7.3 レイノルズの二次元基礎方程式

7.3 レイノルズの二次元基礎方程式(Reynolds’ two-dimensional basic equation)

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タワーによる油膜圧力の発見に基づいて、レイノルズ(O. Reynolds)が1886年に油膜圧力の発生を考慮した流体潤滑の基礎方程式を発表しました。これが流体潤滑理論の基礎となって、ジャーナル軸受などに適用されるようになりました。

本項では、レイノルズの二次元基礎方程式を導出します。

 

1.仮定

図7.3.1に示すような二つの滑り面の間の潤滑膜に対して、以下に示す仮定を行います。

図7.3.1 潤滑膜内の圧力とせん断力との釣合い

(1)潤滑膜の厚さは、他の軸受寸法と比較して極めて薄いので、潤滑膜の膜厚方向に圧力は変化しない。

(2)潤滑膜は薄いので、膜厚方向の速度勾配du/dyは他の速度勾配より大きく、またすべり面の曲率を無視して考えることが出来る。

(3)潤滑剤はニュートン流体で、非圧縮性とする。

(4)隙間内の流れは層流で、潤滑剤の粘性力と比較して慣性力などの体積力は無視できる。

(5)壁面との境界面で、潤滑剤の滑りは無い。

(6)膜厚方向に粘度は一定である。すなわち膜厚方向に温度変化は無い。

 

これらの仮定の内、(1)及び(2)は、薄膜の仮定と呼ばれます。この仮定をすることで潤滑問題の解析的な取扱いが、一般流体力学の問題と比較すると簡単になります。例えば、実際のジャーナル軸受では、半径隙間は軸の半径の1/1000程度ですので、この仮定は妥当性があります。

(3)~(6)の仮定は、特殊な運転条件では成立しません。
例えば、(3)の仮定は潤滑剤としてグリースを用いたり、多量の高分子添加剤を加えた潤滑油を使用した場合は、非ニュートン流体として取扱う必要があり成立しません。
また、(4),(5)の仮定は、高速回転の軸受では、軸受隙間内の流れが乱流となり潤滑剤の慣性力を無視できなくなります。さらに超高速回転では潤滑剤と境界面との間で滑りが発生する可能性があり、これらの場合は仮定が成立しません。
更に、潤滑剤の粘性抵抗による発熱が大きい軸受では、軸受内部を強制的に冷却することも行われますが、その場合(6)の仮定も成立が難しくなります。

これらの問題点についても、流体潤滑理論は解決策を持っていますが、本稿ではレイノルズによる解析に基づいて、レイノルズの方程式を求めることにします。

 

2.レイノルズの基礎方程式

図7.3.1に、運動面と固定面との間にある潤滑剤の微小要素(横dx,縦dy,単位長さ)に作用する圧力とせん断力との関係を示します。この微小要素が潤滑剤内で釣合い状態にあるとします。任意のx位置での隙間(油膜厚さ)をh とするとh x の関数となります。
なお、図の面に垂直な方向は無限に長く、その方向の圧力変化はないものとします。従って、力の釣合いはx方向だけを考えればよいことになります。

図に示す微小要素の釣合いは

  (式7.3.1)

従って、

     (式7.3.2)

となります。

また、ニュートンの粘性の式

     (式7.1.2)

から、

   (式7.3.3)

が得られます。

(式7.3.3)をyについて2回積分すると、

   (式7.3.4)

が得られます。ここで、C1C2 は積分定数で、運動面、固定面それぞれの境界条件、

U=U (y=0) 及び u=0(y=h) から求まります。

 

   (式7.3.5)

これを、(式7.3.4)に代入すると、流速u は次式で表されます。

   (式7.3.6)

(式7.3.6)は、油膜中の任意の位置xにおける速度分布を表します。

第1項は、図7.3.2の(a)に示す直線状の流速分布を表し、クエット流れ(Couette flow)と呼ばれます。第2項は、(b1),(b2)に示す放物線状の流速分布でポアズイユ流れ(Poiseuille flow)と呼ばれ圧力に基づいて発生します。流速はこれらの和になるので、(c1),(c2)のようになります。

図7.3.2 潤滑油膜内の潤滑剤の速度分布

流速がわかると、位置x における流量Q (図の奥行き方向には単位長さをとります)は、次式で求められます。

     (式7.3.7)

この流れに対して連続の式を適用します。x 方向に流量Q は変化しないので、になります。(式7.3.7)をx で微分すると、

     (式7.3.8)

この(式7.3.8)をレイノルズの二次元基礎方程式(または、一次元流れのレイノルズの基礎方程式)といいます。

(式7.3.8)に、として を変数とするとともに、ηU を与えて、を求めて、これよりpx の関数として圧力分布を求めます。

くさび効果で油膜を形成するためには、(式7.3.8)で 、すなわち隙間が先に行くほど狭くなる必要があります。(式7.3.8)で、右辺が負の大きい値をとり、更にhが小さいと、x に対して、急激に減少します。その結果大きい圧力p が発生します。

なお、(式7.3.8)をx で積分して、積分定数をhm とすると、圧力変化として

    (式7.3.9)

が得られます。

圧力分布は、図7.3.3 に示すようになります。hm は最大圧力の位置()における油膜の厚さを表します。

図7.3.3 圧力分布と流体の流れ

 

補記(「気体潤滑技術の源流から現在まで」より)

これらの議論は、タワーの実験からレイノルズが流体潤滑理論として、1886年にまとめたものでありますが、この論文は、流体潤滑の機構の解明を含め、3つの議論がなされているようです。

1.潤滑油(タワーの実験ではオリーブ油)の粘度の温度依存性の実験で、軸受の潤滑機構の定量的な評価をする際には、軸受隙間内での粘度の値が欠かせないとの認識を示しました。

2.本項でも示した、くさび膜作用による流体潤滑膜圧力発生の機構の説明で、この論文の中核をなすものです。

3.圧力分布の理論とタワーの実験結果とを比較して、タワーの論文では記載されていない軸受隙間と軸受隙間内の温度(粘度)を理論的に推定したことです。

 

 

 

 

参考文献

トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房

気体潤滑技術の源流から現在まで  矢部寛  KOYO Engineering Journal No.157 (2000)

 

引用図表

図7.3.1 潤滑膜内の圧力とせん断力との釣合い  トライボロジー入門

図7.3.2 潤滑油膜内の潤滑剤の速度分布  トライボロジー入門

図7.3.3 圧力分布と流体の流れ  トライボロジー入門

 

 

ORG:2019/7/13
Add:2019/7/15