2.1.2 焼なましの種類

2.1.2 焼なましの種類(types of annealing)

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1.完全焼なまし(full annealing)(JIS記号 HAF)

完全焼なましは、焼なましの基本となります。完全焼なましの目的は、熱間加工で粗粒化した鋼内の組織を微細化したり、材質を軟らかくすることです(図2.1.2.1.1)。

図2.1.2.1.1 完全焼なましの加熱温度範囲

焼なましの方法は、亜共析鋼(0.765%C以下)の場合はA3点以上+50℃までの温度域、過共析鋼(0.765%C以上)の場合は、A1点以上+50℃までの温度域まで加熱、対象物の温度が内部まで同じ温度に加熱した状態を保持した後、ゆっくり冷却します。保持時間は炉の加熱容量の影響を受けますが、基本は対象物の肉厚1インチ(25㎜)に対して1時間とします。

冷却は、徐冷のため通常は炉内で熱源を切りそのまま冷却します(図2.1.2.1.2)。対象物を炉内で冷却を始めて冷却して炉外に取り出すまでには、長時間必要です。ただし、炉冷は臨海区域(約550℃)まででよく、この温度以下になれば炉外に出して放冷でも問題ありません。残留応力の影響を考慮する場合は400℃くらいまで炉冷します。したがって、二段冷却を行う場合を、特に二段焼なましという場合があります。

図2.1.2.1.2(a) 亜共析鋼の完全焼なまし温度曲線

図2.1.2.1.2(a) 亜共析鋼の完全焼なまし温度曲線

 

2. 等温焼なまし(isotermal annealing)(JIS記号 HAI)

工具鋼や合金鋼。高合金鋼などの、軟化焼なましに適した方法です。
焼なまし温度(A3もしくはA1から+50℃の範囲)に加熱した後、600~650℃の炉に移動させて、おおよそ20~50分間、等温に保持してから取出した後は、空冷します。
この方法では、作業時間が短くて済むのと、炉を循環的に使用できる利点があります。

図2.1.2.2.1 等温焼なましの熱処理線図

 

3.球状化焼なまし(spheroidizing annealing)(JIS記号;HAS)

鋼中の炭素濃度が高い過共析鋼の組織は、パーライト中にセメンタイト(Fe3C)が多量に存在します。セメンタイトは硬いので、工具や軸受などの鋼に現れる組織です。金属組織内に析出するセメンタイトの大きさや形状は様々です。これらの大きさを微細化し、形状を球状化する操作を球状化焼なましといいます。
セメンタイトは、A1点前後に加熱すると結晶粒界に網状に析出したものが切れ切れに分離し、それぞれの小片が表面張力によって球状化します。

球状化焼なましには、次の方法があります(図2.1.2.3)。
(1)A1点直下で長時間加熱した後、炉冷(空冷)する。
(2)A1点直上で加熱保持した後、A1点直下まで冷却する操作を数回繰り返す。

図2.1.2.3.1(a) 球状化焼なまし(1)の熱処理線図

図2.1.2.3.1(b) 球状化焼なまし(2)の熱処理線図

図2.1.2.3.2 に、球状化焼なましの金属組織を示します。

図2.1.2.3.2 球状化焼なましの金属組織

 

4.応力除去焼なまし(Stress relief annealing)(JIS記号;HAR)

応力除去焼なましは、JIS G0201「鉄鋼用語(熱処理)」では、「本質的に組織を変えることなく、内部応力を減らすために、適切な温度へ加熱又は均熱した後、適切な速度で冷却する熱処理」と定義されています。

応力除去焼なましは、精密工具の焼入れ前の予備熱処理として実施されます。応力除去焼なましを行った素材を粗形状に加工した後、焼入れ焼き戻しを行います。応力除去焼なましをすることにより、焼入れ変形が少なくなるばかりでなく、焼割れを防ぐことにもなりますので、工具鋼の素材メーカは通常応力除去焼なましを行った素材を提供しています。

応力を除去するためには、あまり高い加熱温度は必要ありません。A1変態点(727℃)以下で加熱します。最低温度は450℃です。理由は、鋼の応力は再結晶温度以上に加熱すると減少します。鋼の再結晶温度はおおよそ450℃です。したがって、応力除去焼なまし温度は450~650℃が適切な範囲となります。この温度で肉厚25㎜につき1時間保持した後、肉厚1インチ(25mm)につき200℃/hour(50mmの板厚では100℃/hour)の速度で冷却します。図2.1.2.4.1 に応力除去焼なましの熱処理線図を示します。

図2.1.2.4.1 応力除去焼なましの熱処理線図

 

5.中間焼なまし(intermediate annealing)と水なまし(water anneaking)

中間焼なまし、水なましのいずれも、加工を容易にするために対象物を軟化させるために行う処理です。加工後、適切な最終熱処理が必要です。

5.1 中間焼なまし

低温焼なまし、または軟化焼なましともいいます。その方法は、A1点直下まで加熱して炉外に取り出して空冷します。オーステナイト化しない程度にできるだけ高い温度(700℃程度)にあげる方が軟化しやすいです。通常は、550~650℃です。この方法でも、鋼は十分に軟化して切削性などの加工性が向上します。

図2.1.2.5.1 中間焼なましの熱処理線図

5.2 水なまし

水なましは、焼きの入った対象物を、旋削や穴あけなどの切削加工が可能な程度まで軟らかくしたい場合に適用されます。
加熱温度はA1変態点よりおおよそ100℃低い温度で10分間程度加熱してから、水の中に入れて急冷させます。A1変態点より100度低い温度での加熱するのがキモです。
図2.1.2.5.2 に水なましの熱処理線図を示します。水なましは、焼きが入った硬いものを簡便に機械加工が可能な程度に軟らかくするのに便利です。
加熱温度は、炭素工具鋼(SK)の場合で650℃、ダイス鋼(SKD1,11)の場合で750℃、ハイス(SKH9)の場合で800℃です。水冷でなく空冷でも軟化しますが、水冷のほうが簡便です。

図2.1.2.5.2 水なましの熱処理線図

 

 

 

参考文献
鋼・熱処理アラカルト  大和久重雄  日刊工業新聞社
トコトンやさしい熱処理の本  坂本卓  日刊工業新聞社
機械マンのための実用熱処理読本  松本伸  ジャパンマシニスト抜刷り
JIS鉄鋼材料入門  大和久重雄   大河出版

 

引用図表
図2.1.1.1 完全焼なましの加熱温度範囲   ORG
図2.1.2.1.2(a) 亜共析鋼の完全焼なまし温度曲線  参考;トコトンやさしい熱処理の本
図2.1.2.1.2(a) 亜共析鋼の完全焼なまし温度曲線  参考;トコトンやさしい熱処理の本
図2.1.2.2.1 等温焼なましの熱処理線図   ORG
図2.1.2.3.1(a) 球状化焼なまし(1)の熱処理線図  参考;トコトンやさしい熱処理の本
図2.1.2.3.1(b) 球状化焼なまし(2)の熱処理線図  参考;トコトンやさしい熱処理の本
図2.1.2.3.2 球状化焼なましの金属組織   JIS鉄鋼材料入門
図2.1.2.4.1 応力除去焼なましの熱処理線図  参考;鋼・熱処理アラカルト
図2.1.2.5.1 中間焼なましの熱処理線図  参考;トコトンやさしい熱処理の本
図2.1.2.5.2 水なましの熱処理線図  参考;鋼・熱処理アラカルト

 

ORG:2020/04/11