2.熱伝導

A.単位操作
2.伝熱・熱交換器(heat transfer, heat exchanger)
2.1 伝熱(heat transfer)
2.熱伝導(heat conduction)
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1.熱伝導の基本法則
物体の温度\(T(K)\)の微小面\(\delta A(m^{2})\)を単位時間当たり通過する熱量\(Q(J/s=W)\)は、熱の流れる方向(微小面の法線方向)に沿った温度こう配に比例します(図A.2.1.2.1)。
図A.2.1.2.1 熱伝導の基本法則
\(Q=-\lambda \displaystyle \frac{ \partial T }{ \partial n } \delta A\) (式A.2.1.2.1)
(式A.2.1.2.1)の関係をフーリエの法則(Fourier’s law)といいます。
ここで、\( \lambda \)は熱伝導率\((W/(m・K))\)と呼び、実験により求められる物質固有の値です。
熱伝導とは、分子どうしの衝突により、分子がもつ運動エネルギーが拡散して、高温部から低温部へと運動エネルギーが伝わる現象をいいます。基本的には、分子・原子の並進、回転、振動エネルギーにより伝わります。
2.熱伝導率
一般的には、分子間の平均自由行程(mean free path)が小さいほど小さいほど熱伝導率の値は大きくなります。したがって、気体<液体<固体に熱伝導率の値は大きくなります。色々な物質の熱伝導率の温度依存性を示します(図A.2.1.2.2)。
図A.2.1.2.2 いろいろな物質の熱伝導率
気体の場合、分子同士の衝突と関連性のある粘性率\( \mu \)に依存します。理想気体に近い状態では、
\( \lambda =c_{ p } \mu \displaystyle \frac{ 9 \gamma -5}{ 4 \gamma }\) (式A.2.1.2.2)
ここで、
\( c_{ p }\):定圧比熱 \((J/(kg・K))\)
\( \mu \):粘性率 \((Pa・s)\)
\( \gamma \):比熱比
です。
希薄気体の場合は、平均自由行程が大きくなり、分子同士が衝突するよりも容器の壁面に直接衝突する際に吸収されるエネルギーの方が支配的になります。
液体の場合、熱伝導率は分子同士が近接しているため平均分子間距離\( l(m)\)、流体中の音速\( v_{ s }(m/s)\)に依存し、
\( \lambda = 0.28k v_{ s } l^{-2}\) (式A.2.1.2.3)
\( v_{ s } = \displaystyle \sqrt{ \frac{ c_{ p }}{ c_{ v }} ( \frac{ \partial p }{ \partial \rho })_{ T }}\) (式A.2.1.2.4)
程度になります。
ここで、
\( k \):ボルツマン定数 \((J/K)\)
です。
固体の場合、熱伝導率は導電性によりエネルギー伝播の支配的な要素が異なります。
・非金属で結晶体の場合、結晶格子の多自由度振動によるエネルギー伝達の寄与が大きくなります。
\( \lambda =\displaystyle \frac { 1 }{ 4 } c \rho v l_{ d }\) (式A.2.1.2.5)
ここで、
\( \rho \):固体の密度 \((kg/m^{ 3 })\)
\( v \):熱弾性波の平均伝播速度 \((m/s)\)
\( c \):固体の比熱 \((J/(kg・K))\)
\( l_{ d }\):熱弾性波が最初の\( 1/e\)倍まで減少する距離\((m)\)
・非金属で非結晶体の場合、熱弾性波の散乱が極めて強いですので、熱伝導率の値は低くなります。
・純金属の良導体の場合、自由電子によるエネルギー輸送が支配的になり、次式に示すヴィーデマン・フランツ・ローレンツ(Wiedemann-Franz-Lorenz)の法則がほぼ成立します。
\( \displaystyle \frac{ \lambda }{ \sigma T }=L=2.43×10^{ -8 } (W・ \Omega・K^{ -2 })\) (式A.2.1.2.6)
ここで、
\( T \):絶対温度 \((K)\)
\( \sigma \):導電率 \((\Omega^{ -1 }・m^{ -1 })\)
\( L \):ローレンツ数(Lorenz number)
