4.2 静的な荷重による破面

4.2 静的な荷重による破面(Fracture surface due to static load)

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モノが破壊したり、破損する場合は、必ず荷重が作用します。荷重は大きく分けて静的荷重と動的荷重に分類されます。引張荷重のように単純な静的荷重による破壊は少なく、多くの場合動的荷重による破壊です。
しかし、静的な荷重により破壊した破面は、破面観察の基礎となる情報を得られることが多いので、その特徴を把握しておくことは重要です。

 

1. 引張試験における破壊様式

図4.2.1に平滑材丸棒の引張試験による破壊形式を分類したものを示します。材料の特性によって異なった破壊形式を取ります。

図4.2.1 引張試験における種々の破壊様式

 

図4.2.1 引張試験における種々の破壊様式

ぜい性材料の破壊は垂直破壊形態(a)になります(例えば、ねずみ鋳鉄など)。延性材料の破壊はすべりを伴なうせん断破壊(e)になります。一般には、破壊はそれに伴う塑性変形の大小により、延性破壊とぜい性破壊に分けられますが、その区別はあいまいなところがあり、場合により混在しています。

例えば、(a)のぜい性破壊の場合、肉眼(マクロ的)では塑性変形が認められないものをぜい性破壊としていますが、場合によっては破面を電子顕微鏡で観察すると塑性変形を伴っている場合も多く認められます。この場合は微視的にいえば延性破壊です。

また、(b)のカップアンドコーン(cup and cone)型破壊でも、微視的にはぜい性破壊の部位が含まれることがあります。カップアンドコーン型破壊は、引張の過程で局部収縮した後試験片の中心部に亀裂が発生し、引張方向に対して垂直に周辺に伝播します。この部分は中央部の繊維状破面とその周囲にき裂に沿った放射状の模様が認められる放射状破面からなります。最後に残された周囲の部分が、引張方向と45°の最大せん断応力方向にせん断破壊します。これをシャーリップといいます。
ここで、引張方向に垂直な破面をうち中央部の繊維状破面は平面ひずみ型破面で延性的に破壊が進行します。その外側に発生するき裂の伝播方向に沿った放射状の模様が認められる放射状破面はぜい性的な破壊の様相を示します。その周囲のシャーリップは平面応力型破面になります。

(c)の2重カップ(double cup)型破壊は、(b)のカップアンドコーン型破壊の最後の段階で、せん断破壊を起こさずに飴状に伸びて破断したものです。

(d)は亀裂が全く生じないで、最初から飴状に伸びた破壊です。その形状からチゼルポイント(chisel point)型または、ノミの刃型(chisel edge)破壊と呼ばれます。

なお、(e)は薄板や単結晶で、一つのすべり面で滑る場合でせん断破壊(slant fracture)と呼ばれます。

2.  破断面の状態

図4.2.2(a)は、丸棒平滑材の一軸引張破断面に生じる破断模様(図4.2.1(b)のカップアンドコーン型破面)を模式的に示したものです。

図4.2.2 マクロ破断面の特徴的な様相

 

図4.2.2 マクロ破断面の特徴的な様相

引張方向に垂直な破面は、中心部の繊維状破面(fibrous fracture)とその周囲に同心円状に広がる放射状破面(radial fracture)から成り立っています。中心部の繊維状破面は、亀裂がジグザグに進展したために細かい凹凸が生じて、同心円状の縞模様を形成しています。ただし、この縞模様は、通常は切れ切れで繊維状に見えるので繊維状破面と呼ばれます。この繊維状破面は、亀裂が発生後、徐々に延性的に進展した部分です。

その外側の放射状破面は、き裂が同一破面上にないため、段の部分が亀裂の伝ぱ方向に沿った放射状の模様を形成したもので、亀裂が繊維状破面よりは、より急速に進展した部分です。この放射状破面は、細かい平滑な平面からなり、光の当て方によりきらきら光って見える場合があり、これを粒状破面(granular fracture)と呼びます。これは、特定の結晶面(へき開面;cleavage plane)に沿って破壊したもので、ぜい性破壊の一種です。なお、延性材料の引張試験の場合、放射状破面は現れないことが多いです。

図4.2.2(b)は平滑な板材の場合の破面で丸棒の場合と同様な破面を示します。この場合の放射状模様は、特徴的な山形模様(chevron pattern)を形成します。山形の頂点がき裂の進展してきた方向を示します。これより破壊の起点と進展経路がわかります。

切欠きなどの応力集中部がある場合は、図4.2.2(c)~(e)のように、応力集中部から亀裂が発生し、平滑材の場合と同様の破壊の経過をたどります。

破断の最後のせん断破壊部分(シャーリップ;shear lip)の大きさは、延性の大きさと正の相関があります。シャーリップの大きさは、事故解析において破壊部の材料が持っていた延性を示す重要な指標となります。

図.4.2.3は、切欠きのある板材の脆性破面の写真を示します。これは模式図では図4.2.2(d)の下の方の図に相当します。特徴的な山形模様が判ります。

図4.2.3 脆性破面の山形模様

 

図4.2.3 脆性破面の山形模様(シェブロンパターン)


 

まとめ

1.丸棒平滑材の引張試験による破壊形式は、材料の脆性・延性の性質の度合により、次の5つの破壊様式に分類されます。これら5つの破壊形式は典型的な例で、中間の状態ももちろんあります。

  脆性材料
   (a)ぜい性破壊(垂直破壊)
   (b)カップアンドコーン型破壊
   (c)2重カップ型破壊
   (d)チゼルポイント破壊
   (e)せん断破壊
  延性材料

2.カップアンドコーン型破壊は、延性破壊の要素もぜい性破壊の要素も含んでいます。
中央部の、引張方向に垂直な破面は繊維状破面と呼ばれ延性的な破壊様式です。その周囲に発生する破壊がより急速に進展した放射状破面はぜい性的な破壊様式を示します。延性材料では放射状破面が認められないこともあります。さらにその周囲の引張軸に対して45°方向に破断が進行したシャーリップが認められます。この部分は伸張ディンプルがが認められます。

 

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参考文献
100事例でわかる 機械部品の疲労破壊・破断面の見方  藤木榮 日刊工業新聞社
フラクトグラフィとその応用   小寺沢良一   日刊工業新聞社
機械部品の破損解析   長岡金吾   工学図書
Fractography   ASM Handbook Vol.12   ASM International

引用図表
[図4.2.1] 平滑材丸棒の引張試験における破損形式   フラクトグラフィとその応用
[図4.2.2]  マクロ破断面の特徴的様相            フラクトグラフィとその応用
[図4.2.3] 切欠き板材の脆性破面の山形模様       フラクトグラフィとその応用

 

ADD:2021/04/29
REV. 2017/11/19
ORG:2016/12/23