6.2 ぜい性破壊

6.2 ぜい性破壊(brittle fracture)

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1. ぜい性破壊とは

ぜい性破壊とは、塑性変形が最小限の状態、つまり外見上の変形がほとんど無い状態で分離・破断する破壊形式です。破壊した部分の永久ひずみが、伸びや厚さの変化として、おおよそ1%以下であればぜい性破壊と判断されます。また、ぜい性破壊は材料の弾性限度以下で発生する破壊として定義されます。

ぜい性破壊による破面は、破面どうしを密着させると元の形状に復することができますが、密着させることは破面を損傷させますので、避けなければなりません。

 

ぜい性破壊の事例として有名なものは、USAが第二次世界大戦中大量の物資輸送に対応するため戦時標準船として、溶接構造を全面的に採用したリバティ船の事故があります。200隻以上のリバティ船がぜい性破壊により、沈没もしくは使用不能に至りました。この事故の大規模な調査により、破壊力学の工学的応用が大幅に進展することになりました。(図6.2.1)

図6.2.1 リバティ船

 

 

2.ぜい性破壊の特徴

ぜい性破壊は、前兆となる異常が外部からほとんど感知されない場合にも発生します。高圧容器や船殻などで、ぜい性破壊が高速度で伝播して瞬時に大災害になります。伝播速度は1000~2000m/sに達するといわれています。ぜい性破壊の際、しばしば大音響を発します。また、破片が広範囲に飛散してしばしば二次災害を起こします。

 

ぜい性破壊の進行が、破面形成から音響発生、破片の飛散に至るのは、材料内部に蓄積されたひずみエネルギの開放による現象ととらえることができます。ひずみエネルギの一部が破面形成の表面エネルギに消費されますが、大部分は音・運動及び塑性変形に伴う熱エネルギに変化します。急激な破壊の伝播もひずみエネルギの消費によります。

 

ぜい性破壊は、一般的には次のような条件を満たすと発生し易くなります。

(1)温度の低下
(2)ひずみ速度の増加
(3)部材寸法の増大や切欠きの存在による応力集中

ぜい性破壊が自然伝播を開始する条件は、作用する応力とき裂寸法とが臨界条件を超えるときです。き裂の臨界寸法は、破壊力学に基づいて算定が可能です。材料や形状・寸法により変化します。

ぜい性破壊は、き裂が臨界寸法に達するまではその成長は緩やかです。この範囲では、雰囲気環境の化学作用による遅れ破壊や、繰返し応力による疲れ破壊が律速します。

 

 

3. ぜい性破壊の破面

ぜい性破壊の典型的なものは、へき開破壊といわれます。ほとんど塑性変形を伴わずへき開面で破壊するため、破面はへき開ファセット(cleavage facet)と呼ばれる結晶粒程度の大きさの最小破面単位が多数集合した状態になります。これを結晶質破面(granular fracture surface)といいます。破面には種々の方向の多くの反射点が認められます。光を当てる角度を変えると破面の輝点が移動します。マクロ的な破面の例を図6.2.2. に示します。また、へき開ファセットの例を図6.2.3に示します。

図6.2.2 ぜい性破面

図6.2.3 へき開ファセット

 

 

3.1 マクロフラクトグラフィ

ぜい性破壊はマイクログラフィ的には、伝播速度の大小により、へき開破壊と擬へき開破壊との2種類の破壊形態が観察されます。これらのマイクログラフィ的な特徴の他に、マクログラフィ的にも、延性破壊とは異なる破面の様相が認められます。ぜい性破壊は極めて高速で伝播しますが、破面には起点から伝播した破壊の経路が特徴ある様相として観察されます。

 

ぜい性破面には、一般的には方向性を持つひだ模様(ridge)が観察されます。このようなひだはその方向が破壊の伝播方向に一致します。ひだ模様が放射状である場合は、ひだが収れんする位置に破壊の起点があります。この例を図6.2.4に示します。

図6.2.4 ぜい性破壊の経路

 

破壊の起点には、切欠き作用を行う欠陥が認められる場合が多いです。図6.2.5は起点が疲労破壊の場合の例を示します。

図6.2.5 疲労破壊を起点とするぜい性破壊:材質ASTM A36(JIS S400B相当)

鋼板などにぜい性破壊が発生して、板の厚み方向に破壊が伝播する場合、破面に山形模様(chevron pattern)が重なって現れることが多いです。特にこのように重なって現れる場合をヘリングボーン状(herring bone)といいます(図6.2.6)。

図6.2.6 ぜい性破壊の山形模様   機械部材の破損解析 pp60

 

板材のぜい性破面にこのような山形模様が現れるのは、ぜい性破壊の伝播が板厚の中央部で速く、表面近くで遅いことにより、破壊の前線が円弧上に進行していくためです。つまり、破壊のある瞬間は扇状に伝播するものと考えられ、その軌跡が山形模様になります。この過程を模式図で表したものを図6.2.7 に示します。

図6.2.7 シェブロンパターンの生成機構

 

