   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.13 ベル型静電塗装機の霧化機構   トコトンやさしい塗料の本
図13.4.14 ガス溶射機の構造    MISUMI-VONA 技術資料 溶射法
図13.4.15 プラズマジェッ溶射機の構造    MISUMI-VONA 技術資料 溶射法
図13.4.16 流動浸漬法の原理  参考;MISUMI-VONA 技術資料 流動浸漬法

 

ORG:2020/03/12