4.16 熱応力

4.16 温度変化により発生する応力 — 熱応力(Thermal stress)

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物体は加熱されたり冷却されると、材質により程度の差はあれ膨張したり収縮します。物体を拘束していなければ、自由に膨張したり収縮したりするので応力は発生しません。しかし、物体の変形が拘束される場合は、ひずみ(熱ひずみ)が発生します。この熱ひずみに伴って発生する応力を熱応力といいます。

発電所のタービンや原子炉、船舶用ディーゼル機関、化学プラントなど、温度差が大きく、大規模な構造物では熱応力の検討が必要になります。荷重による応力については、負荷がかかる部分の肉厚を厚くするなどで対応が可能ですが、熱応力については、肉厚を増加させるとそのために温度差が大きくなり、場合によってはかえって熱応力が増加します。常温からの温度差が大きな製品の設計時にはよく検討すべき項目の一つです。
(管理人の個人的な経験です。製品設計時に熱の影響はかなり大きいです。)

本コンテンツでは、一次元の棒の引張/圧縮について考えます。ここで注意すべきことは、熱応力問題は一般に典型的な不静定問題になることです。

 

1. 線膨張係数と熱ひずみ

固体材料は、一般に温度が変化することによりその体積が変化します。長さ\(l_{0}\) の棒に対して、温度が\(t_{0}\) から\(t_{1}\) に変化して、\(l_{0}\) からlに変化した場合を考えます。

そのときの棒の伸び\(\Delta l ( = l-l_{o})\) は、この材料の線膨張係数を\(\alpha\) とすると、

\(\Delta l = \alpha l_{0} ( t_{1} – t_{0})\)  (式4.16.1)

になります。

温度変化によって生じた棒長さの変化をもとの棒の長さで割ったものが熱ひずみになります。

\(\bar{\varepsilon} = \large{ \frac{\Delta l}{l_{o}}} = \large{\frac{( l – l_{0})}{l_{0}} } \) (式4.16.2)

また、線膨張係数\(\alpha\) を用いると

\(\bar{\varepsilon} = \alpha \Delta t\) (式4.16.3)

と表されます。

なお、さまざまな材料の線膨張係数を、表4.16.1 に示します。

表4.16.1 さまざまな材料の線膨張係数

 

2. 熱ひずみを考慮したフックの法則

一次元の弾性体について応力\(\sigma\) が発生する負荷を与えられたときに弾性体に発生するひずみ\(\varepsilon\) との関係は、

\(\sigma = E \varepsilon\) (式4.16.4)

になります(弾性体のフックの法則)。これを熱ひずみと区別して、弾性ひずみといいます。

 

温度変化があるときの棒に発生するひずみは、熱ひずみ\(\bar{ \varepsilon }\) と弾性ひずみ\(\tilde{ \varepsilon }\) との和になりますので、

\(\varepsilon = \bar{ \varepsilon } (熱ひずみ) + \tilde{ \varepsilon } (弾性ひずみ)\) (式4.16.5)

と定義されます。

弾性ひずみ\(\tilde{ \varepsilon }\) と応力\(\sigma\) との間には、(式4.14.4)のフックの法則が成り立ちますので(式4.14.5)とから、以下の関係式が成り立ちます。

\(\sigma = E \tilde{ \varepsilon } = E (\varepsilon – \bar{ \varepsilon })\) (式4.16.6)

(式4.16.6)が、温度変化を伴う物体におけるフックの法則です。

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3. 熱応力の例題

3.1 両端固定の丸棒

直径\(d=30mm\)、長さ\(l=500mm\)の炭素鋼の丸棒を考えます。両端を剛体壁に固定されています(図4.16.2)。温度を20℃から100℃まで上昇させたときに、丸棒に生じる熱応力を求めます。
ただし、炭素鋼の縦弾性係数を\(E=210GPa\)、線膨張係数を\(\alpha =11×10^{-6} /K\) とし、温度20℃の状態で丸棒にひずみは生じていないものとします。

図4.16.2 両端固定丸棒に生じる熱応力

[回答]
温度100℃のときに丸棒に生じるひずみを求めます。このとき、弾性ひずみ\(\tilde{ \varepsilon }\) と熱ひずみ\(\bar{ \varepsilon }\) との和は0になるので、(式4.16.5)から

\(\tilde{ \varepsilon } (弾性ひずみ) = -\bar{ \varepsilon } (熱ひずみ) = – \alpha\Delta t \)  (式4.16.7)

したがって、丸棒に生じる応力(熱応力)は、

\(\sigma = -E \alpha \Delta t = -210×10^{9} \cdot 11×10^{-6} \cdot (100-20) \)

   \(\simeq -185\times { 10 }^{ 6 } = -185 \left[ MPa \right]\)  (圧縮応力)  (答)

 

