2.4 研削熱

2.4 研削熱(grinding heat)

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1.研削熱とは

砥粒の切れ刃は大きい負のすくい角のため、研削初期に逃げ面摩耗が発生しても、砥粒の切込み深さは極めて小さいため、弾性的、塑性的に上滑りする切れ刃が多くなります。そのため、被研削抵抗(砥粒の切削断面積当たりの接線研削抵抗)は比切削抵抗(切削断面積当たりの切削主分力)の数十倍に達します。さらに、砥石車の周速は通常の切削速度の数十倍はあるので、研削加工における入力動力のほとんどは、研削熱(grinding heat)に変わります。砥石と工作物(work piece)の接触域は高温になって、工作物の熱膨張による寸法・形状精度の低下や、熱損傷による仕上面品質の低下などの問題を生じやすくなります。

発生した研削熱は、工作物や、砥石車、切り屑、そして研削油剤へと、研削条件により変化しますが、ある割合で流入してそれぞれの要素に温度分布を生じます(図2.4.1)。これを研削温度(grinding temperature)と呼んでいます。

図2.4.1 研削熱の分配の割合_例

 

2.研削温度の分類

研削熱の流入により各要素に生じる研削温度の意味について考えましょう。

(1)工作物の平均温度上昇;θw

工作物に流入した熱は、砥石と工作物との接触面から次第に全体に行き渡って工作物全体の温度を上昇させます。平均温度上昇θwと工作物の線膨張係数との積に比例して工作物寸法は変化するので、高い寸法精度を得るにはθwの値ができるだけ小さくなるようにしなければなりません。

 

(2)砥石と工作物との接触面の温度上昇;θbar,θm

砥石と工作物との接触面で発生した熱の多くは、工作物に流入して工作物の表面温度を急上昇させます。ここで注意しなければならないのは、接触面の温度上昇は一様でなないことです。そのため評価は、接触面の平均温度上昇θbarと最高温度上昇θm によって行われます。
接触面温度が高くなると、研削焼けや、研削割れ、熱変態などを生じ、仕上面の品質を低下させます。

 

(3)砥粒切れ刃の温度上昇;θg

砥粒の切れ刃が、工作物または切り屑と接触している微小領域の温度上昇θg を砥粒切れ刃の温度上昇といいます。θgは、熱衝撃による切れ刃の自生作用の発生や、切れ刃の摩耗に直接関係します。
また、研削熱が発生し、その熱量が工作物や、砥石、切り屑、研削油剤へどのような割合で配分されるかはこの部分で決まります、しかし。θgは極めて限られた微小領域で起きる現象ですので、実際の測定は極めて難しいと言えます。

 

(4)切り屑の平均温度上昇;θc

鋼の切り屑は、研削油剤により接触面から速やかに流出します。その過程で大きく変化しますが、ここでは切り屑が工作物から分離・排出される瞬間の温度上昇を考え、θcで表します。

 

(5)研削油剤(クーラント)の平均温度上昇

砥石と工作物との接触面で発生した研削熱は、工作物や、砥石車、切り屑などに流入した後、研削油剤により冷却されます。この効果により、工作物は研削焼けや研削割れなどの不具合を回避できます。また砥石車は冷却作用とともに脱落砥粒の破片の速やかな除去を促します。

 

 

補足

本項について、いろいろ文献を調べましたが、一般的に行われている湿式研削(研削油剤/クーラントを使用)につての、理論的な解析をあまり見つけることが出来ず、また測定データについても弊方の現時点の能力では皆様に説明できません。もう少し勉強して、実務で経験した知識とのマッチングが少しでも図れた時点で、追記するようにします。

 

興味のある方は、下記参考文献を入手してください。

 

 

参考文献
機械工学便覧 6th ed  日本機械学会
若手技術者のための研削工学_第6回_研削温度の解析と測定  奥山繁樹  砥粒加工学会誌 Vol59 No7  2015 JUL
加工プロセスに基づいた研削シュミレーション技術の開発 小野崎 徹、斉藤 明 JTEKT Engineering Journal No.1004 (2007)

 

引用図表
図2.4.1 研削熱の分配の割合_例  加工プロセスに基づいた研削シュミレーション技術の開発

 

ORG:2019/5/13