低温域では分子間距離が小さくなるので、一旦熱伝導率は上昇します。極低温域になると、非結晶体の格子構造による特徴が現れて、熱伝導率が急激に低下します。
・液体金属の場合は、結晶体でないため、熱伝導率は固体金属より低くなります。
・合金など異物質を含む場合は、(式A.2.1.2.6)よりかなりずれます。
図A.2.1.2.3 から 図A.2.1.2.5 に別の文献からの熱伝導率のグラフを示します。
図A.2.1.2.3 気体の熱伝導率
図A.2.1.2.4 液体の熱伝導率
図A.2.1.2.5 固体の熱伝導率
3.熱伝導方程式
フーリエの法則(式A.2.1)を用いて、物体まわりの熱伝導の三次元微分方程式を立てると、
\( \rho c \displaystyle \frac{ \partial T }{ \partial t } = \displaystyle \frac{ \partial }{ \partial x } ( \lambda \frac{ \partial T }{ \partial x }) + \displaystyle \frac{ \partial }{ \partial y } ( \lambda \frac{ \partial T }{ \partial y }) + \displaystyle \frac{ \partial }{ \partial z } ( \lambda \frac{ \partial T }{ \partial z }) \) (式A.2.1.2.7)
ここで、
\( c \):比熱 \((kJ/(kg・K))\)
対象温度範囲内で物性値に温度依存性が無いとすると、(式A.2.1.2.7)は
\( \displaystyle \frac{ \partial T }{ \partial t } = a \nabla^2 T\) (式A.2.1.2.8)
となります。
ここで、
\( \nabla^2 \):ラプラシアン \(( =\displaystyle{ \frac{ \partial^2 }{ \partial x^2 } + \frac{ \partial^2 }{ \partial y^2 } + \frac{ \partial^2 }{ \partial z^2 }})\)
\( a \):温度伝導率\((= \lambda / \rho c;m^2/s:thermal diffusivity)\)
となります。
\( \nabla^2 T \)は、直交座標系、円筒座標系、極座標系ではそれぞれ、
\( \nabla^2 T = =\displaystyle{ \frac{ \partial^2 T }{ \partial x^2 } + \frac{ \partial^2 T }{ \partial y^2 } + \frac{ \partial^2 T }{ \partial z^2 }}\) (式A.2.1.2.9)
\( \nabla^2 T = =\displaystyle{ \frac{ \partial^2 T }{ \partial r^2 } + \frac{ 1 }{ r } \frac{ \partial T }{ \partial r } + \frac{ 1 }{ r^2 } \frac{ \partial^2 T }{ \partial \phi ^2 } + \frac{ \partial^2 T }{ \partial z^2 }}\) (式A.2.1.2.10)
\( \nabla^2 T = =\displaystyle{ \frac{ \partial^2 T }{ \partial r^2 } + \frac{ 2 }{ r } \frac{ \partial T }{ \partial r } + \frac{ 1 }{ r^2 } \frac{ \partial^2 T }{ \partial \phi ^2 } + \frac{ cos \theta }{ r^2 sin \phi } \frac{ \partial T }{ \partial \phi } + \frac{ 1 }{ r^2 sin^2 \phi } \frac{ \partial^2 T }{ \partial \varphi^2 }}\) (式A.2.1.2.11)
図A.2.1.2.6 色々な座標の取り方
単位面積、単位時間当たりに一様な発熱\(H (W/m^2)\)がある場合は、
