A3.2 軸封装置

A3.2 軸封装置(shaft seal device)

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1.軸封装置とは

ケーシング内の液体を外部から駆動したり、液体が発生する機械的動力を外部に取出すために回転軸もしくは往復軸が必要です。このような機械的動力を伝達するための軸は、特殊なポンプ以外は少なくとも1か所でケーシングを貫通することにより、動力を外部と授受します。この軸が貫通する部位でケーシング内部の液体が外部に漏洩したり、外部から液体がケーシング内に侵入するのを防ぐものを軸封装置といいます。潤滑性のある液体と、潤滑性の無い気体とでは軸封装置の構造が異なります。本コンテンツでは、液体の場合の軸封装置のみを取扱います。

 

2.液体の場合の軸封装置

軸封装置には、漏洩量を制限する方式と、シールレス方式とに大別されます(図A3.2.1)。

漏洩量を制限する方式には、グランドパッキンおよび、メカニカルシール、フローティングシール、オイルシールなどがあります。

一方、シールレス方式には、キャンドモータポンプや、ダイヤフラムポンプ、磁性クラッチも用いて駆動する方式などがあります。

図A3.2.1は、軸封装置の種類をまとめたものです。

図A3.2.1 軸封装置の種類

 

3.漏洩量を制限する方式の軸封装置

漏洩量を制限する軸封装置には、グランドパッキンおよびメカニカルシール等があります。ターボポンプでは現在でも、水用ポンプの割合が大きく軸封装置としてはグランドパッキンがよく使われています。比較的安価で、漏れ量も多くの場合気にならないと思われます。ただ漏らし量の調整が意外と難しく少なすぎると、パッキンの損耗量が多くなります。また、時間の経過とともに漏れ量は増加するので定期的な締付けの調整が必要です。

本サイトの管理者は、圧倒的に石油製品系の流体を取扱うポンプの設計が多く、多くの場合危険物であったり、毒物であったりしたので、ほとんどのポンプ設計ではメカニカルシールを適用していました。

本項では、グランドパッキンとメカニカルシール、およびターボポンプでは取扱液の密封にはあまり使用しないですが容積式油圧ポンプではよく使用されるオイルシール、油圧モータに使われることの多いフローティングシールについて簡単に記述したいと思います。

 

3.1 グランドパッキン(gland packing)

グランドパッキンは、軸がケーシングを貫通する部分にスタフィンボックス(パッキン箱:stuffing box)を設けその中に挿入される、四角く成形された紐状の軟質材をいいます。グランドパッキンは複数個スタフィンボックスに挿入され、パッキン押えで軸方向に押し付けられて軸を締め付けることにより、軸を伝わる圧力を持った液体をシールします(図A3.2.2.)。

図A3.2.2 グランドパッキンの取り付け方法

 

パッキン押えを強く締め付けるほど、グランドパッキンの軸への締め付け力が大きくなり漏洩量は減りますが、過度に締め付けると漏洩量は減少しますが、摩擦による発熱やグランドパッキン・軸の摩耗を早め、長期にわたる安定した軸封作用は望めません。一般的には、漏れ量は糸を引く程度と言われ、数値的には5~50cc/min程度が良いとされています(グランドパッキンがなじんだ状態で)。表A3.2.3は漏れの滴下数と年間の漏洩量を概算したものです。

表A3.2.3 漏れの滴下量と年間の漏洩量

 

1.グランドパッキンの材質

グランドパッキンは、ソフト、セミメタリック、メタリックの3種類があります。何れの場合も各種油性・乾性潤滑剤を添加したり、樹脂加工などを施して潤滑性を改善させます。

ソフトタイプは、基材として木綿や麻、PTFE、炭素繊維、アラミド繊維などがあります。セミメタリックは、ソフト繊維、粉末などに金属線や金属箔、金属粉末などを混ぜて、黒鉛や,MoS2、樹脂、油脂類を添加して成形します。ソフトタイプと比較して漏れ量は少なくなります。メタリックは、アルミニウムやリン青銅、バビット、ニッケル、銅などの線や箔を成形した環やブロックなどを用います。漏洩量は少なくできますが、耐振性に乏しく加熱しやすい欠点があります。