3.2 直列に接続された丸棒

直径:\(d_{1}\) 、長さ:\(l_{1}\) 、縦弾性係数:\(E_{1}\) 、線膨張係数:\(\alpha_{1}\)の丸棒1と、直径:\(d_{2}\) 、長さ:\(l_{2}\)、縦弾性係数:\(E_{2}\)、線膨張係数:\(\alpha_{2}\)の丸棒2とが直列に結合されたものの両端が剛体壁で固定されています。棒全体の温度が\(T_{0}\) から\(T_{1}\) まで上 昇させた場合について、丸棒1と丸棒2とに生じる熱応力を求めます。ただし、温度\(T_{0}\)の状態で、棒には応力が生じていないものとします。

図4.16.3 両端固定丸棒に生じる熱応力

[回答]
温度\(T_{0}\) から\(T_{1}\) まで上昇させたとき、丸棒1、丸棒2のそれぞれに生じる熱ひずみ\(\bar{\varepsilon}_{1}\) 、\(\bar{\varepsilon}_{2}\) はそれぞれ、 

\(\bar { \varepsilon_{1} } ={ \alpha }_{ 1 }\left( { T }_{ 1 }-{ T }_{ 0 } \right)\)、\(\bar { \varepsilon_{2} } ={ \alpha }_{ 2 }\left( { T }_{ 2 }-{ T }_{ 0 } \right)\)  (式4.16.8)

と表されます。丸棒が剛体壁から受ける反力の大きさをRとすると、丸棒1と丸棒2のそれぞれに発生する弾性ひずみ\(\tilde{\varepsilon}_{1}\) 、\(\tilde{\varepsilon}_{2}\) は、次式で示されます。

\(\tilde{\varepsilon}_{1} = -\large{\frac{4R}{\pi d_{1}^2 E_{1}}}\) 、\(\tilde{\varepsilon}_{2} = -\large{\frac{4R}{\pi d_{2}^2 E_{2}}}\)   (式4.16.9)

丸棒1、丸棒2に発生するひずみ\(\varepsilon_{1}\) 、\(\varepsilon_{2}\) は、それぞれ熱ひずみと弾性ひずみとの和になります。

\(\varepsilon_{1} = \bar{\varepsilon}_{1} + \tilde{\varepsilon}_{1} = \alpha_{1}( T_{1} – T_{0}) -\large{\frac{4R}{\pi d_{1}^2 E_{1}}}\)

\(\varepsilon_{2} = \bar{\varepsilon}_{2} + \tilde{\varepsilon}_{2} = \alpha_{2}( T_{1} – T_{0}) -\large{\frac{4R}{\pi d_{2}^2 E_{2}}}\)  (式4.16.10)

したがって、それぞれの丸棒の伸び\(\lambda_{1}\) 、\(\lambda_{2}\) は

\({ \lambda }_{ 1 }={ \varepsilon }_{ 1 }{ l }_{ 1 }=\left\{ { \alpha }_{ 1 }\left( { T }_{ 1 }-{ T }_{ 0 } \right) -\large{\frac { 4R }{ \pi { d }_{ 1 }^{ 2 }{ E }_{ 1 } }} \right\} { l }_{ 1 }\)

\({ \lambda }_{ 2 }={ \varepsilon }_{ 2 }{ l }_{ 2 }=\left\{ { \alpha }_{ 2 }\left( { T }_{ 1 }-{ T }_{ 0 } \right) -\large{\frac { 4R }{ \pi { d }_{ 2 }^{ 2 }{ E }_{ 2 } }} \right\} { l }_{ 2 }\)   (式4.16.11)

これらの棒の両端は固定ざれているので、\(\lambda_{1} + \lambda_{2} = 0\) になります。すなわち、

\(\left\{ { \alpha }_{ 1 }\left( { T }_{ 1 }-{ T }_{ 0 } \right) -\large{\frac { 4R }{ \pi { d }_{ 1 }^{ 2 }{ E }_{ 1 } }} \right\} { l }_{ 1 } + \left\{ { \alpha }_{ 2 }\left( { T }_{ 1 }-{ T }_{ 0 } \right) -\large{\frac { 4R }{ \pi { d }_{ 2 }^{ 2 }{ E }_{ 2 } }} \right\} { l }_{ 2 } = 0\)
                     (式4.16.12)

これを整理して\(R\)を求めると、

\(R = \large{\frac{\pi d_{1}^{2} d_{2}^{2} E_{1} E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{1}l_{1} – \alpha_{2}l_{2}\right)}{4 \left(l_{1}d_{2}^{2}E_{2} + l_{2}d_{1}^{2}E_{1}\right)}}\)  (式4.16.13)

になります。 

この反力を各丸棒の断面積で除したものが各丸棒に発生する熱応力になります。

\(\sigma_{AB} = – \large{\frac{R}{A_{1}}} = -\large{\frac{d_{2}^{2}E_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{1}l_{1} – \alpha_{2}l_{2}\right)}{l_{1}d_{2}^{2}E_{2} + l_{2}d_{1}^{2}E_{1}}}\)  (答)

