3.2.2 圧縮性の影響

3.2.2 圧縮性の影響(effect of compressibikity)

スポンサーリンク

 

作動油は、通常の使用条件では非圧縮性であると考えて差し支えありませんが、高圧、高速での作動や高度な制御が必要な場合、わずかな圧縮量でも無視することができなくなります。
油圧装置で圧縮率を考慮しなければならないのは、作動油自体の圧縮性が問題になる場合と、作動油中に混入した空気の圧縮性による問題とがあります。

1.作動油自体の圧縮性

作動油の圧縮性は一般に圧縮率(compressibility)\( \beta \)、あるいはその逆数の体積弾性係数(bulk modulus)\( K \) で表されます。
圧縮率は、圧力による流体の体積の変化で定義されます。すなわち、体積\( V \)の流体に作用する圧力を\( \Delta P \)強めたときに、体積が\( \Delta V \)だけ変化するとすると、このときの流体の圧縮率\( \beta \)は、

\( \beta = \displaystyle\frac{ 1 }{ V }\frac{ \Delta V}{ \Delta P } \longrightarrow  – \frac{ 1 }{ V_{ 0 }}\frac{ dV }{ dP } \)   (式3.2.2.1)

で表されます。
また、体積弾性係数\( K \)は、

\( K = \displaystyle\frac{ 1 }{ \beta } = \frac{ V_{ 0 } \Delta P }{ \Delta V } \)  (式3.2.2.2)

ここで、それぞれの単位は

\( \beta : Pa^{ -1 }、K : Pa \)

です。一般には、体積弾性率\( K \)が多く用いられます。

体積弾性係数は、温度及び圧力、圧縮方法により異なります。
圧力と体積減少率との関係を、図3.2.2.1 に示します。厳密には曲線で表されますが、計算上はA点での実曲線の接線の傾き、あるいはA点での圧力の範囲の平均値のいずれかの定義で体積弾性係数が決められています。
前者を、正接体積弾性係数(tangent bulk modulus) \( K = -V( \partial P / \partial V ) \)、
後者を、正割体積弾性係数(secont bulk modulus) \( \overline K = V_{ 0 } / ( P / \partial V ) \)  と呼びます。
実用的には、ある圧力範囲の平均値を用いる場合が多いです。

 

図3.2.2.1 圧力と体積減少率との関係

また、圧縮方法には、断熱圧縮(動的)と等温圧縮(静的)とがあり、それぞれ変化が異なります(図3.2.2.2)。一般的に、油圧回路では断熱圧縮として計算します。作動油の圧力変化が比較的短時間で行われるからです。

図3.2.2.2 液体の体積圧縮率曲線

作動油の種類による断熱圧縮率の変化の例として、動粘度が異なる場合を図3.2.2.3 に、油種の差異による場合を図3.2.2.4 に示します。

図3.2.2.3 動粘度をパラメータとした断熱圧縮率曲線

図3.2.2.4 油種の差異による断熱圧縮率曲線

さらに、作動油の種類による圧縮率\( \beta \)と体積弾性係数\( K \)の代表的な例を、表3.2.2.5に、石油系作動油の温度条件と圧力条件を変化させた場合の容積を表3.2.2.6 に示します。

表3.2.2.5 作動油の種類による圧縮率と体積弾性係数

表3.2.2.6 石油系作動油の温度条件と圧力条件を変化させた場合の容積

2.作動油内に空気が混入している場合の圧縮性

石油系油圧作動油の場合、油自体の性質から大気圧で8~10wt%の空気を溶解しています。その量は圧力に比例しますが、溶解した空気は実用上圧縮性に影響を及ぼすことはありません。
しかし、溶解した空気が分離して気泡になった場合や、空気を巻き込んで小さな気泡が作動油中に分散した場合に大きく影響を及ぼします。このような状態では、作動油自体の圧縮性に加えて混入空気の圧縮性を考慮する必要があります。
両者を考慮に入れた体積弾性係数\( K^{ \prime } \) は次式で表されます。

\( K^{ \prime } = \displaystyle\frac{ K_{ 1 } K_{ 2 }}{ K_{ 2 } + x ( K_{ 1 } – K_{ 2 } )} \)  (式3.2.2.3)

\( x = 1 – \displaystyle\frac{ 1 }{ 1 – \displaystyle\frac{ x_{ 0 } }{ 1- x_{ 0 } } \cdot \displaystyle\frac{ 1 – \displaystyle\frac{ \Delta P}{ nP }}{ 1 – \displaystyle\frac{ \Delta P }{ K_{ 1 }}}} \)  (式3.2.2.4)

ここで、圧力\( P_{ 0 } \)の場合の空気の体積混合比を\( x_{ 0 } \)、絶対圧力\( P \)における空気の体積混合比を\( x \)、\( \Delta P = P – P_{ 0 } \)、作動油及び空気の体積弾性係数をそれぞれ\( K_{ 1 }, K_{ 2 } \)とします。

一般的に、 
\( n = 1.4 \):ポリトロープ指数(比熱比)
\( K_{ 1 } = 1.7 \times 10^3 \) (MPa)
\( K_{ 2 } = nP (= 1.4P) \):理想気体の場合
\( P_{ 0 } \):大気圧(1013.25hPa)

これらの条件から、空気混入量と全体の体積弾性係数\( K^{ \prime } \) 、圧力\( P \)との関係を図3.2.2.7 に示します。

図3.2.2.7 空気混入量と全体の体積弾性係数、圧力との関係

 



まとめ

油圧作動油の圧縮率は、作動油自体の圧縮性が問題になる場合と、作動油中に混入した空気の圧縮性による問題とがあります。
このうち問題となるのは、作動油に空気気泡が含まれる場合です。

 

転職で、サイトに掲載されていない【非公開求人】を活用する方法とは?

 

スポンサーリンク

 

 

参考文献
油圧作動油   新井澄夫  日刊工業新聞社  S42
油圧教本 増補改訂版 日刊工業新聞社
実用油圧ポケットブック 2012年版 日本フールドパワー工業会

引用図表
図3.2.2.1 圧力と体積減少率との関係    油圧作動油   pp74
図3.2.2.2 液体の体積圧縮率曲線   油圧作動油   pp75
図3.2.2.3 動粘度をパラメータとした断熱圧縮率曲線   油圧作動油   pp75
図3.2.2.4 油種の差異による断熱圧縮率曲線   油圧作動油   pp75
表3.2.2.5 作動油の種類による圧縮率と体積弾性係数   実用油圧ポケットブック 2012年版  pp253
表3.2.2.6 石油系作動油の温度条件と圧力条件を変化させた場合の容積   実用油圧ポケットブック 2012年版  pp253
図3.2.2.7 空気混入量と全体の体積弾性係数、圧力との関係   油圧作動油  pp79

ORG: 2021/05/02