6.3疲労破壊

6.3疲労破壊(fatigue fracture)

 

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1.疲労破壊とは

機械や構造物は、荷重状態や応力状態は、その程度はいろいろあるにしても、ある範囲での常に変動しているのが普通です。例えば、橋梁では自動車の走行により、橋の部材はいろいろな振動、荷重の移動、変動荷重を常に受けています。

部材の強度を超える負荷が作用して、瞬時に破断する場合はともかく、破壊荷重よりかなり小さい荷重でも繰り返し作用することにより、最終的に破断にいたる破損が多く認められます。この破壊型式を疲労破壊といいます。一般に、機械や構造物が壊れる原因の80%以上に疲労が関与しているといわれます。

 

2.疲労破壊の特徴

機械や構造物を構成する材料が、荷重などにより発生するひずみや応力が繰り返し作用することにより発生する破壊を疲労破壊といいます。この他にも繰返し荷重により促進される破損・破壊現象に、フレッチング、へたり、ラチェッティングや、他の要因も付加される応力腐食割れ、クリープなどがあります。

疲労破壊には、下記に示すような特徴があります。

(1)最大繰返し応力 \( \sigma_{ max } \) が、静的な破断応力より小さく、弾性限度以下であっても起こり得ます。

(2)一定の応力範囲(振幅)\( \Delta \sigma ( = \sigma_{ max } – \sigma_{ min } ) \) の繰返し応力を付加すると、ある繰り返し回数\( N_{ f } \) で破断します。

(3)乾燥雰囲気においては、鉄鋼材料の場合、疲労破断を起こすのに必要な最低の応力、あるいは

多数回の繰返し(一般には、\( 10^6~10^7 \) 回程度)に耐える応力として、疲労限度 (fatigue limit) または耐久限度(endurance limit)が存在します。なお、一般に非鉄金属(銅、アルミニウムなど、及びその合金)には疲労限度は存在しません。また、鉄鋼材でも表面処理材では、異なった挙動を示します。

(4)(1)~(3)までの特徴を総合すると、\( \Delta \sigma \) と \( N_{ f } \) との聞には、図6.3.1 のような関係が有ります。ただし、ばらつきもあります。

図6.3.1 S-N曲線  出典:金属疲労はそのようにして起こるのか 金澤健二

(5)疲労によるき裂進展の過程は、①すべり帯の形成、②すべり帯入込部の微視的き裂の発生・成長、③引張応力方向に直角な巨視的き裂の発生・成長、④引張応力方向から45°方向への最終破壊の4段階もしくはその一部で構成されます(図6.3.2)。

図6,3,2 疲労き裂の進展過程  出典:金属疲労の基礎知識   中村 孝

(6)疲労き裂の成長速度は、縦弾性係数が同じなら、応力拡大係数の関数になります。

(7)き裂材でも、き裂が成長しない限界の応力拡大係数 \( \Delta K_{ TH } \) があります。

 

3.高サイクル疲労と低サイクル疲労

高サイクル疲労とは、疲労に対する材料の抵抗が繰返し応力により評価され、その疲労寿命Nf が \( 10^5 \) サイクル以上ある疲労現象をいいます。疲労と寿命との関係は通常S-N曲線と呼ばれる疲労寿命曲線であらわされます。これは、応力振幅と \( N_{ f } \) との関係を通常は片対数線図にプロットして表されます。

一方低サイクル疲労とは、疲労寿命\( N_{ f } \) が、\( 10^2 \leq N_{ f } \leq 10^5 \) サイクルにある疲労現象をいいます。低サイクル疲労では降伏点を超えた大きい塑性ひずみが繰返されるので、塑性疲労とも呼ばれることもあります。この寿命曲線は通常、塑性ひずみ幅 \( \Delta \epsilon _{ p } \) と \( N_{ f } \) との関係を両対数グラフ上にプロットすることにより表されます。多くの金属材料に対して,この関係が直線で近似されることが実験的に見いだされています。この直線関係は、コフィン・マンソン則と呼ばれます。

高サイクル疲労の例としては、プロペラ軸、車軸、回転羽根車、ぼね、歯車などの多くの機械要素の破壊が考えられます。一方、低サイクル疲労の例としては、圧力容器の破損のように繰り返し数は少ないが、高い応力や、ひずみを受ける際の破壊が考えられます。

 

3.疲労破壊の要因

疲労破壊の要因としては以下のようなものが考えられます。

(1)使用応力条件
部材に付加される変動応力の大きさ、繰返し数などがあります。切欠きが無くても、静的な降伏応力の数分の一以下の変動応力で疲労破壊が発生します。

(2)切欠き
機械や構造物では、凹みや溶接欠陥など構造的・形状的に応力が集中する箇所で疲労亀裂が発生します。これらは一般に切欠きと呼ばれます。特に隅部のRの形状が小さい場合に発生しやすくなります。また、切削痕が残っていたり介在物などの材料欠陥も切欠きとして作用します。

(3)使用環境
雰囲気が腐食環境で、繰返し応力が付加されると、乾燥環境と比較してより低い応力で亀裂が発生し、伝播します。この湯王な疲労を腐食疲労といいます。さらに、腐食で錆が発生したり、穴が開いたりすると、その部分が切欠きになって亀裂が進みます。

(4)その他
結晶粒度や、硬さなどの材質特性や、残留応力も影響します。

 

 

4.疲労破壊の破面

疲労破壊の破面の特徴を以下に示します。

(1)破面は、き裂の伝播方向にき裂の枝分かれ(副き裂)が無い、平坦な形態を示します(図6.3.3 (a))。一般的にいえば、急速な破断(ぜい性的、延性的な割れ)面よりも、疲労破壊の破面形状が平たんになります。これは、き裂が小さな力で徐々に伝播するためです。

(2)マクロ的な破面観察では、疲労波面形態のビーチマークが、き裂の伝播と直交する形で観察されます(図6.3.3 (b))。

(3)ミクロ的な破面観察では、疲労波面に特徴的な破面形態であるストライエーションパターンが、き裂の伝播と直交する形で観察されます(図6.3.3 (c))。

図6.3.3 (a)  疲労破壊マクロ破面  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料

図6.3.3 (b)  ビーチマーク(マクロ破面)  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料

図6.3.3 (c)  ストライエーションパターン(ミクロ破面)  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料

 

 

 

 

参考文献
破壊 安全工学講座3   安全工学協会  海文堂出版 1984年
金属疲労の基礎知識   中村 孝  鋳造工学  Vol.79 No.2  2007年
金属疲労はどの様にして起こるのか   金澤健二  精密工学会誌Vol.73 No.3 2007年
神鋼溶接サービス(株)技術資料  インターネット

 

引用図表
図6.3.1 S-N曲線  出典:金属疲労はそのようにして起こるのか 金澤健二
図6,3,2 疲労き裂の進展過程  出典:金属疲労の基礎知識   中村 孝
図6.3.3 (a)  疲労破壊マクロ破面  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料
図6.3.3 (b)  ビーチマーク(マクロ破面)  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料
図6.3.3 (c)  ストライエーションパターン(ミクロ破面)  出典:神鋼溶接サービス(株)技術資料

 

ORG:2023/04/28