3.2 溶接残留応力

3.2 溶接残留応力(welding residual stress)

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1.溶接残留応力とは

溶接は、金属部材を冶金学的に結合する方法です。局部的に部材を溶融して構造的に一体化させます。溶接により発生した熱により溶接部は局部的に急激に昇温して高温に達して、部材結合の目的をはたした後、熱はより体積が大きい低温部へ熱伝導により移動することにより急激に低下していきます。

溶接開始から完了までの温度変化は範囲が非常に広くて、材料の機械的性質は温度により大きく変化します。このような熱変化は局部的に起こるため、材料の加熱時の膨張・冷却時の収縮が部材の他の部分から拘束されることになり、冷却後溶接による応力が残留する場合が多くあります。これを溶接残留応力といいます。また、溶接部は応力の残留と同時に収縮や曲げなどの変形を生じます。

溶接継手に残る残留応力は、溶接割れの原因になり、溶接構造物の性能を低下させる場合が多いので軽減するための対策が必要です。

 

2.残留応力の例

2.1 外周を拘束されていない円板への熱入力

外周を拘束されていない円板を考えます。

(1)円板全体を一様に加熱した場合、加熱時には自由に膨張して、冷却時に収縮して変形するが、熱応力は発生しません。

(2)円板の中心部を局部的に加熱すると、加熱部は膨張しますが周辺部により変形が拘束されることになります。その結果、加熱された部分には圧縮応力、周囲には引張応力が発生することになります。

中心部の加熱を強く行った後冷却すると中心部は収縮を始めますが、その周辺部はその収縮を阻止するように作用するので、中心部には引張応力が、それを取り囲む周囲には圧縮応力が発生して、図3.2.1 に示すような残留応力の分布が得られます。ただ、ここで発生する残留応力は円板内で釣り合っています。これを自己平衡状態といいます。また、このような拘束により応力を生じさせる状態を内部拘束(internal restraint)といいます。

図3.2.1 円板中央部への溶接により発生する残留応力   現代溶接工学

 

2.2 壁に埋め込まれた2本の棒の溶接

剛な壁に埋め込まれた本の棒の突合せ部を溶接すると、投入された熱は部材単の方へ熱伝導により伝わります。溶接が完了して入熱が無くなると、棒全体が冷却過程になり収縮を開始します。棒の端は壁に固定されているので、拘束された変形に対応する応力が生じます。この応力は壁の反力と釣り合い棒自身で釣り合っていないので、自己平衡状態ではありません。このような拘束状態を外的拘束(external restraint)といいます(図3.2.2)。

図3.2.2 一端固定の2本の棒の突合せ溶接による拘束   現代溶接工学

 

3. 突合せ溶接継手の残留応力分布

図3.2.3に突合せ溶接継手の残留応力分布の例を示します。

図3.2.3 突合せ溶接継手の残留応力分布の例

 

溶接部近傍の溶接線方向の残留応力\( \sigma_{ x } \)は、材料の降伏応力\( \sigma_{ Y } \)にほぼ等しくなります。一方、溶接線直角方向の残留応力\( \sigma_{ y } \)は、外的拘束が無い周辺自由な平板の場合は小さいですが、外的拘束がある場合は大きくなります。

残留応力に影響を与える因子は、溶接入熱\( Q_{ net } \) \( (J/mm) \)及び、板寸法(板幅\( W \) \( (mm) \)、板厚\( h \) \( (mm) \)、板長\( l \) \( (mm) \) 、材質などがあります。周辺自由な平板の残留応力分布は、平均温度上昇\( T_{ av } ( = Q_{ net }/c \rho hW  , ,  c:比熱, \rho : 密度) \) にパラメータで整理できます。例えば、大きな平板の残留応力分布\( \sigma_{ x } \) の特徴点の値は、表3.2.4に示されます。

 

表3.2.4 残留応力分布の特徴点の値

 

残留応力分布に影響する要因の特徴を以下に示します。

(1)残留応力の値\( \sigma_{ 1 }, \sigma_{ 2 } \) は、溶接入熱量\( Q_{ net } \) に無関係で初期温度における降伏応力\( \sigma_{ Y } \) に比例します。

(2)残留応力値が\( \sigma_{ 1 }, \sigma_{ 2 }, 0 \)になるy方向の位置\( y_{ 1 }, y_{ 2 }, y_{ 3 } \) は、溶接入熱量\( Q_{ net } \) に比例して、板厚\( h \) に反比例します。