ソフトタイプでは、管理人が若いころは石綿を基材に使用したものが一般的でした。性能的には非常に優れていましたが、肺がんの要因となる問題が大きく取り上げられるようになり、使用禁止になりました。石綿の代替品として炭素繊維がグランドパッキンの基材や渦巻きガスケットのフィラー材などに広く用いられるようになりました。

 

2.グランドパッキンからの漏れ

軸径により異なりますが、グランドパッキンからの漏洩量は、軸になじんだ状態で 5~50cc/minと言われています。パッキン押えを強く締め付けて漏れを極端に制限すると発熱や摩擦損失を生じて焼付きに至る場合があります。図A3.2.4 に起動後の時間経過による漏洩量と摩擦トルクの変化を示します。

図A3.2.4 時間経過による漏洩量と摩擦トルクの変化

 

3.グランドパッキンの選定

グランドパッキンは、取扱流体との化学的適合性及び使用温度、圧力軸周速などを顧慮して、材質や種類を選定しなければなりません。さらにスタフィンボックスの構造を決定します。

スタフィンボックスからの漏洩量を減らすためには軸封部の圧力を低減させる必要があります。低減方法としては、

(1)羽根車の背面シュラウドとケーシングとの隙間を、0.3~1mm位の小さい値にする。

(2)羽根車に背羽根を設ける。

(3)羽根車にバランスホールを設ける。

(4)スタフィンボックス奥にスロートブッシュを設ける。

などがあります。

逆に軸封部分の圧力が負圧になる場合は、軸封部より吸気してポンピングできなくなったり、取扱液が供給されないことより乾燥摩擦になって焼損する恐れがあります。その対策として、グランドパッキンの間にランタンリングを設けて、ランタンリング部分に注液します。

取扱流体の温度が高い場合やPV値が高い場合は、摩擦熱によるグランドパッキンの摩耗や腐食を低減させるため、および軸受部への熱移動を低減するために、スタフィンボックス外側に冷却ジャケットを設けたり、外部から低温液を注入します。

取扱流体が漏れると発火の恐れがあったり固化したりする場合は、冷却(保温)や洗い流しを目的として外部液をグランド押さえに清浄な外部液を注入します。これをクウェンチングといいます。

 

4.グランドパッキンの構成

スタフィンボックスに収められたグランドパッキンの構成には主として図A3.2.5に示すように3種類が考えられます。どの形式を選択するかについては、表A3.2.6の選定基準を用います。

ここで外部フラッシングとは、ポンプの取扱流体の混合しても問題ない正常な液をポンプ外部より注入することをいいます。外部フラッシング液の圧力はスタフィングボックス内の圧力より高くする必要があります。

図A3.2.5 グランドパッキンの構成

表A3.2.6 グランドパッキンの選定基準

 

5.参考資料

(1)ポンプ軸径とグランドパッキンの寸法 (出典:Pump handbook 4th ed)

表A3.2.7 軸径に対するグランドパッキン寸法

(2)主要なグランドパッキンの材質と使用限界 (出典:Pump handbook 4th ed)

表A3.2.8 主なグランドパッキンの材質と使用限界

(3)グランドパッキンによるトラブル、原因、解決方法 (出典:Pump handbook 4th ed) 

表A3.2.9 グランドパッキンによるトラブルと、原因、解決方法

 

3.2 メカニカルシール(mechanical seal)

メカニカルシールは、固定部分(固定環)と回転部分(回転環)とが軸に垂直な面がスプリングなどにより接触圧力を与えられた状態で摺動することにより、極めて微小な漏れしか発生しない軸封装置です(図A3.2.10)。

