2. 切削工具(cutting tool)
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2. 切削工具(cutting tool)
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1.切削工具の要求特性
切削加工とは、切削工具と工作機械を用いて、工作物から不要な部分を除去して、寸法精度および表面粗さ等を満足させて、所定の形状に仕上げる方法です。
切削加工には、旋削加工(ターニング)や、フライス加工(ミーリング)、ドリル加工(ドリリング)などがあります。
これらの加工を実現するために、切削工具には強さが求められるとともに、加工時の高熱に対する強さが必要とされます。
つまり、切削工具に要求される性能は、高温硬さ(hardness)とじん性(toughness)が重要な因子となります。高温硬さは耐摩耗性と考えられます。また、じん性は粘り強さであり、過大な切削力となる断続的な切削の場合は特に重要です。図Ⅱ.2.1に示すように、一般的には硬さとじん性とは相反する性質で、硬さが硬ければもろいという性質があります。これらの両特性を両立させることが切削工具に要求されることが大きな課題です。
図Ⅱ.2.1 切削工具材料の高温硬さとじん性
高付加価値製品に要求される超精密加工は多くの場合、微小切込みで実現されます。微小切込みは、刃先の鋭利さ(sharpness)つまり工具先端の刃先のノーズ半径が小さいことが要求されます。
この他、自動化の進展に対する工具寿命の安定性、多様な用途への工具形状に対する成形性などが要求されます。
2.切削工具材料
現在実用化されている切削工具材料には、高速度工具鋼(ハイス,HSS)や、超硬合金(sinterd cemented carbide)、コーティッド工具(coated tool)、サーメット(cermet)、セラミックス(ceramics)、cBN(cubic boron nitride,立方晶窒化ホウ素)、ダイヤモンド(diamond)があります(図Ⅱ.2.1)。また、夫々が製法、組成、組織などによっていろいろな種類があります。
高温硬さが高いものほど、高速切削が可能です。また、じん性が高いものは断続切削に適用されます。
超硬合金や、コーティッド工具、セラミックス、cBNは、微粉末素材を超高圧高温下で焼結により製造されます。高速度工具鋼は、炭素鋼にW,Cr,V,Mo,Coなどを添加して、
熱処理により硬さを増加させたものです。また、ダイヤモンドは単結晶が用いられます。
2.1 超硬合金
超硬合金は、主成分の炭化タングステン(WC)の粉末をコバルト(Co)と焼結したもので、主な被削材である鋼との溶着性(耐摩耗性)から、炭化チタン(TiC)や窒化チタン(TiN)が添加されたものもあります。
2.2 サーメット
主に、炭化チタン (TiC) や炭窒化チタン (TiCN) などのチタン化合物をニッケル (Ni) やコバルト (Co) で結合したものが多く用いられます。炭化タングステンは含まれますが少なめです。チタン系のサーメットは、超硬合金と比較して鉄との親和性が低いため、鋼の仕上げ切削に有効です。欧米では、超硬合金に含まれる場合もあります。
2.3 セラミックス
セラミックスは、酸化アルミニウム(Al2O3)やAl2O3に炭化チタン(TiC)や、酸化ジルコニウム(ZrO2)を分散させた黒色セラミックス、さらには窒化シリコン(Si3N4)、炭化シリコン(SiC)など多くの種類が開発されています。
2.4 cBN
ダイヤモンドは鉄と反応するので、使用範囲が限定されます。反応を示さずダイヤモンドの次に硬いものとして、cBNが開発されました。cBNは、結晶組織がダイヤモンドと同じく立方晶系です。窒化ホウ素は常温では、黒鉛と同じく六方晶系をしていますが、高温高圧下で立方晶系に変化させたものです。
硬さは、ヌープ硬さでHN4700あり、また高温安定性に優れていて1300℃です。cBNは鉄との反応が無いことから、焼入れされた鋼の切削などのも摘要が可能です。
2.5 ダイヤモンド焼結体
