気体の状態方程式
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気体の状態方程式(gas law)
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気体は同じ流体である液体と比較して、圧力・温度に対する体積変化が大きいです。化学プラントでは流体操作が主となるので、気体に対する\(P-V-T\)の関係は重要になります。一定量の気体の状態は、圧力\(P\)、体積\(V\)、温度\(T\)の3つの内、任意の2つを指定すると一意に決まります。この関係を示したものが状態方程式といわれるものです。
1.理想気体
ボイル(英:Sir Robert Boyle)は、「温度が一定の条件で、一定量の気体の体積は圧力に反比例する」という、ボイルの法則を発見しました。
シャルル(仏:Jacques Alexandre César Charles)とゲイ-リュサック(仏:Joseph Louis Gay-Lussac)は、「圧力が一定条件で、一定量の気体の体積は絶対温度に比例する」の関係を発見しました。シャルルが先に発見していたので現在ではシャルルの法則とよばれています。
また、アボガドロ(伊:Lorenzo Romano Amedeo Carlo Avogadro)は、「同一圧力、同一温度、同一体積のすべての種類の気体には同じ数の分子が含まれる」ことを明らかにしました。これをアボガドロの法則といいます。
これらの関係から、理想気体の状態方程式(1)が求められました。すなわち、\(n\)モルの気体の\(P-V-T\)関係は、
\(PV=nRT\) あるいは \(PV_{ m }=RT\) (1)
ここで、
\(V_{ m }\):モル体積(\(=V/n)\))
\(R\):ガス定数(\(=8.314 J/(mol・K)\))
です。
2.実在流体
2.1 van der Waals(ファンデルワールス) の状態方程式
理想気体の状態方程式(1)は、低圧・高温の条件では、実在気体でも成立しますが、温度が低くなるほど、また高圧になるほど、この式からのずれが大きくなります。
van der Waals は、ずれの原因が分子間力と気体分子自身が占める体積(排除体積)を無視していることにあると考えて、実在気体の状態方程式として、式(1)の左辺\(P,V\)にそれぞれ補正項を付加した、van der Waals の状態方程式(2)を示しました(1873年)。
\((P+\displaystyle \frac{a}{V_{ m }^2})(V_{ m }-b)=RT\) (2)
もしくは
\(P=\displaystyle \frac{(RT)}{V_{ m }-b}-\displaystyle \frac{a}{V_{ m }^2}\) (3)
ここで、\(a,b\)は気体の種類によって値が異なる定数です。
これらの値は臨界定数の値(添字:c)を用いて、
\(a=\displaystyle \frac{27R^2 T_{ c }^2}{64 P_{ c }}\)
(4)
\(b=\displaystyle \frac{RT_{ c }}{8P_{ c }}\)
と算出出来ます。これらをvan der Waals定数といいます。
van der Waals の状態方程式(3)から、モル体積 \(V_{ m }\)と温度\(T\)が決まると圧力\(P\)は容易に求まります。
また、\(P\)と\(T\)とから\(V_{ m }\)も解析的に求めることが出来、気液2相領域と臨界点を表すことが出来ます。
ただ実際の\(P-V-T\)関係のデータとはあまり一致せず、特に高密度領域での誤差が大きくなります。
表1に、主な気体の臨界定数とファンデルワールス定数を示します。
表1 主な気体の臨界定数とファンデルワールス定数 (frm Wikipedia)
van der Waals の状態方程式の意義は、理想気体の状態方程式との関連性と、補正項の物理的意味の明快さを、近似的ではありますが実在気体の性質を初めて数式で示したことにあります。
2.2 Redlich-Kwong(レドリッヒ-クオン)の状態方程式
van der Waals の状態方程式で示される\(P-V-T\)の関係の精度を改善するために、色々な修正が提案されています。
本項で紹介するRedlich-Kwongの状態方程式は、van der Waals の状態方程式の\(V_{ m }\)の3次方程式である特徴を残しています。Redlich-Kwongの状態方程式では、(3)式の第2項である分子間引力による補正項の表現を改善しています。比較的精度の高い状態方程式として知られています。
\(P=\displaystyle \frac{RT}{V_{ m }-b}-\displaystyle \frac{a}{T_{ m }^{1/2}V_{ m }(V_{ m }+b)}\) (5)
