2.2.1 焼ならし

2.2.1 焼ならし(normalizing)

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1.焼ならしの目的

JIS B6905によれば、焼ならしは、「鉄鋼製品の前加工の影響を除去し、結晶粒を微細化して、機械的性質を改善するために、Ac3(A3)又はAcm点以上の適切な温度に加熱した後、通常は空気中で冷却する処理」と定義されています。

 

鋼の焼ならしの目的としては、以下のようなものがあります。

(1)内部応力の除去
鋼をいろいろな形状や規定寸法に圧延や鍛造などの塑性加工を行います。多くの場合鋼を熱して行いますので熱間加工といいます。加工度が高くなるほど、結晶構造が大きく乱れます。原子が存在すべき位置に無くなり結晶格子にひずみが生じます。そのひずみにより内部応力が発生します。時間が経過すると内部応力を緩和しようとして寸法変化を起こします。
それで、焼なましを行うことにより内部に蓄積されている応力を除去されます。

(2)結晶粒を小さくする。
熱間加工することにより、鋼組織の結晶粒は粗大化します。鋼をA3点以上に加熱すると結晶粒同士が合体して大きくなっていきます。結晶粒が粗大化するとそうでない場合と比較して機械的性質が劣ります。

(3)圧延などの塑性加工で生じた繊維状の組織を解消する。
亜共析鋼を圧延すると、圧延方向に金属組織が引き伸ばされます。金属顕微鏡で圧延品を観察すると、フェライト(白色)の中にパーライト(黒色)の組織が引き伸ばされているのがわかります。このような組織は不均一なため耐摩耗性は均一な組織と比較して悪くなります。また圧延方向とその直角方向とでは機械的性質が異なり、強度に方向性が生じてしまいます。焼ならしを行うことにより、組織が均一化してフェライト地の中にパーライトが分散され、微細パーライトと呼ばれる組織になります。

 

2.焼ならしのキーポイント

基本的には焼なましと同じ温度まで加熱してオーステナイト化した後、空中で放冷します。オーステナイト化するには、亜共析鋼(0.765%C以下)ではA3変態点以上50℃までの温度域、過共析鋼(0.765%C以上)ではA1変態点以上50℃までの温度域に加熱して、一定時間保持して内部まで同じ温度になるようにした後、そのまま空気冷却します。加熱温度が高いと結晶粒が大きく成長しすぎます。加熱保持時間は、1インチ当たり0.5時間程度です(図2.2.1.1)

 

図2.2.1.1 完全焼ならしの加熱温度範囲

焼ならしは、完全焼なましと類似した方法ですが、加熱炉から取出した後の冷却速度が冷却速度が速いという違いがあります。

機械構造用炭素鋼や機械構造用合金鋼の場合、完全焼なましすると軟らかすぎて、被削性があまり良くありません。一方焼ならししたものは、完全焼なまししたものと比較して硬化するので、被削性も良好です。炭素量が多いほど焼ならしの硬さが硬くなり、完全焼なましとの差異が大きくなります。

 

 

参考文献
鋼・熱処理アラカルト  大和久重雄  日刊工業新聞社
トコトンやさしい熱処理の本  坂本卓  日刊工業新聞社

引用図表図
2.2.1.1 完全焼ならしの加熱温度範囲   参考:トコトンやさしい熱処理の本

 

ORG:2020/05/01