図A3.2.10 メカニカルシールの構成例

日本では、JIS B2405-2003「メカニカルシール通則」で、メカニカルシールの性能、構造、寸法、取付機器の精度、性能試験、および表示方法について規定されています。シール面の材質は色々なものが採用されますが、軽負荷の場合はステンレス鋼とカーボンとの組合せが一般的です。個人的には現役時代は、軽負荷がセラミック×カーボンで、通常は超硬×超硬の組合せを良く使用していました。
メカニカルシールは漏洩が極めて少なく、機会損失も小さい長所があります、一方、一旦シール面が損傷を受けると急激に漏れが増加し、メカニカルシール全体を交換する必要があります。

1.メカニカルシールの分類

メカニカルシールは色々な分類の仕方があり、それらの組合せで形式が決まります。

 

1.1 メカニカルシールの構造による分類

(1)アンバランス形、バランス形
摺動密封面積とシールリングの高圧側流体の受圧面積の比で分類します。
シール端面の軸方向の投影面積(A1)とシールリングに対して軸方向の移動力として働くシール流体圧力を受ける軸方向の投影面積(A2)との比をバランス比Kと定義します。バランス比の値によりアンバランス形とバランス形とに分類されます(図A3.2.11)。

表A3.2.11 アンバランス形とバランス形

アンバランス形はバランス比が1を超えるものをいい、シール流体圧力によるシール端面への圧力がそのままシール端面への負荷になるもので、シール圧力が比較的低圧の場合に用いられます。バランス形はシール流体圧力によるシール端面への負荷が低減されます。
アンバランス形とバランス形、それぞれの使用条件の範囲の例を表A3.2.12に示します(少し古いですが)。


表A3.2.12 アンバランス形とバランス形の使用条件の範囲

(2)回転形、静止形
従動リング(シールリング)が軸とともに回転するものを回転形、回転しないものを静止形といいます。通常は回転形の方が多く使われています(図A3.2.13)。

(3)インサイド形、アウトサイド形
シール端面の外周から内周方向に向かって流れようとする流体をシールする形式をインサイド形、シール端面の内周から外周方向に向かって流れようとする流体をシールする形式をアウトサイド形といいます(図A3.2.13)。

 

図A3.2.13 回転形、静止形および、インサイド形、アウトサイド形の例

(4)背端面高圧形、背端面低圧形
シールリングの背端面に接触する流体が高圧側か低圧側かで分類します。

(5)内側ばね形、外側ばね形
従動リングをシール面に押し付けているばねが高圧側流体側にあるものを内側ばね形、無いものを外側ばね形といいます。

 

1.2 メカニカルシールの段数による分類

(1)シングル形:メカニカルシール1個で使用します。最も標準的な形式です。

(2)タンデム形:シングルメカニカルシールを同じ方向に2個直列に並べて使用します。PV値が高い場合に適用されます。中間部分の圧力は密封流体と大気側(通常の場合)圧力との中間の値を選びます。第1段目には非接触シールを用いることもあります。

(3)ダブル形:タンデム型と同様、密封流体が危険性の高い場合や、漏洩すると固化するなど取扱いが難しい液体のシールにしばしば用いられます。中間の圧力は密封圧力よりも高くしてあります。シール封入液は潤滑性の良いクリーンな液を使用します。

(4)トリプル形:シングルメカニカルシールを3個用いたもので、タンデム形よりさらに高圧流体の場合に用いられます。直列に並べる場合と、ダブル型を併用する場合とがあります。

(5)中間リング形:シートリングと従動リングとの間にシールリングを1個以上介在させたものです。中間リングがフローティングシールになったものは摺動面の相対回転速度が小さくなり高速回転の機器に用いられます。

 

図A3.2.14 各種メカニカルシールの適用例

 

 

2.メカニカルシールの補助装置

2.1 密封面の潤滑/冷却および清浄のための補助装置(図A3.2.15)

密封面の潤滑/冷却は、メカニカルシールの寿命を長く保持するために重要な要因です。また、従動リングのばね部分に固形のコンタミナントが集積して作動不良になるのを避けるためにメカニカルシール部に清澄な流体を流す必要があります。このようにメカニカルシール特に密封面の潤滑/冷却および清浄のために清澄液を流すことを、フラッシングといいます。

