2.3 脱脂(Degreasing)

2.3 脱脂(Degreasing)

 

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1.脱脂とは

脱脂とは、金属表面に付着した油脂分やほこり、ゴミなどを除去する処理です。加工後の金属製品の表面には、加工油剤や防錆油、ほこり、金属片などが付着しています。金属製品(ワーク)の表面に付着している、これらの異物を除去してめっきなどの表面処理や塗装に適した状態にする工程を、脱脂工程といいます。

2.脱脂処理の必要性

ワークの表面に、加工油剤や防錆油、ほこり、金属片が付着している状態は、表面処理や塗装に不適です。油性加工油や防錆油が付着していると、水分をはじくため、表面処理に使用する薬剤もはじかれます。そのため、ワーク表面での薬剤反応が十分に起こらない個所ができ、均一な表面処理を行うことができません。
例えば、メッキの場合密着不良の80%は脱脂不良に起因すると言われています。塗装の場合も、油分やほこり、金属片などの異物が表面に付着していると、その部分では、塗膜がワーク表面に密着せずに、塗膜がはがれてしまったり、錆が発生したりします。
従って、ワーク表面を清浄な状態にすることは、製品が良好な品質を確保するために必要な条件です。

3.脱脂処理の種類と特徴

脱脂処理方法としては、物理的脱脂方法と、化学的脱脂方法の2種類に大きく分類されます。
物理的方法には、研磨剤をワーク表面に吹き付けて脱脂を行うブラスト法(ウェットタイプ)や、ワーク表面に水蒸気を吹き付けて脱脂を行う水蒸気法、沸騰水で煮沸する煮沸法などがあります。
物理的脱脂方法は洗浄方法とも重複する所が多くありますので、詳細は洗浄の項で既述したいと考えます。

化学的方法には、溶剤を使用して脱脂する溶剤洗浄法、アルカリ性薬剤を使用して脱脂するアルカリ脱脂法、酸性薬剤を利用する酸洗浄法などがあります。
さらに、めっきなどの高度の表面清浄度が要求される場合は、これらの脱脂法を予備脱脂として、仕上げとして電解脱脂が行われます。

4.化学的脱脂方法

この項では、化学的脱脂方法について、もう少し詳しく見ていきましょう。

(1)溶剤脱脂

従来は、トリクロロエチレンなどの塩素系有機溶剤が使用されてきましたが、その毒性やオゾン層の破壊などの問題があり、今後は全廃される方向にあります。現在では、炭化水素系の有機溶剤が使用されています。この場合、引火性が強く、火災に注意が必要です。
製品表面のグリースや加工油などの鉱物油系の油脂の除去に適しています。脱脂のシステムとしては、汚れを薄めるもので、完全な脱脂方法ではありません。電解脱脂の予備脱脂に適しています。

(2)乳剤脱脂

広い意味で溶剤脱脂に分類されます。鉱物性油脂の付着量が多いときに特に有効な予備脱脂となります。ケロシン(灯油)のような沸点が比較的高くて価格が安い有機溶剤を、界面活性剤によって乳化させたものを、製品表面の油脂分に染みこませて、軟化・均質化してから、微アルカリ性の熱湯で洗浄して、油脂分を除去します。
例えば、ケロシン;90~95%、界面活性剤;1~5%、少量の水を混合、激しく撹拌して乳化させ、撹拌しながら、30~45℃で製品表面を処理します。処理後、ただちに0.5~1.0%のNa2CO3水溶液を高温にして洗浄します。

(3)アルカリ脱脂(煮沸洗浄)

主として、製品表面に付着している切削油、プレス油などの油の除去を目的とします。
アルカリ化合物とけん化性油脂とが結合すると、水溶性の石けんができます。アルカリ脱脂はこのけん化作用により脱脂する方法です。
アルカリ脱脂は、無機成分としては水酸化ナトリウム(NaCl)や、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、リン酸ナトリウム(Na2PO4)、オルトケイ酸ナトリウム(Na4SiO4 )、メタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)などのアルカリ化合物に、少量の界面活性剤を添加して使用します。
鉄鋼表面の処理の場合は、pH値が大きくても問題が無いのでけん化作用が強い水酸化ナトリウムを使用しても問題ありませんが、非鉄金属である銅や亜鉛、アルミニウム、およびこれらの合金表面の処理については腐食作用があるので、pH値を守らなければなりません。例えば、銅の処理の場合はpH値が約11、亜鉛、アルミニウムの場合はpH値約10を守る必要があります。
表2.3.1に各種材質用のアルカリ脱脂液の組成の例を示します。

[表2.3.1] アルカリ脱脂液の組成

何れも、pH値が大きすぎる場合は、NaHCO3を添加してpH調整します。オルトケイ酸ナトリウムは、脱脂に非常に効果がありますが、金属表面にケイ酸の皮膜を形成しやすいので、できるだけ濃度の低い溶液を使用する必要があります。水洗についても十分注意する必要があり、界面活性剤も過度の使用は控えなければなりません。

(4)電解脱脂

十分な脱脂を行うためには、電解脱脂が不可欠です。溶剤脱脂や、乳剤脱脂、アルカリ脱脂は、何れも予備脱脂と位置付けられています。

電解脱脂は、製品を陰極あるいは陽極として電流を通じ、金属表面の脱脂を行う方法です。電解液は、アルカリ化合物を主体としています。汚れの種類によっては、界面活性剤などを少量添加して、使用する場合もあります。

作用は、電解により発生するガスによる、表面撹拌、および陰極還元、陽極酸化です。この方法は、微小な気泡が製品表面の微小な穴や割れの中まで入り込んで、表面全体の微量な汚れまで、迅速で確実に除去するので、最終の仕上げ脱脂に最適です。
脱脂方法には、陰極脱脂および陽極脱脂とがあります。それぞれの特徴を、表2.3.2に示します。

表に示すように、それぞれ一長一短があります。
陰極電解脱脂(図2.3.3)は、鉄鋼製品では水素脆性を起こす可能性があり、高炭素鋼には適用できません。一方水素ガスで汚れを落とすので、製品表面の酸化物の膜も除去出来て、金属表面を活性化できます。
陽極電解脱脂(図2.3.4)は、酸素ガスで汚れを酸化して分解除去するので、水素脆性の問題は発生しませんが、製品表面に不働態被膜や酸化被膜を生成するので、処理後は酸洗いを行い活性化する必要があります。その際に水素脆性について考慮が必要です。
最近では、両者を併用したPR電解脱脂(陽極と陰極とを設定時間ごとに交互に切り換える。)も使われます。

[表2.3.2] 陰極電解脱脂と陽極電解脱脂との特徴

[図2.3.3] 陰極電解脱脂

 

[図2.3.4] 陽極電解脱脂

 

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参考文献
表面処理     日本金属学会
トコトンやさしいめっきの本     榎本英彦   日刊工業新聞社
電気めっき加工全般に係る技術テキスト   中小企業総合事業団

 

引用図表
[表2.3.1] アルカリ脱脂液の組成  表面処理
[表2.3.2] 陰極電解脱脂と陽極電解脱脂との特徴  表面処理
[図2.3.3] 陽極電解脱脂   参考:トコトンやさしいめっきの本
[図2.3.4] 陽極電解脱脂   参考:トコトンやさしいめっきの本

 

Add:2023/3/15
Correct:2018/5/17

ORG:2017/2/25