ダイヤモンドは非常に硬いですが、熱に弱く鉄との反応性がありますので、非鉄金属や非金属の高速切削に用いられます。とくに、シリコン含有アルミニウムや、繊維強化プラスチック(FRP)などの難削材の切削に用いられます。
ダイヤモンド焼結体は結晶体で、結晶粒径の差異により特性が変わります。化粧粒径が大きいものは耐摩耗性が良好です。一方、結晶粒径の小さいものはじん性に富んでいます(表Ⅱ.2.2)。
表Ⅱ.2.2 ダイヤモンド焼結体の結晶粒径と工具としての特性
2.6 コーティッド工具
5項までに示した工具材料は、硬さの増加とともにじん性が減少します。それに対して、じん性を確保しつつ、切り屑と接触する表面硬さを改善するためにコーティッド工具が開発されています。コーティッド工具は、高速度工具鋼や、超硬合金、サーメットなどの工具表面に、硬さの高い酸化物や、炭化物、窒化物を化学的もしくは物理的にコーティングしたものです。
化学的にコーティングする方法は、化学蒸着法(CVD;chemical vapor deposition)と呼ばれ、気化したガスを加熱した工具表面で化学反応させて、その表面を炭化チタン(TiC)や、窒化チタン(TiN)、酸化アルミニウム(Ai2O3)などで被覆します。CVDは、工具を約1000℃の高温に加熱するので、高速度工具鋼には適用されず、超硬合金やサーメットに適用されます。
また、物理的にコーティングする方法は、物理蒸着法(PVD;physical vapor deposition)と呼ばれ、コーティング材(主に窒化チタン)を高温で気化させて、工具表面で固体化することにより、被覆を形成する方法です。
イオンプレーティングなど、色々な方法があります。
表Ⅱ.2.3に、CVD法とPVD法の特性を比較した表を示します。
表Ⅱ.2.3 CVDとPVDとの比較
また、図Ⅱ.2.4にCVDとPVDとの例を示します。
PVDの例
CVDの例
図Ⅱ.2.4にCVDとPVDとの例
3.切削工具の構造
切削工具は、加工対象のワーク形状に対応して非常に多くの種類があります(工具屋さんのカタログを見てみてください)。
分類の一つとして、単刃工具(single point tool)と多刃工具(multi point tool)とに分けることができます。単刃工具は、一般にはバイトと呼ばれ、旋削や、中ぐり、型削り、平削りなどに使用されます。単刃工具を使う代表的な機械による旋盤加工では、外径、内径、溝入れ、突っ切り、ねじ切りなどが加工されます。
一方、多刃工具としては、フライス、エンドミル、ドリル、ブローチなど、用途に応じていろいろな刃具があります。
具体的には、個別の機械のところで述べる予定です。
単刃工具、多刃工具のいずれにおいても、直接切削に係る部分はごく一部です。この部分は、一般に切れ刃と呼ばれています。バイトの場合のいろいろな構造を図Ⅱ.2.5に示します。ハイス(高速度工具鋼)などで一体成形したもの(図(a))や、焼結成形された工具では、刃の部分は単純な形状で、これを鋼製のシャンクまたはボディーにろう付け、あるいは機械的に固定された構造のものがあります。
一体成形したものは、むくバイトと呼ばれ、エンドミルや、ドリル、フライス加工における総形工具、小型工具などで用いられます。一方、刃部交換形は、交換の容易さを狙い、機械的に固定したクランプ方式が多く用いられます。この場合の刃部はスローアウェイチップと呼ばれます。摩耗後は廃棄されるため資源の浪費になりますが、経済性の観点から再生されずに廃棄されることがほとんどです。
図Ⅱ.2.5 バイトのいろいろな構造
参考文献
機械工学便覧第6版β05-03章 (社)日本機械学会
絵とき切削加工基礎のきそ 海野邦昭 日刊工業新聞社
三菱マテリアル工具カタログ
引用図表
[図Ⅱ.2.1] 切削工具材料の高温硬さとじん性 機械工学便覧 第6版
[表Ⅱ.2.2] ダイヤモンド焼結体の結晶粒径と工具としての特性 絵とき切削加工基礎のきそ
[表Ⅱ.2.3] CVDとPVDとの比較 絵とき切削加工基礎のきそ
[図Ⅱ.2.4] CVDとPVDとの例 三菱マテリアル工具カタログ
[図Ⅱ.2.5] バイトのいろいろな構造 機械工学便覧 第6版
ORG:2017/9/13