フラッシングは取扱流体が清澄な場合は、自己液を用いるセルフフラッシングが行われます。取扱液にコンタミナントが多数含まれていて、自己液でのフラッシングが困難な場合は、外部からの清澄な液を用いるエクスターナルフラッシングがあります。何れの場合も、クーラやストレーナなどの補助機器がフラッシング配管の途中に設置される場合があります。

また、摺動面からわずかに漏洩する液が固化する場合、漏洩すると安全性やメカニカルシールの寿命を短くする恐れがある場合などには、摺動面の大気側から清澄な液(清水や取扱液と反応しない油等)を流すクエンチングが採用されます。

高温の取扱液の性状によっては、スタフィンボックス部での放熱により固化する恐れがあるものがあるが、このような場合はスタフィンボックスの外側にブラインなどの冷却材を流したり、逆に、温度が低下すると固化する取扱液の場合はスチームをスタフィンボックスの外側に流したりします。

図A3.2.15 密封面の潤滑/冷却および清浄のための補助装置

 

2.2 各種取扱流体に対する補助装置の適用例

取扱液の性状に対して、(1)項に述べた補助装置の適用例を表A3.2.16 に示します。

表A3.2.16 各種取扱液に対する補助装置の適用例

 

2.3 メカニカルシールとグランドパッキンとの比較

メカニカルシールとグランドパッキンとの比較を表A3.2.17 に示します。現状ではメンテナンスコストの削減や環境汚染対策などの対策からメカニカルシールの使用頻度が高まっています。

表A3.2.17 メカニカルシールとグランドパッキンとの比較

 

 

3.3 フローティングシール

通常のポンプにはほとんど使用しませんが、油圧モータの減速機部のギア油の密閉に、フローティングシールが使われます。

 

[管理人よりのお詫び]

これより、後の項目については後日別途追加します。

申し訳ありませんが、御了承ください。

 

 

 

 

参考文献
流体機械  大橋秀雄  森北出版
流体機械  大場利三郎/神山新一   丸善
新版 ポンその設備計画・運転・保守  日本機械学会  丸善
ポンプハンドブック I.J.Karassik et al. 池口稔久他  地人書館
Pump Handbook  4th edition  I.J.Karassik et al.   McGraw Hill
JIS B2405-2003 メカニカルシール通則

 

引用図表
図A3.2.1 軸封装置の種類    新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
図A3.2.2 グランドパッキンの取り付け方法  Pump handbook 4th ed
表A3.2.3 漏れの滴下量と年間の漏洩量   新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
図A3.2.4 時間経過による漏洩量と摩擦トルクの変化  新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
図A3.2.5 グランドパッキンの構成    トコトンやさしいポンプの本
表A3.2.6 グランドパッキンの選定基準   トコトンやさしいポンプの本
表A3.2.7 軸径に対するグランドパッキン寸法  Pump handbook 4th ed
表A3.2.8 主なグランドパッキンの材質と使用限界  Pump handbook 4th ed
表A3.2.9 グランドパッキンによるトラブルと、原因、解決方法 Pump handbook 4th ed
図A3.2.10 メカニカルシールの構成例  JIS B2405
表A3.2.11 アンバランス形とバランス形    JIS B2405
表A3.2.12 アンバランス形とバランス形の使用条件の範囲  ターボ機械Vol.4,No.5 1976.June
図A3.2.13 回転形、静止形および、インサイド形、アウトサイド形の例  JIS B2405
図A3.2.14 各種メカニカルシールの適用例   トコトンやさしいポンプの本
図A3.2.15 密封面の潤滑/冷却および清浄のための補助装置  JIS B2405
表A3.2.16 各種取扱液に対する補助装置の適用例  新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
表A3.2.17 メカニカルシールとグランドパッキンとの比較  トコトンやさしいポンプの本

 

ORG:2020/09/30