3.2.3 空気の混入とその影響

3.2.3 空気の混入とその影響(oil contamination and its influence)

 

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1.ヘンリーの法則と作動油への空気の溶解度

ヘンリーの法則によれば、液体中の気体の溶解度は、その絶対圧に比例します。通常は温度の上昇とともに低下します。

油系作動油に溶解する空気は、大気圧状態でおおよそ8~10%になり、水に溶解する空気が2%程度であるのに対して非常に大きいです(図3.2.3.1)。

図3.2.3.1 各種作動油の空気溶解度   実用油圧ポケットブック 2012年版

 

2.エアレーション発生の問題点

空気は作動油に溶解している限りは、大きな影響を与えませんが、例えば圧力が急激に変化(減少)した場合は、溶解していた空気が、細かい気泡になって作動油に混入する状態になります。この状態をエアレーションと言います。

エアレーションが発生すると、油圧装置の機能に甚だしい影響を与えるので注意が必要です。具体的には、

(1)体積弾性率の低下
(2)混入空気の体積分率に対応する流体密度の低下
(3)油圧作動油の粘度のわずかな増加
(4)騒音発生
(5)キャビテーションに似た現象によるポンプなどの機器の損傷

などが考えられます。

一方、気泡の状態で空気が含まれている油圧作動油が、油圧ポンプを通過すると含有空気は断熱条件の下で急激に圧縮されますので、圧縮された気泡の温度が上昇して、結果として油温が上昇し油圧作動油の劣化を早めます。
計算例を、付録として記します。

 

 

3.エアレーション発生の要因

油圧作動油に未溶解空気が存在する原因として、以下の要因が考えられます。

(1)局所的に圧力が低下して、油圧作動油中に溶存していた空気が解放される
(2)パイプの接続部やシール部、サクションラインなどからの空気混入
(3)リザーバの液面が低いため、油圧作動油の停留時間が不十分
(4)タンク設計不良
(5)空気が混入した油圧作動油が吸込口に戻る
(6)メンテナンスが不適切

 

 

付録:圧縮される気泡の温度上昇

一般に、気体の圧力と体積との関係は、ポアソンの法則で表されます。

\( P_{ i } V_{ i }^k = P_{ 2 }V_{ 2 }^k = PV^k = constant \)  (式3.2.3.1)

 

ここで、

\( k \):断熱指数(理想気体では\( k=1.4 \))

\( P \):絶対圧力(MPa abs)

(式3.2.3.1) より、

\( \displaystyle\frac{ P }{ P_{ i }} = \displaystyle \left( \frac{ V_{ i }}{ V } \right)^k \) 

もしくは

\( \displaystyle\frac{ V }{ V_{ i }} = \displaystyle \left( \frac{ P_{ i }}{ P } \right)^{ 1/k } \)  (式3.2.3.2)

 

\( P_{ i } V_{ i } = mRT_{ i } 及び PV = mRT \)  (式3.2.3.3)

(式3.2.3.2),(式3.2.3.3) より、温度上昇\( \Delta T \)⊿Tは、

\( \Delta T = T – T_{ i } = T_{ i } \displaystyle ( \frac{ P }{ P_{ i }} \cdot \frac{ V }{ V_{ i }} ) -T_{ i } = T_{ i } \displaystyle { ( \frac{ P }{ P_{ i }} )^{ \frac{ k-1 }{ k }} -1 }  \)   (式3.2.3.4)

 

[計算例]

油圧ポンプ入口条件:\( P_{ i } = 0.1MPa \), \( T_{ i } = 273.16+15 = 288.16K \)Pi=0.1MPa、T1=273.16+15=288.16K
油圧ポンプ出口圧力:\( P = 7MPa \)7MPa

とすると

\( \Delta T = 288.16 \cdot { \displaystyle ( \frac{ 7 }{ 0.1 } )^{ \frac{ 1.4-1 }{ 1.4 }} -1 } = 682K = 409℃ \)

になります。もちろん理論値ですが、非常に大きな値になります。

 

 

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まとめ

・鉱物油系油圧作動油には、大気圧で8~10%程度の空気が溶解しています。

・油圧作動油中に溶解している空気が、急激な圧力変化により細かい気泡となって分離した状態をエアレーションと言い、油圧機器に有害な影響を与えるので注意しなければなりません。

・油圧回路内にできるだけ未溶解空気が存在しないように、注意が必要です。

 

 

 

参考文献
実用油圧ポケットブック 2012年版 日本フールドパワー工業会
Fluid Power Engineering   M. Garal Rabie, Ph.D.  McGraw Hill  2009年

 

引用図表
図3.2.3.1 各種作動油の空気溶解度   実用油圧ポケットブック 2012年版

 

ORG: 2021/08/24