破面のひだ模様が伝播方向に一致するのは、引張方向に直角に形成された破面の拡大に従って、部分的に食違いのある平行面が生じて、それがひだの細長い面により連続して、ひだは破壊の前線に直角に形成されます。

金属の一部に発生したぜい性破壊が伝播するに従って、一般には破面の様相では税制度が低下します。例えば、板材のぜい性破壊の場合には、板の表面に沿ってシャーリップが破壊の伝播とともに発達します。

延性材料のぜい性破壊の場合、破壊の伝播の判断にはシャーリップの観察が有効です。シャーリップとは、破壊が内部から表面に達する場合の、応力状態の変化により起こるせん断破壊です。丸棒を引っ張るときに発生するカップアンドコーンのコーン部の形成に相当します。

板材のぜい性破壊は円弧状の前線を持ちながら伝播して、破壊が表面を内部から貫通しますが、伝播速度が低下するに従いシャーリップの形成が顕著になります。大規模な板状構造物では、ぜい性破壊形式で始まった破壊が途中で全断面せん断形式に変化して伝播し続けます。このような破壊はシャーリップが発達した状態になります。この際の破面は一方向に傾いたシングルシャーの破面になる場合も多いが、ダブルシャーの破面ができる場合もあります(図6.2.7のA,B,C)。

 

 

3.2 マイクロフラクトグラフィ

前項でも記述したようにミクロ的な破面としては、へき開破壊と擬へき開破壊との2種類の破壊形態が観察されます。基本的には伝播速度の大小で、比較的遅い場合は擬へき開破面が観察されます。この他、材料的に検討すると、通常の構造用鋼ではフェライトのぜい性破壊によりへき開破面となりますが、炭素量が多い鋼では、パーライトのぜい性破壊が起こり、擬へき開破面が観察されます。

 

(1)へき開破壊(cleavage fracture)

ぜい性破壊の典型的なもので、ほとんど塑性変形を伴わずにへき開面で破壊します。比較的炭素量に少ない炭素鋼のフェライト組織ので典型的に認められます。へき開破壊の例を、図6.2.8 に示します。

図6.2.8 へき開破壊の例

破面はへき開ファセット(cleavage facet)と呼ばれる結晶粒程度の微小破面単位よりなります。また、破壊は一つのへき開面だけでは平行ないくつかのへき開面にまたがるため、ファセットの面にはへき開段(cleavage step)ができます。へき開段はき裂が伝播するにつれて合流して、リバーパターン(river pattern)といわれる模様を形成します(図6.2.9)。川が下流になるに従って合流するのと同じで、亀裂の伝播方向が分かります。リバーパターンは隣り合う結晶粒の方位差のために、粒界に発生することが多いです。また、き裂伝播の際に、機械的双晶が形成されタングと呼ばれる舌状模様がしばしば観察されます(図6.2.10)。

図6.2.9 リバーパターン

図6.2.10 タング

 

(2)擬へき開破壊(quasi-cleavage fracture)

焼入れ焼き戻し鋼などのパーライト組織のぜい性破面でも、破面がファセットよりなりその上にリバーパターンやタングが形成されるのはへき開破壊と同様ですが、へき開面に沿った破壊かどうかが明瞭でない場合を擬へき開破壊といいます(図6.2.11)。

擬へき開破面の場合、リバーがファセットの中央部から周辺に、放射状に出ているものがあります。これは多数の微笑き裂が合体して破壊したことを示しています(図6.2.12)。

図6.2.11 擬へき開破面

図6.2.12 擬へき開破面のリバーパターン

また、き裂が合流する場合の若干の塑性変形によりファセットの周辺にティアリッジ(tear ridge)と呼ばれる稜状の部分が生じます(図6.2.13)。

図6.2.13 ティアリッジ

 

こちらもご覧ください。   脆性破壊

 

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参考文献
機械部材の破損解析   長岡金吾  工学図書出版 1979
Failure Analysis and Prevention  ASM Metals HandBook Volume 11
Fractography   ASM Handbook Vol.12
金属破断面写真集  小寺澤良一  テクノアイ出版部

 

引用図表
図6.2.1 リバティ船   Wikimedia
図6.2.2 ぜい性破面   海外大学(不明)の講義資料
図6.2.3 へき開ファセット   http://abl.gtu.edu.tr の講義資料
図6.2.4 ぜい性破壊の経路    機械部材の破損解析
図6.2.5 疲労破壊を起点とするぜい性破壊:材質ASTM A36(JIS S400B相当)   ASM Metals HandBook Volume 11
図6.2.6 ぜい性破壊の山形模様   機械部材の破損解析
図6.2.7 シェブロンパターンの生成機構   ASM Metals HandBook Volume 12
図6.2.8 へき開破壊の例   金属破断面写真集_テクノアイ
図6.2.9 リバーパターン   ASM Metals HandBook Volume 12
図6.2.10 タング   ASM Metals HandBook Volume 12
図6.2.11 擬へき開破面   金属破断面写真集_テクノアイ
図6.2.12 擬へき開破面のリバーパターン   金属破断面写真集_テクノアイ
図6.2.13 ティアリッジ      ASM Metals HandBook Volume 12

 

ORG: 2021/04/15