6.2.3 油圧作動油の汚れ

6.2.3 油圧作動油の汚れ(hydrauric oil stains)

 

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微粒子などで汚染された油圧作動油を使用すると、スプール弁のかじり・固着現象、ピストンポンプの摺動面の焼付き、オイルシールの損耗や、機器の作動不良などの問題が発生します。それを避けるために油圧回路は必要に応じて、あるいは定期的にフラッシングを行い、油圧回路、機器、及び作動油を常に正常な状態に保たなければなりません。もちろん、汚れの原因の除去を図らなければなりません。

 

 

 

1. 外部から侵入する異物

機器や回路の組立前や組立時時に、細心の注意を払わないと、溶接スケールやスパッタ、機械加工時の切粉、バリ残り、ショットブラスト時のショットや砂、ガラスビーズなどの残滓や錆、塗料破片、ウェス・手袋などの繊維残り、油圧ホースやシール材の破片など、諸々の異物が作動油に混入します。フラッシングを十分行わないと、機器の損傷を招きます。

また、空気中の塵埃や水分などの、注油口や通気口からタンク内に侵入。クーラからの水漏れ。切削油や潤滑油の作動油への混入などが考えられます。

 

ここからは、管理人の経験した不具合事例です。

管理人が所属していた企業は油圧機器の製造業でした。スプール弁を主機メーカに納入していたのですが、ある時立て続けにほぼ同一製造ロットで、弁の固着による作動不良のクレームが発生しました。
顧客の担当者は、「御前の所のバルブにゴミが残っていたのが原因。」との一点張りで、聞く耳を持ってくれませんでした。
台数も多かったので、客先立合いでバルブの分解を行いました。確かにスプールには摺動方向に傷が多数ありました。バルブ内に残っていた作動油も可能な限り回収しました。油分を除去するために使用した洗浄油も回収しました。
顧客は、「ほら大きな傷があるだろう。バルブ内に残っている油も目視でわかるコンタミがいっぱいあるぞ。」と、仰られました。
その後の打合せでも、「フラッシングの際に問題はありませんでしたか?」とお聞きしても、「工場内で、外注作業員にさせている。手順も確認した。」と仰られるばかり。いくら言っても無理かなとあきらめ、報告書は後日提出ということで、御了解頂き終了しました。

ここからが、本番です。スプール弁のランド部の傷。これは確かに異物が噛みこんだわな。この傷を観察していても何も進まない。本命は客先立会いで回収したバルブ内の作動油。回収時、バルブの外側は念入りに洗浄スプレーを吹き付けてコンタミをきれいに除去。回収した作動油は純粋にバルブの中の残存物ということは、顧客の立会人に確認してもらったもの。まずは、回収作動油に試薬特級の石油エーテルを混合させて、ろ紙に受けます。これは作動油の重量法とほぼ同じやり方です。
ろ紙を乾燥させて、マイクロスコープで観察です。
出るわ。出るわ。明らかに製品の塗装色とは異なる青色の塗料片、黒っぽい小片、銀色に光る薄い金属片(切削時に見えるしわもありました)、繊維くず、黒っぽく一見鉄っぽいけど縁のギザギザの感じが鉄片とは異なるものなど、本当にいろいろな異物のオンパレードでした。
これを、1個ずつ何かを特定する作業を開始します。全部説明して顧客に納得してもらわなくては。
まずは、磁石でコンタミ片が動くかどうかで鉄系材料か、それ以外かの確認。ありそうな材料のコンタミの外観との比較、SEM-EDXで材質の特定を進めて行きました。
結果、いろいろ材料を特定して、我々の製品由来のコンタミではない。特に銀色に光る金属剥片は、ギアポンプのワイプ片と特定して、顧客のフラッシング方法の不具合、我々の製品は、キャッチャーになっただけと結論付けました。

勝った負けたではないけれど、勝ちました。

これは自己満足の自慢ですね。ゴメンナサイ。

 

2. 内部で生成される異物

これには、パッキンやOリングなどの破片や、ポンプ・シリンダ・バルブなどの摩耗による金属粉、作動油に高温・高圧が付加されることによる酸化作用や熱分解による化学反応によるゴム状物質、不溶性スラッジなどがあります。この他、Oリング・油圧ゴムホース・パッキンなどの非金属製品が、作動油による溶解・硬化による異物などがあります。

 

3, 油圧回路に発生する異物

油圧回路に発生する代表的な異物の種類と、特徴・発生原因について、表6.2.3.1 に示します。

図1油圧回路の異物とその特徴  出典:油圧教本 増補改訂版

 

4. 油圧作動油の劣化

油圧作動油が汚染されると、劣化が促進されます。油圧作動油の劣化は、運転中に空気と混合して空気中の酸素により少しずつ変質します。油圧作動油の劣化を判定するには、密度、粘度、酸価、水分含有量、色相、引火点などの性状の変化を把握する必要があります。

現場的に、簡易的に判定する方法として、以下のようなものが考えられます。

(1)新油と比較して、色相の変化や水分含有量、沈殿物の有無などを確認する。
(2)容器に入れて、振って発生した泡の消泡の程度を観察する、
(3)刺激的なにおいが無いか、確認する。
(4)量的な判断は難しいが、水分が含有されているかの判定として、熱した鉄板の上に作動油を一滴落として、シューシューという音がするか。
(5)完走したろ紙の上に作動油を一滴落として、輪の広がりの色や落とした点の斑点の状態などを観察して、不純物が含まれていないかを確認する。

 

 

 

参考文献
油圧教本 増補改訂版   塩崎義弘他  日刊工業新聞社 s48年

 

引用図表
図1油圧回路の異物とその特徴  出典:油圧教本 増補改訂版

 

ORG:2023/06/14