\( \displaystyle \frac{ \partial T }{ \partial t } = a \nabla^2 T + \displaystyle \frac{ H }{ c \rho } \) (式A.2.1.2.12)
となります。
4.温度伝導率
温度伝導率\( a \)は、定常状態では考慮する必要はありませんが、非定常状態では重要です。
(式A.2.1.2.7)から、微小物体の温度変化は熱伝導率\( \lambda \)に比例し、微小物体の熱容量\( \rho c \)に反比例します。温度伝導率は温度波の伝播速度に関係する値です。この値が大きいほど物体の温度変化が大きくなります。
5.定常熱伝導
物体を加熱または冷却する場合、ある状態から出発して無限に長い時間を経過した後には、物体内の温度分布は一定の平衡状態に達して時間に無関係な状態になります。このような状態における温度分布や熱流量などを求めることを、定常熱伝導を解くといいます。定常熱伝導状態では、\( \partial T/ \partial t = 0\)なので、
\( \nabla^2 T = 0 \) (式A.2.1.2.13)
を解くことに帰着します。
ここでは、定常一次元熱伝導について考えます。
(式A.2.1.2.1)から
\(Q=-\lambda \displaystyle \frac{ dT }{ dn } A(n) = 一定 \)
(式A.2.1.2.14)
となります。
片方の面の座標および温度を\( x_{ 1 }\)または\( r_{ 1 }\)、\( T_{ 1 }\)、もう片方の面を\( x_{ 2 }\)または\( r_{ 2 }\)、\( T_{ 2 }\)とすると、直交座標、円筒座標、極座標では、それぞれの伝熱面は、\( A(x)=A\),\( A(r)=2 \pi rl\),\( A(r)=4 \pi r^2\)になります。
(式A.2.14)をそれぞれの境界条件で積分すると、
\( Q= \displaystyle \frac{ (T_{ 2 } – T_{ 1 }) }{ R } \)
(式A.2.1.2.15)
の形で表されます。(式A.2.1.2.15)からわかるように、熱伝導の推進力は温度差\( (T_{ 2 } – T_{ 1 })\)です。
ここで、\(R (K/W)\)は熱抵抗と呼ばれ、それぞれの座標系では
直交座標: \( R= \displaystyle \frac{ \Delta x}{ \lambda A} \)
円筒座標: \( R= \displaystyle{ \frac{ 1 }{ 2 \pi l \lambda } \ln ( \frac{ r_{2} }{ r_{ 1 }})} \) (式A.2.1.2.16)
極座標: \( R= \displaystyle{ \frac{ 1 }{ 4 \pi \lambda } ( \frac{ 1 }{ r_{ 1 } } – \frac{ 1 }{ r_{ 2 }})} \)
(式A.2.1.2.15)の関係と同等の関係は色々な場でも見出すことが出来ます。、電気回路のオーム(Ohm)の法則(推進力:電位差)および、流体の粘性流れについてのニュートン(Newton)の法則(推進力:流速差)。物質の拡散についてのフィック(Fick)の法則(推進力:濃度差)などがあり、複合物質などの場合に広く用いられます。
6.非定常熱伝導
一方、平衡状態に到達する前の状態のように、温度分布が時間とともに変化する場合や、あるいは周期的な加熱・冷却の場合のように、\( \partial T/ \partial t ≠ 0\) の場合は、(式A.2.1.2.9)~(式A.2.1.2.11)の一般基礎式を解く必要があります。特別な場合は解析的な手法で解ける場合もありますが、多くの場合、数値解法で解を得ます。
(本項は、後日追加予定です。:2020/8/15)
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参考文献
化学工学 改定第3版 多田 豊編 朝倉書店
機械工学便覧 第6版 α05-04章 日本機械学会
伝熱工学資料改定第3版 日本機械学会
引用図表
図A.2.1.2.1 熱伝導の基本法則 伝熱工学資料
図A.2.1.2.2 いろいろな物質の熱伝導率 機械工学便覧
図A.2.1.2.3 気体の熱伝導率 化学工学
図A.2.1.2.4 液体の熱伝導率 化学工学
図A.2.1.2.5 固体の熱伝導率 化学工学
図A.2.1.2.6 色々な座標の取り方 参考:機械工学便覧
ORG:2020/8/15