ディンプル

ディンプル(Dimple)

 

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1. はじめに

金属材料の延性破面は、目視では凹凸の激しい、鈍い輝きをもった繊維状の破面として観察されます。この延性破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、多数の小さいくぼみが観察されます。このようなくぼみをディンプル(dimple)といいます。

ディンプルは、金属の塑性変形に伴い、材料中に存在する非金属介在物や析出物の微粒子の周囲に微小空洞(micro-void)が形成され、これらが結合(micro-void coalescece)してディンプルとなり、破壊にいたる際に発生します。

 

 

2. ディンプル形成の要因

ディンプル形成の要因としては、大きく分けて次の2つが挙げられています。

 

・金属材料中の非金属介在物や析出物の存在

・塑性変形の過程における粒界破壊

 

これらについて、もう少し詳しく考えましょう。

 

2.1 金属材料中の非金属介在物や析出物の存在

金属材料中の非金属介在物や析出物は、金属材料の製造過程で発生する酸化物による非金属介在物や固相中に析出する粒子です。これを第二相粒子(second-phase particles)といいます。これらは一般に母相と比較すると変形能が小さく、それらの存在は変形が進行している際に母相の塑性変形を阻止して応力集中を誘発して、粒子の周囲は局部的に高応力、高ひずみ状態になり、粒子自身が破壊したり、粒子の母相境界が剥離して、微小空洞(micro-void)が発生します。

ちなみに、これらの不純物の粒子をもたない純金属材料では、微小空洞(micro-void)の発生はほとんどありません。例えば、高純度のアルミニウムでは、断面減少率が100%の状態で破断します。

 

2.2 塑性変形の過程における粒界破壊

塑性変形の過程で、粒界破壊が起こります。粒界破壊は、粒界に沿って微小な空洞が形成され、それらが成長・合体することにより起こります。粒界破壊が発生すると、粒界に沿ってディンプルが形成されます。

 

 

3. ディンプルの種類

ディンプルの形状は、応力状態によって異なります。Bechem氏は、引張応力、せん断応力、断裂応力によりそれぞれディンプルが伸びる形状が異なります。引張応力の場合は、比較的円形に近い等軸ディンプル(equiaxed dimple)となり、せん断応力、断裂応力の場合は、一方向に引き伸ばされた伸長形ディンプル(elongated dimple)と呼ばれる2種類に大きく分類されます。

応力状態によるディンプルの形成状態と形状を図1 に示します。また、それぞれの応力状態によるディンプルの写真を図2に示します。

図1ディンプルの生成機構  出典:Elementary engineering fracture mechanics

図2ディンプルの種類   出典: ディンプル  森宗義 圧力技術Vol.12 No.5 1974年

 

ただし、ここで注意しなくてはならないのは、これらの分類はミクロ的な局所領域におけるもので、例えば軟鋼などでみられるカップアンドコーン(cup and cone)型の引張破断面では、破断面の中央部では最大主応力が破断面とほぼ垂直になるので、その破面は大部分が等軸ディンプルで形成されるのに対して、破断面の周辺部ではせん断応力が作用するので伸長形ディンプルが形成されます。

 

 

4. ディンプルの大きさ、深さ

非金属介在物・析出物粒子の周囲に、微小空洞(micro-void)が発生してから破壊にいたるまでの間で、微小空洞(micro-void)の成長と合体が起こり、これが破面のディンプルの大きさ、深さを決めると考えられます。

ディンプルの大きさは、起点となる粒子の大きさ、粒子の間隔、金属材料のじん性などに影響を受けます。

 

延性破面でディンプルを観察すると、大きさがいろいろなディンプルが観察されます。この場合、第二相粒子の大きさが支配的になると推定されます。第二相粒子が大きな場合、引張変形中に比較的早い時期からその周囲に微小空洞(micro-void)を形成して成長するので大きなディンプルとして観察されます。

 

一方、第二相粒子が小さい場合、微小空洞(micro-void)が形成されると同時に、瞬時に破断して破面には小さなディンプルが残ると考えられます。この場合には粒子の間隔がディンプルの大きさに大きな影響を与えます。図3はアルミニウム合金の場合について介在物の間隔とディンプルの平均的な大きさとの関係を示します。図4は、大きいディンプルの間に形成される小さなディンプルの例を示しています。大きいディンプルが形成される、すなわち空洞(void)管が破断するとき、小さなディンプルが形成されることを示しています。

図3 介在物の間隔とディンプルの平均の大きさ  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年

図4大きなディンプルの間の小さなディンプル  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年

 

微小空洞(micro-void)の成長は、塑性変形を起こし、引き伸ばされて合体するために、材料の内部ネッキング(internal necking)の容易さに強く影響されます。そのため、加工硬化を起こしやすい材料は、加工硬化の起こりにくい材料に比べて、小さなディンプルを形成します。また、ディンプルの深さは試験温度が高いほど深くなります(図5)。

さらに、ディンプルの大きさは荷重速度が増加するに従って小さくなります(図6)。

図5ディンプルの深さと試験温度との関係  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年

図6ディンプルの大きさに及ぼす荷重速度の影響  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年

 

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参考文献
解説 ディンプル -特集=フラクトグラフィによる破壊解析  森宗義  圧力技術Vol.12,No.5 1974年

 

引用図表
図1ディンプルの生成機構  出典:Elementary engineering fracture mechanics
図2ディンプルの種類   出典: ディンプル  森宗義 圧力技術Vol.12 No.5 1974年
図3 介在物の間隔とディンプルの平均の大きさ  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年
図4大きなディンプルの間の小さなディンプル  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年
図5ディンプルの深さと試験温度との関係  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年
図6ディンプルの大きさに及ぼす荷重速度の影響  出典:ディンプル 森宗義 圧力技術 1974年

 

ORG:2023/09/13