(3)圧縮応力の絶対値が最大の点は、固有ひずみが発生する点\( T_{ p } \) に対応しています。

(4)平板の予熱温度は、通常の予熱温度の範囲(鋼で200℃以下)であれば、残留応力にあまり影響しません。

(5)冷却過程で、板材の相変態開始温度が500℃以下であれば、残留応力は相変態の影響を大きく受けます。

(6)極厚板の多層溶接では残留応力時のピーク値は最終パスの直下近傍に生じます。

(7)開先の間隔を1mm縮めるのに必要な単位溶接長当たりの力として、拘束度\( R_{ F } \) を定義します。

図3.2.5 に、板厚\( h(mm)\)、溶接線に直角方向の板幅\( 2W(mm)\)の板の開先断面を示します。板厚の両端を拘束している場合、開先の間隔を1mm縮めるのに必要な単位溶接長(1mm)当たりの力\( R_{ F } \)(拘束度)は、板材の縦弾性係数\( E \)とひずみ\( \displaystyle \frac{ 1 }{ 2W } \)、板厚\( h(mm)\)より

\( R_{ F } = E \cdot \displaystyle \frac{ 1 }{ 2W } \cdot ( h \times 1 ) = \displaystyle \frac{ Eh }{ 2W } \)

で表されます。

図3.2.5 拘束度の定義と拘束力

 

拘束度\( R_{ F } \) RFが与えられると、溶接条件により決まる横収縮量\( S(mm)\)の情報から、外的拘束により生じる拘束力\( P(N/mm)\)は、

\( P = S R_{ F } \)

で与えられます。1層1パス溶接の場合、溶接線に直角方向の残留応力の平均値\( \sigma_{ y } \)は、

\( \sigma_{ y } = \displaystyle \frac{ SR_{ F } }{ h }   (MPa)\)

で表されます。

 

4.残留応力の発生の仕方

3項に示すように、板材を突合せ溶接する場合、溶接完了後には溶接部分には引張残留応力が発生します。一方、周囲はこれと釣り合う圧縮残留応力が発生します。

一般に、拘束を強くすると変形は少ないですが残留応力は大きくなります。逆に拘束を弱くすると残留応力は小さくなりますが変形が大きくなります。

また、溶接により発生する残留応力は、溶接施工の順序で発生状況が変化します。

例として、Iビーム同士を突合せ溶接する場合の残留応力の発生状況について考えます。図3.2.6に示すように2種類の溶接順序により発生する残留応力についてみていきましょう。

図3.2.6 Iビームの突合せ溶接により生じる残留応力の溶接順序による差異

検討される溶接順序を以下に示します。
(a):上フランジ(O)→ 下フランジ(U)→ ウェブ(S)
(b):ウェブ(S)→ 上フランジ(O)→ 下フランジ(U)

(a)の場合は、最終のウェブ溶接時にはフランジ部分が既に拘束された状態で溶接されるので、ウェブには大きな引張応力、フランジにはそれと釣り合う圧縮応力が残留します(図3.2.6(a)-4))。
一方、(b)の場合は、ウェブが先に溶接されるが、これ自体は強い拘束になりません。そのためフランジ部の溶接は自由に近い状態で施工されます。この場合は、フランジ部に引張応力、ウェブ部に圧縮応力が残留します(図3.2.6(b)-6))。

このように、溶接順序を変えると、応力分布は全く反対の結果を生じます。

 

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参考文献:
機械工学便覧 6th ed  β03-03章  日本機械学会
現代溶接工学  木原博   オーム社
最適溶接構造の設計  吉田亨  日刊工業新聞社

 

引用図表:
図3.2.1 円板中央部への溶接により発生する残留応力   現代溶接工学
図3.2.2 一端固定の2本の棒の突合せ溶接による拘束   現代溶接工学
図3.2.3 突合せ溶接継手の残留応力分布の例   機械工学便覧
表3.2.4 残留応力分布の特徴点の値   機械工学便覧
図3.2.5 拘束度の定義と拘束力   機械工学便覧
図3.2.6 Iビームの突合せ溶接により生じる残留応力の溶接順序による差異 最適溶接構造の設計

 

ORG:2020/12/18