1.2 金属表面の現象(phenomenon of metal surface)

1.2 金属表面の現象(phenomenon of metal surface)

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金属表面は、内部とは異なる性状を示します。ここでは、金属表面に特有な現象について述べます。

1. 溶解、酸化

金属表面には、微視的にも巨視的にも、内部とはいろいろな点で異なっています。微視的に見ると、図1.2.1に示すように、いろいろな表面欠陥があるし、巨視的には、加工などで生じた表面の凹凸やクラックなど不規則性を持った状態で、内部と比較して非常に複雑な様相を示します。

[図1.2.1]  単純立方格子の(100)面の格子欠陥   エロージョン・コロージョン

金属表面が、内部とは異なる特異性が、表面エネルギーの存在です。金属表面は、原子配列や、化学結合、電子状態など内部と様相が異なっています。例えば、ステップ、キンク、転位などは化学的に活性な場所です。

単純立方格子の内部の原子の結合エネルギーをΦとすると、完全な結晶面から原子1個を取り出すのに必要なエネルギーは5Φですが、キンクでは3Φ、ステップでは4Φ、刃状転位では約4Φになります。従って、金属表面で欠陥がある結晶構造が不完全な部位では、表面のエネルギー状態が、内部と比較して過剰になっているため、溶解や酸化が起こりやすくなります。

また、完全な結晶であっても、結晶粒の結晶方向により耐腐食性が異なります。幾種類かの金属について、腐食されやすい結晶面を、表1.2.2に示します。

[表1.2.2] 選択的に腐食される結晶面 表面処理

2.吸着

金属表面の付着している不純物の生成の要因の一つが、吸着です。吸着と脱着とが可逆的に変化する場合を物理吸着、不可逆的に変化する場合は化学吸着といいます。

物理吸着における吸着力は主としてファンデルワールス力で、吸着分子は分子のままで吸着しています。また、吸着熱は小さくです。一方、化学吸着における吸着力は、化学結合力は化学結合力に近いです。吸着された分子は、しばしばかい離して原子状態にあります。いろいろな場合の吸着式が求められています(吸着量と吸着ガス圧や濃度などとの関係式)。

物理吸着を利用すると、固体表面の真の面積を測定できます。固体表面に気体が吸着して単分子層を形成するのに必要なガス量を求めて、これに吸着分子1個の断面積を掛けて、次式により表面積が求められます。

     (式1.2.1)

ここで、

A: 表面積 (m2
S: 吸着分子1個の断面積 (m2
V: 単分子層を形成するのに必要なガス量 (l STP)
STP: 標準状態(0℃、1気圧)に換算した値で、温度が273.15K、圧力が1.01325 x10^5Paの状態を示します。
22.4: モル体積。標準状態の1molあたりの気体の体積 (l/mol)
6.06 x 10-23: アボガドロ定数。1molに含まれる気体分子の数 (mol-1

一方化学吸着は、金属の触媒作用に密接な関係があります。

3. 電子放射

金属結晶の表面は、一般には導電性があるため、常に電気二重層と呼ばれるものが存在します。これは荷電粒子が比較的自由に移動できる系に、電位が付与されたときに、電場により荷電粒子が移動した結果、界面に正負の荷電粒子が対を形成して層状に並んだものです(図1.2.3)。

[図1.2.3] 電気二重層の模式図  (Wikipedia)

[図1.2.4] 仕事関数とエネルギーダイヤグラム   元:ベーシック表面化学_化学同人

金属内部、および金属表面に捕えられている電子は、真空中の自由電子よりエネルギーが低いです。その理由は2つあります。表面項とバルク項と言われるエネルギーです。

(1)表面項

物質表面では、電子が表面で急に立ち上がるポテンシャル変化に対応できずに界面より外にはみ出します。そうすると、金属表面から少し内側では、電子が不足します。従ってその部分は正電荷を持ち、金属表面より外側では負電荷が分布しています。これが電気二重層です。これはコンデンサと同じものですので、物質内部の正電荷側の電子の方が、表面側よりポテンシャルエネルギーは低くなります。これが表面項の要因です。

(2)バルク項

金属内部は、電子が大量にありますが、一つの電子のまわりには電子同士に働くクローン力により反発しあう性質(相関相互作用)による領域が存在します。これは、クローン孔、相関ホールと呼ばれます。さらに、同じスピンをもつ電子同士は、パウリの排他原理による鋼管相互作用による反発が働きます。さらに、他の電子を排除している領域(フェルミ孔、交換ホール)が存在します。すなわち、各々の電子のまわりには電子密度がやや低く実効的に正電荷をもつ空間が存在して安定化しています。
バルク項は、このような交換相関相互作用による安定化エネルギーVXCから、運動エネルギーを差し引いた量です。

従って、仕事関数は式1.2.2であらわされます。

   式1.2.2

異種金属の接触電位差は、それぞれの金属の仕事関数の差に等しくなります。

金属の熱電子の放射は、主として、温度と仕事関数の関数になります。ただし、常温では通常は微量で測定が困難です。
ただし、新しい研磨面からは測定可能な電子放射が認められる場合が多くあります。この現象をエキソエレクトロンエミッション (exoelectron emission)、あるいはクレマ効果 (Kramer effect)といいます。
この電子放射は、表面酸化皮膜のイオン空孔によるものであると考えられています。金属の仕事関数は金属の吸着作用および触媒作用とも密接な関係があります。

4.ラッセル効果(Russel effect)

銀塩写真の時代の話で、今はあまりなじみが無くなってしまっていますが、研磨した直後の研磨面を、銀塩の写真乾板に接しておくと、研磨面の像が乾板に転写して現れる現象をラッセル効果といいます。

この現象は、研磨面で水がかい離してOH-基を生じ、これから過酸化水素(H2O2)が生じるためと考えられています。例えば、蒸留水中で、亜鉛(Zn)を切断する、切断回数とともにH2O2の発生量が増加します(図1.2.3)。

 

[図1.2.5] 水中でのZn切断により発生するH2O2    表面処理

5.レービンダ効果(Rehbinder effect)

界面活性剤を含む溶液中で、金属の機械硬さが低下する場合があります。この現象をレービンダ効果といいます。発生する原因は、金属、あるいは金属表面の酸化被膜に、有機物質が吸着して表面エネルギーを低下させるためと考えられます。

6.表面エネルギー、表面張力

金属表面の原子は、内部の原子と比較すると、周囲の原子が書けた状態に等しくなっています。そのため、原子を除去するのに必要なエネルギーに相当するエネルギーが、金属表面には過剰に存在します。このエネルギーを表面自由エネルギーといいます。

表面自由エネルギーは、式1.2.3であらわされます。

         (式1.2.3)

ここで、

σx: 表面自由エネルギー
ΔEx: 表面エネルギー
T: 絶対温度

σxが一般に測定されている表面張力です。

表面エネルギーは、金属の機械的強さと密接な関係があります。表面エネルギーが何らかの原因で退化すると、機械的強さも低下します。レービンダ効果もその一種です。

 

 

 

参考文献
表面処理   日本金属学会
エロージョンとコロージョン     (社) 腐食防食協会編   裳果房

 

引用図表
[図1.2.1] 単純立方格子の(100)面の格子欠陥   エロージョン・コロージョン
[表1.2.2] 選択的に腐食される結晶面 表面処理
[図1.2.3] 電気二重層の模式図  (Wikipedia)
[図1.2.4] 仕事関数とエネルギーダイヤグラム   元:ベーシック表面化学_化学同人
[図1.2.5] 水中でのZn切断により発生するH2O2    表面処理