\(\sigma_{BC} = – \large{\frac{R}{A_{2}}} = -\large{\frac{d_{1}^{2}E_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{1}l_{1} – \alpha_{2}l_{2}\right)}{l_{1}d_{2}^{2}E_{2} + l_{2}d_{1}^{2}E_{1}}}\)  (答)

 

3.3 並列に接続された丸棒

長さ:\(l\)、断面積:\(A\)の丸棒3本(棒Ⅰ、棒Ⅱ、棒Ⅲ)が並列に並べられ、左端が剛体壁に固定、右端は3本が剛体の板により連結され、変位量が同じようになるように拘束されています。棒Ⅰ、棒Ⅲは同じ材料で縦弾性係数:\(E_{1}\)、線膨張係数:\(\alpha_{1}\)、棒Ⅱの材料は縦弾性係数:\(E_{2}\)、線膨張係数:\(\alpha_{2}\)です。

ただし、\(\alpha_{2}>\alpha_{1}\)とします。

丸棒の温度を応力が発生していない\(T_{0}\)から\(T_{1}\)に上昇させると、3本にそれぞれ熱応力が発生します。このときの各棒に発生する熱応力を求めましょう。

図4.16.4 並列に接続された棒

[回答]
温度\(T_{1}\)の状態で、棒Ⅰ、棒Ⅲに作用する軸力を\(P_{1}\)、棒Ⅱに作用する軸力を\(P_{2}\)とすると、これらの力のつり合いは、

\(2P_{1} + P_{2} = 0\)  (式4.16.14)

棒Ⅰ、棒Ⅲにおけるひずみは弾性ひずみと熱ひずみとの和になりますので、

\(\varepsilon_{1}=\bar\varepsilon_{1} + \tilde\varepsilon_{1} = \alpha_{1}\left( T_{1}- T_{0}\right) + \large{\frac {P_{1}}{A E_{1}}} \)  (式4.16.15)

同様に、棒Ⅱでは、

\(\varepsilon_{2}=\bar\varepsilon_{2} + \tilde\varepsilon_{2} = \alpha_{2}\left( T_{1}- T_{0}\right) + \large{\frac {P_{2}}{A E_{2}}} \)  (式4.16.16)

したがって、それぞれの棒の伸び\(\lambda_{1}\) 、\(\lambda_{2}\)は、

\(\lambda_{1} = \varepsilon_{1}l = \alpha_{1}l\left( T_{1} – T_{0}\right) + \large{\frac{P_{1}l}{A E_{1}}}\)

\(\lambda_{2} = \varepsilon_{2}l = \alpha_{2}l\left( T_{1} – T_{0}\right) + \large{\frac{P_{2}l}{A E_{2}}}\)  (式4.16.17)

ここで、棒の伸びはすべて等しいので、\(\lambda_{1}= \lambda_{2}\)になります。

\(\alpha_{1}l\left( T_{1} – T_{0}\right) + \large{\frac{P_{1}l}{A E_{1}}} = \normalsize{\alpha_{2}l\left( T_{1} – T_{0}\right)} + \large{\frac{P_{2}l}{A E_{2}}}\)  (式4.16.18) 

(式4.16.14)と(式4.16.18)とから、\(P_{1}\)、\(P_{2}\)とを求めます。

\(P_{1} = \large{\frac{AE_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{2} – \alpha_{1}\right)}{2E_{1} + E_{2}}}\)

\(P_{2} = -\large{\frac{2AE_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{2} – \alpha_{1}\right)}{2E_{1} + E_{2}}}\)  (式4.16.19)

したがって、棒Ⅰ、棒Ⅲに生じる熱応力\(\sigma_{1}\) と棒Ⅱに生じる熱応力\(\sigma_{2}\)とは、以下のようになります。

\(\sigma_{1} = \large{\frac{P_{1}}{A}} = \large{\frac{E_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{2} – \alpha_{1}\right)}{2E_{1} + E_{2}}}\)  (答)

\(\sigma_{2} = \large{\frac{P_{2}}{A}} = -\large{\frac{2E_{1}E_{2}\left( T_{1} – T_{0} \right) \left( \alpha_{2} – \alpha_{1}\right)}{2E_{1} + E_{2}}}\)  (答)

 

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参考文献
日本機械学会誌 やさしい材料力学 第3回 熱応力・熱ひずみ 2019年3月号
現代材料力学  平修二  オーム社

 

引用図表
表4.16.1 さまざまな材料の線膨張係数  現代材料力学+日本機械学会誌
図4.16.2 両端固定丸棒に生じる熱応力  日本機械学会誌  2019年3月号
図4.16.3 両端固定丸棒に生じる熱応力  日本機械学会誌  2019年3月号
図4.16.4 並列に接続された棒  日本機械学会誌  2019年3月号

 

ORG: 2020/02/18

後記
本コンテンツの例題は、参考文献で使用させて頂いた日本機械学会誌の材料力学の講座から借用しました。今後オリジナルなものにリライトしたいと考えています。