8.3 アルミニウムの陽極酸化

8.3  アルミニウムの陽極酸化(anodizing of aluminum)

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1.アルミニウム陽極酸化工程

一般的なアルミニウムの陽極酸化工程を、図8.3.1 に示します。[ ]工程は必要に応じて行い、場合によっては省略することが出来ます。

図8.3.1 アルミニウム陽極酸化工程

 

2.アルミニウムの陽極酸化の長所

陽極酸化処理が有効に行えるか否かは、酸化物の性質と構造に関係します。Alのようなイオン化傾向の大きい金属に対して陽極酸化処理が有効な理由は、

(1)Al2O3が、化学的に非常に安定な化合物である。

(2)Al2O3が、絶縁性物質である。

(3)Al2O3は、格子欠陥の無い成長しにくい保護皮膜を生成する酸化物で、酸素を過剰に含まないこと。

等によります。

例えば、Alは3価だけですので、同じ3価のFeの化合物であるFe2O3のように、腐食液に浸漬したときにFeOに還元されて溶解することがありません。さらに、絶縁性物質ですので腐食時の陰極になることもありません。

また、TiやZrの絶縁皮膜は酸素の溶解度が比較的大きいので耐高圧誘電皮膜にはなりませんが、Alにはそのような欠点はありません。

 

3.アルミニウムの陽極酸化機構

Alの陽極酸化機構は次のようになると考えられます。

3.1 初期段階

(1)Alは、イオン化傾向の大きい金属ですので、酸性溶液中で陽極にするとAl3+として溶解します。

(2)ただし、Al(OH)3=Al2O3・3H2Oの溶解度積は非常に小さい([Al3+][OH]3=3.1×10-18)ので、陽極に接している溶液の酸性が少し減ると容易に沈殿して、陽極面を覆いさらなる溶解を妨げます。

(3)しかし、水分を含んだコロイド状の水酸化物層はまだ導体ですので、マイナスイオンの放電が起こります。放電した原子状酸素の一部は結合して酸素ガスとなるが、一部は拡散してAl面に達してAl2O3の絶縁皮膜を生成し、水酸化物皮膜と置換します。つまり、溶解は瞬間的に行われますが、すぐに絶縁皮膜を生じて溶解しなくなります。

3.2 陽極酸化皮膜の成長

初期段階を過ぎた後の皮膜の成長の仕方を知るために、皮膜の電気的な性質を考えてみましょう。図8.3.2は、電解開始直後の電流・電圧の変化と皮膜厚さの時間的成長を示しています。

図8.3.2 電解開始直後の電流・電圧の変化と皮膜厚さの時間的成長

一定の電流密度で電解する場合、電圧はスイッチをONにした瞬間に急激に上昇した後、緩やかに上昇してから、一定値になります。はじめの小さい極大値に達するまでの時間と電流密度の積すなわち電気量は一定です。また、一定電圧で電解すると電流は、スイッチをONした瞬間に急激に低下して後、緩やかに下降して、終にはほぼ一定の漏洩電流に落ち着きます。

何れの場合も、皮膜厚さは時間の経過とともに厚くなっていきます。例えば、80Vの浴電圧を示す皮膜を乾燥すると耐電圧が2000~3000Vになりますが、電解液中の戻すとやはり80Vの浴電圧を示します。この結果から皮膜は電解液が浸み込んでほとんど電圧を負担できない部分と、電流を阻止して浴電圧の大部分を負担している極めて薄い薄膜部分とからなることが推定されます。この浴電圧を負担する部分は堰層と呼ばれる皮膜で、これを活性層と名付けています。この活性層の厚さは浴電圧に比例します。

図8.3.3にAlの陽極酸化被膜の生成の様子を示します。Alの表面の活性層ができるに従い、電解液に浸食されて多数の穴が開きます。穴の中には電解液が侵入してAl面には絶えず活性層が新たに生成します。一方、多孔性層は次第に厚くなります。電流は抵抗が最も小さい個所を通ります。陽極酸化により生成される穴の深さ方向は電流が通る方向に一致するので、穴はAl面に垂直になります。

図8.3.3 Alの陽極酸化被膜の構造と生成の模式図

 

4.アルミニウムの陽極酸化法の代表例

現在、工業的に実施されているアルミニウムの陽極酸化法を、表8.3.4 に示します。これらの内、硫酸法が最も広く行われており、これに次いで硫酸・しゅう酸法が多く行われています。

表8.3.4 Al陽極酸化法の代表的例

陽極酸化は、皮膜の抵抗が大きく、また酸素が発生する電位にならないと陽極酸化は行えないので、電解電圧は電気めっきよりずっと高い電圧になります。得られる陽極酸化被膜は、無定形もしくは極微結晶(γ-Al2O3)のアルミナで数%の水分を含んでいます。これは、Al2O3・H2O或いはAlOOHとして混在していると考えらえています。この他電解液成分も少量含んでいます。

電流の付加方法には直流、交流だけではなく、直流と交流とを重畳する方法があります。直流だけでは皮膜は厚くなりますがピッチングが起こりやすいです。一方交流だけではなくピッチングは避けられますが皮膜は厚くなりません。交流と直流の両方を付加すると、ピッチングを起こさずに平均陽極電流を増すことで短時間に皮膜を厚くすることが出来ます。

 

5.封孔処理

陽極酸化被膜は、そのままでは多孔性ですので、通常は封孔処理が行われます。封孔処理というのは皮膜にある無数の穴内部に、ベーマイトと呼ばれるアルミナの水和酸化物(γ-Al2O3・H2O)層を生成・析出させることにより皮膜表面を化学的に不活性な状態にする処理のことを言います。封孔処理には沸騰水封孔処理や、加圧水蒸気封孔処理、酢酸ニッケルや酢酸コバルトなどの金属塩による金属塩封孔処理などがあります。

図8.3.5 に、シュウ酸中で精製した陽極酸化皮膜を封孔処理した皮膜の断面を示します。

図8.3.5 Alの陽極酸化被膜封孔処理による皮膜断面

 

6.着色処理

陽極酸化被膜は、処理を行う電解液によってもわずかに着色する場合がありますが(硫安皮膜は無色透明、シュウ酸皮膜は黄色透明)、色を要求される場合には陽極酸化処理後に着色処理を行います。

着色には、金属化合物を析出させる電解着色法や、無機或いは有機染料による染色法などが利用されます。一般的にはカラーアルマイトと呼ばれています。なお、着色処理後は封孔処理が実施されます。

 

 

 

参考文献
表面処理  日本金属学会  1961
金属防蝕技術便覧 新版  腐食防食協会  日刊工業新聞社 1978
陽極酸化皮膜  現場のための材料解析入門   日本電子株式会社

 

引用図表
図8.3.1 アルミニウム陽極酸化工程  金属防蝕技術便覧
図8.3.2 電解開始直後の電流・電圧の変化と皮膜厚さの時間的成長  表面処理
図8.3.3 Alの陽極酸化被膜の構造と生成の模式図   表面処理改
表8.3.4 Al陽極酸化法の代表的例   表面処理改
図8.3.5 Alの陽極酸化皮膜封孔処理による皮膜断面    陽極酸化皮膜

 

 

ORG:2019/9/1