4.2 摩耗(Wear)

4.2 摩耗(Wear)

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完全な流体潤滑状態でない限り、乾燥摩擦状態や混合潤滑状態では、二表面は真実接触面積を持つので、摺動することにより摩耗が生じます。摩耗が生じると、がたが生じるため機械の精度は低下し、運動は不正確になります。また、案内部分の隙間が増加するので騒音・振動、さらには衝撃力が発生し、最終的には機械の破壊にまで至る場合があります。

摩耗現象には、極めて多くの要因が複雑に影響し合っています。例えば、材料及び材料の組合せや、負荷荷重、摺動速度、摩擦面の形状と大きさ、使用環境、雰囲気温度、湿度、コンタミナントの存在の有無など色々あります。従って、摩耗現象を抽象化して、一般的な数値で状態を表すことは、非常に難しいものがあります。

 

1.摩耗と加工

摩耗は、潤滑用語集(養賢堂;1981)によれば、「摩擦による固体表面部分の逐次減量現象」と定義されています。減量は、通常は相対する2つの表面から摩耗粉として小片が脱落することにより行われますが、さらに相手摩擦面に表面の一部分が移着、あるいは反対に移着された場合。まれには減量がなくても固体表面が摩擦により変形損傷する場合も含めて摩耗という場合もあります。更に、相手面は固体表面に限らず、例えばエロージョンのような浮遊固形粒子による摩耗も含みます。

この定義は、除去作用により表面を創生する機械加工と非常に近い関係があります。例えば、ラッピングは粒度を制御した微粒砥粉を利用して三元摩耗を起こさせているとも考えることができます。詰まる所、機械加工は人間が意図して積極的に行うものに対して、摩耗は人間にとって好ましくなく、できれば無くしたい現象であることが、異なっています。

 

2.摩耗の種類

摩耗の形態には多くの種類があります。通常の場合、それらが複合して起きる場合が多いです。ここでは一般的に行われている分類を示します。

(1)凝着摩耗(adhesive wear)
 真実接触部の凝着に起因する破断から生じる摩耗

(2)アブレシブ摩耗(abrasive wear)
 硬い面の突起や硬質粒子の切削作用によって生じる摩耗

(3)腐食摩耗(corrosive wear)
 雰囲気や潤滑剤の腐食作用と摩擦の機械的作用とが併存することにより生じる摩耗

(4)疲労摩耗(fatigue wear)
 ピッチングやフレーキングなどの転がり疲れ

(1)の凝着摩耗は、最も一般的な摩耗形態です。この摩耗を正常摩耗(normal wear)という場合もあります。摩擦作用がある限りは、そこには固体間接触があるわけである程度の摩耗が生じるのは通常のことと考えられます。また、凝着摩耗と呼ばれる種類の摩耗はその損傷程度に大きい幅があります。

(2)のアブレシブ摩耗は、金属摩耗粉が酸素により酸化されると硬くなり、接触面に残留すると硬質粒子により本体を傷つけてしまう摩耗です。

(3)の腐食摩耗は摩耗材料と環境とのからみで生じるため、この両者を勘案する必要があります。

(4)の疲労摩耗は、主として材料の要因で起こります。潤滑の効果では解決できない問題です。

 

この他、本入門では、以下の3項についても簡単な記述を行います。

(5)フレッティング摩耗(fretting wear)
 接触する二物体間に微小な往復滑りが繰返し作用したときに生じる表面損傷による摩耗。フレッチング摩耗ともいいます。

(6)エロージョン(erosion)
 流体(液体・気体)自身、もしくは固体を含んだ流体が、固体材料との相対的な動きや衝撃的な繰返し作用を行うことにより生じる機械的な力により、材料表面の変形・劣化させて、少しずつ材料を脱離させ、減肉させる摩耗です。

(7)キャビテーション・エロージョン(cavitation erosion)
 高速流により静圧が低下した液体流で発生した気泡(キャビテーション)が、低速部で液体流の静圧が上昇して気泡が崩壊する際の発生エネルギーによる、材料表面の変形・劣化により、材料を脱離・減肉させる摩耗です。

 

 

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門   岡本純三 他   幸書房
摩擦・摩耗・潤滑  岡部平八郎  日本ゴム協会誌Vol61No5(1988)

 

ORG:2018/10/27