ここで、臨界定数の値(添字:c)を用いて、
\(a=0.4278 \displaystyle \frac{R^2 T_{ c }^{2.5}}{P_{ c }}\)
(6)
\(b=0.0867 \displaystyle \frac{RT_{ c }}{P_{ c }}\)
と算出出来ます。
さらに、式(5)を用いて、気液平衡状態をあらわせるようにするために新しい式が提案されています。
Soave-Redlich-Kwong の状態方程式(1972年)は、式(5)の第2項に分子形状の影響を表す偏心因子\(\omega\) の影響を付加しています。
Peng-Robinsonの状態方程式(1976年)についても、式(5)の第2項が異なっています。
これらの式は、\(P-V-T\)関係や気液平衡の計算に使用されています。
2.3 Virial(ビリアル)の状態方程式
実在気体では、理想気体の状態方程式では正確に表せないことについてはすでに述べました。ここで理想気体の状態方程式から圧縮因子\(Z\)を、次式のように定義します。
\(Z=\displaystyle \frac{PV}{nRT}\) もしくは \(Z=\displaystyle \frac{PV_{ m }}{RT}\) (7)
理想気体では常に\(Z=1\)ですが、実在気体では、高圧の場合は\(Z\)の値が1より大きくなり、圧縮し難くなります。一方低圧側では、分子間力の作用で\(Z\)の値は1より小さくなります。つまり圧縮因子\(Z\)は圧力や体積により変化します。図2に実在の気体について圧力をパラメータにして\(Z\)をプロットしたものを示します。
図2 実在気体の圧縮因子
圧縮因子の変化を記述するためにモル体積\(V_{ m }\)の逆数で展開することがあります。
\(Z=\displaystyle \frac{PV_{ m }}{RT}=1+\displaystyle \frac {B}{V_{ m }}+\displaystyle \frac{C}{V_{ m }^2}+・・・\) (8)
この展開を、Virial(ビリアル)展開といいます。
このときの\(B,C,…\)は、第2ビリアル係数、第3ビリアル係数と呼ばれます。
Virial(ビリアル)の状態方程式は、理想気体の状態方程式からの偏差をVirial(ビリアル)展開により示した式をいいます(式(9))。
\(PV_{ m }=RT(1+\displaystyle \frac {B}{V_{ m }}+\displaystyle \frac{C}{V_{ m }^2}+・・・)\) (9)
2.4 圧縮因子を補正係数として状態方程式
式(8)に示される\(Z\)を補正係数として、理想気体の状態方程式に導入すると、実在気体に対する状態方程式は、
\(PV_{ m }=ZRT\) (10)
として、簡単に表されます。
圧縮因子\(Z\)は、気体の種類や、温度、圧力により変化しますが、臨界点に対する比をとった。対臨界温度\(T_{ r }(=T/T_{ c })\)、対臨界圧力\(P_{ r }(=P/P_{ c })\)を用いると、多くの気体では種類に関係なく図3に示すように表現ができます。この線図を\(Z\)線図といいま す。この線図より\(Z\)を求めて、Virial(ビリアル)の状態方程式により実在気体の物性を推定することが出来ます。
現在では、プログラムに組込みが容易なRedlich-Kwongの状態方程式などの方がよく用いられます、
図3 圧縮因子Z線図
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参考文献
化学工学 改定第3版 多田 豊編 朝倉書店
千葉大学 工学部 共生応用化学コース 野本先生HP
http://spectra.nomoto.org/2017/12/31/4-2-%E5%AE%9F%E5%9C%A8%E6%B0%97%E4%BD%93%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%85%8B%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F/(http://spectra.nomoto.org/2017/12/31/4-2-実在気体の状態⽅程式/)
広島市立大学 情報科学部 情報機械システム工学科 石渡 孝先生 講義資料
http://regulus.mtrl1.info.hiroshima-cu.ac.jp/ishiwata/frame/lectures/chem/10%20gas.pdf
引用図表
表1 主な気体の臨界定数とファンデルワールス定数 Wikipedia
図2 実在気体の圧縮因子 石渡 孝先生 講義資料
図3 圧縮因子Z線図 化学工学 改定第3版
ORG:2020/8/10