9.2 図面指示(寸法、変形等の外観)から外れたもの
9.2 図面指示(寸法、変形等の外観)から外れたもの(Deviate from drawing instructions)
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溶接工作物は、もちろん溶接部の欠陥があってはならないですが、溶接物のサイズを定められた大きさとして、組立・仕上がり寸法を寸法公差内に仕上げられていなければなりません。寸法公差については図面に記載されていたり、基準・規格に定められているので、これらから逸脱した工作物は寸法欠陥とみなされます。
1.変形
金属材料は、加熱すると膨張し、冷却すれば収縮します。溶接により、開先における局部的な溶融・凝固により最終的にはおおよそ1%程度収縮します。そのため、図9.2.1に示すように、溶接継手の長さ方向とその直角方向とに収縮と角変形を生じます。このような溶接継手の収縮や角度変化は、工作物の形状を変えてしまい、構造物の変形の要因となります。
図9.2.1 溶接による変形 溶接検査マニュアル
これらの変形を防ぐために継手を拘束してしまうと、工作物内部に収縮力と対抗する力が残ります。これを残留応力といいます。
治具を工夫したり、溶接順序を変えることにより、溶接の結果発生する変形と反対方向の応力を発生させることにより、これらを相互に相殺させることにより工作物全体としての変形を最小限にするように
計画します。このようにすることを「逆ひずみを取る」といいます。また、ショットピーニングを施工することにより、溶接変形を減少させることが出来ます。
溶接により生じた変形を修正するためには、以下の方法が実施されます。
(1)熱間あるいは冷間による矯正
(2)変形の原因になっている溶接部位の除去と再溶接
矯正の方法は、規格あるいは発注者との協議の下で決定されます。また溶接部位除去、再溶接についても、材料に対する加熱・徐熱条件を十分検討してからおこなう必要があります。
2.継手準備の誤り
溶接施工を正しく行うために、要求される継手に対して用いられる材料・板厚に適合した寸法・形状を用いなくてはなりません。この準備が正しく行われないと構造上の不連続を生じて、いろいろな溶接欠陥を起こしやすくなります。
3.溶接寸法の不適正
溶接寸法の取り方については、溶接継手の種類により決められています。例えば、突合せ溶接継手では継手の溶け込み深さで、等脚すみ肉溶接継手の場合は、すみ肉断面内に接する最大寸法の二等辺三角形の辺を脚長としてあらわします(図9.2.2)。
図9.2.2 溶接部のサイズの表し方 溶接検査マニュアル
溶接寸法が要求値に対して、大きすぎても小さすぎても欠陥とみなされます。通常は、溶接ゲージあるいは承認された見本と比較することにより判定されます。
4.溶接部の形状不良
溶接部の最終形状は、実負荷が作用したときに、その強度に影響します。溶接部の形状に関する要求事項は、一般には規格あるいは図面にて指示されます。これらに適合しない場合は、溶接欠陥とみなされます。
溶接部の形状不良としては、オーバラップ及び、アンダカット、溶込み不足が考えられます(図9.2.3)。
図9.2.3 溶接部の形状不良 溶接検査マニュアル
4.1 オーバラップ
オーバラップは、図9.2.3(a)に示すように、溶接部の止端(トウ;toe)において、溶接金属が溶接線よりはみ出したものをいいます。このような継手では、荷重が負荷されると応力集中が生じます。すみ肉溶接ではその有効寸法が減ります。
オーバラップの発生は、溶接工の技量が低い、あるいは溶接時の電気条件の設定不良による起こります。溶接ビードが凸になりすぎると、ノッチになり応力集中部になります。例えば、多層盛の突合せ溶接において、次の層を盛る際にグラインダ掛けをしたり、ガウジングしたりしないと融合不良やスラグの巻込みを生じやすくなります。
反対に凹になりすぎると、すみ肉継手の強度はノド厚により決まるので、溶接部の真の強さが標準形状のものより低くなります。特に電流値が過大の場合や、アークが長すぎる場合に発生しやすくなります。ただし、立向すみ肉溶接を下進で行うときは、一般に凹形状になります。
4.2 アンダカット
アンダカットは、図9.2.3(b)に示すように、ビード端において開先の側壁から溶融部が離れる状態をいいます。この部分に鋭い切欠きが発生します。この切欠きは応力集中部となり、疲労強度を低下させたり、ぜい性破壊の起点になる危険性があります。
アンダカットの発生は、溶接工の技量不足によるところが大きいですが、電流値が高すぎたり、溶接棒の保持角度や運棒速度が不適際な場合にも発生します。これらは、溶接棒の被覆形式により最適範囲は異なりますし、溶接姿勢や継手条件によっても変わります。
4.3 溶込み不足
溶込み不足は、図9.2.3(c)に示すように、フィラーメタルと母材とが完全に溶け合わない状態をいいます。
溶込み不足については、9.3 溶接構造上の不連続で詳細を示します。
5.ビード外観上の不良
ビード表面に空孔(ピット)が発生することがあります。溶接棒の被覆形式の違いや、継手開先が狭い場合、アーク中に空気が侵入することによって起こります(図9.2.4)。
図9.2.4 ビード表面上のピット 現代溶接工学
ビード幅の不ぞろいや余盛の過不足、ビードの波の不ぞろいなども溶接結果になります。これらは溶接部の強度には影響しませんが、規格上溶接結果の対象となることが多いです。発生原因は、溶接者の技量不足や、不適切な電流設定、磁気吹きなどです。
溶接表面の外観の良否は溶接工の技量によるところが多いです(いろいろな溶接工の方を見てきましたが、本当に天性の向き不向きがあるように思います。実務経験の年数はあまり関係が無いように思います。)。
6.仕上がり寸法の狂い
どんな工作物でも同じですが、溶接工作物を製作する際は、正式な図面や手書きのスケッチに規定寸法が示されています。従って、溶接工は、溶接継手による変形・収縮量をあらかじめ予想して溶接を進める必要があります。
最終寸法の厳密な調整を必要とする溶接工作物の場合、溶接・応力除去処理後、寸法を規定値になるように、機械加工されます。溶接施工だけの場合、材料の肉厚や、母材の性質、工作物の大きさなどにより部品の寸法公差は変更する必要があります。例えば、小型の工作物では最終寸法の公差は100分の数㎜程度、例えば大型の圧力容器などでは数㎜になることもあります。
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参考文献
溶接検査マニュアル 吉田亨他 工学図書 S53年9月
現代溶接工学 木原博 オーム社 S53年2月
引用図表
図9.2.1 溶接による変形 溶接検査マニュアル に追加
図9.2.2 溶接部のサイズの表し方 溶接検査マニュアル
図9.2.3 溶接部の形状不良 溶接検査マニュアル に追加
図9.2.4 ビード表面上のピット 現代溶接工学
ORG:2020/12/04