2.4.2 工業粘度

2.4.2 工業粘度(industrial viscosity)

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液体の動粘度を測定する方法には、絶対粘度計と工業粘度計とがあります。絶対粘度計は、毛細管中を定められた液頭の下で一定量を流下する時間を測定して、層流流れの式により動粘度を算出する方法により行われます。一般にはガラスにより製作された測定機器です。詳細は別項にて示します。
しかし、絶対粘度計は取扱いが難しいところがあるので、より強い構造の工業粘度計が製作されています。代表的なものにレッドウッド、セイボルト、エングラー粘度計があります。これについても、詳細は別項に示します。

1. 絶対粘度計

絶対粘度計は、毛管粘度計ともいいます。オストワルド(Ostwald)粘度計や、キャノンフェンスケ(Cannin-Fenske)粘度計、ウベローデ(Ubbelohde)粘度計などがあります。図2.4.2.1にこれらの粘度計を示します。

図2.4.2.1 絶対粘度計

何れもガラス製で、粘度計の中に油を入れて温度を一定にした後、油溜まりの球部の上の標線から下の標線の間を油面が移動する時間tを測定します。粘度計は、標準粘度油により校正されており、個々の粘度計に、粘度計定数cが与えられており、動粘度νは

     (式2.4.2.1)

として直接求められます。

円形の毛細管を通過する油は、層流流れになり、ハーゲン・ポアズイユ(Hargen-Poiseulle)の式が適用できることから、動粘度を求めます。

ハーゲン・ポアズイユの式は、次式で表されます。導出及び動粘度の求め方については、別項にて記述します。

    (式2.4.2.2)

 

2. 工業粘度計

絶対粘度計は、ガラス製で取扱に注意が必要ですので、より強固な構造で工場でも使用可能な工業用粘度計が作られています。代表的なものとして、レッドウッド(Redwood)粘度計、セイボルト(Saybolt)粘度計、エングラー(Englar)粘度計などがあります。

図2.4.2.2 にセイボルトユニバーサル粘度計を示します。セイボルト粘度計はアメリカでは最もよく使用されています。セイボルト粘度計にはユニバーサル型とフローラル型とがありますが、よく使用されるのはセイボルトユニバーサル粘度計です。
この装置は、一定量の油(60cm3)が小さなオリフィスを通過して流れ出るのに要する秒数を測定します。この方法で測定された秒数で単位としてSSU(Seconds Saybolt Universal)を付けて、例えば、
「130℉ で 80SSU」 という表し方をします。この方法で測定された粘度を、セイボルト粘度といいます。

装置は、中央に測定対象の油を入れる容器があり、その周囲は湯煎用の液体が張られている槽で囲まれて加熱ヒータで温められて所定の温度に保持されます。中央の容器の下はチョークで絞られた後、開口していますが、測定準備の際はコルクで栓がされています。その下には60cm3秤量できる容器が置かれ、測定の際はコルクが抜かれて。油が60cm3流れるまでの秒数を測定します。

図2.4.2.2 セイボルトユニバーサル粘度計

他の粘度計も同様の形式で、例えばレッドウッド粘度計ではコルク栓の代わりに、ボールでチョーク部の入口側を塞いでいます(図2.4.2.3)。測定方法は同様です。また、この場合はレッドウッド粘度といいます。

図2.4.2.3 レッドウッドNo.1粘度計
これらの工業粘度と動粘度の関係については次の関係が近似的に求められています。

セイボルト粘度の場合

   (式2.4.2.3)

レッドウッド粘度の場合

  (式2.4.2.4)

ここで、
ν:動粘度
t:角工業粘度の秒数
です。

3. 回転粘度計

同心二円筒の聞に測定しようとする油を入れて、どちらかの円筒を一定回転数で回転させると、油の粘性のため相手の円筒も一定の回転力を受けるので、その回転力を測定して、粘度に換算します。

図2.4.2.4にその原理を示します。この場合は外側の円筒が回転します。内側の円筒はねじり線がねじれる際の反力と釣り合った回転位置で停止するので、その回転角度を読み取ります。これで読み取れるのは絶対粘度です。

図2.4.2.4 回転粘度計

この他、回転円板の油中での抵抗を回転トルクとして検出して、絶対粘度を測定する形式もあります。

4. 新しい粘度計

従来の潤滑油の動粘度は、1項に示すガラス製絶対粘度計(ASTM D445 またはISO 3104に基づく)で測定されるのが正規の方法でした。しかし、本形式の粘度計で、動粘度の測定を再現性良く測定するためには以下の点に注意して測定を実施する必要があります。

・毛細管内部の洗浄の徹底
・毛細管部の温度調整(恒温槽を使用)
・資料の定量採取
・人為的誤差

これらの問題を解決するために、大幅に自動化された「スタビンガー粘度計」が開発され、新しい標準的な測定法として、ASTM D7042に2005年に登録されました。

スタビンガー粘度計の原理を図2.4.2.5に示します。本測定手法は、回転する細い測定チューブ中に油を満たして、その内側に中空の円筒形状の磁性体を浮かせています。測定チューブは一定の速度で回転します。磁性体は、磁気的に同じ位置に固定されますが、測定チューブの回転による油のせん断力によって回転しますが、回転チューブにより発生する渦電流により磁性体には回転を抑制するトルクが発生します。回転トルクと抑制トルクとの平衡状態から、油の物性値を測定するものです。スタビンガー粘度計では、動粘度の他に、せん断粘度、密度および温度を同時に測定することができます。

図2.4.2.5 スタビンガー粘度計の原理

スタビンガー粘度計による測定で改善される点として、以下のものがあげられます。

・油の交換や、流路の洗浄が容易
・ペルチェ素子による温度調整方式のため、測定部の温度安定性に優れる
・測定に必要な油の量が少ない
・温度を変える際の応答性に優れ、かつ温度平衡状態に達するまでの時間が短い
・粘度指数(Viscosity Index:ASTM D 2270*7)の算出が容易かつ短時間で可能
・装置設置面積が小さい(恒温槽が不要)

 

 

 

 

参考文献
油圧教本 増補改訂版     日刊工業新聞社
トライボロジー入門    岡本純三 他   幸書房
Industrial Hydraulics 3rd edition   Jhon Pippenger, Tyler Hicks  Mcgraw-Hill
潤滑油の動粘度評価におけるASTM規格準拠の新たな手法 ジュンツウネット21    https://www.juntsu.co.jp/oiltest/oiltest-jirei01.php

 

引用図表
図2.4.2.1 絶対粘度計   Fluid Power NAVEDTRA 14105
図2.4.2.2 セイボルト粘度計  Industrial Hydraulics
図2.4.2.3 レッドウッドNo.1粘度計   トライボロジー入門
図2.4.2.4 回転粘度計   トライボロジー入門
図2.4.2.5 スタビンガー粘度計の原理   ジュンツウネット21

 

ORG:2018/7/6