7.1 物理蒸着:PVD(Physical Vapor Deposition)

7.1 物理蒸着:PVD(Physical Vapor Deposition)

物理蒸着は、真空を利用したドライコーティング技術です。乾式めっきの一種です。主に機械部品や工具類の表面に硬質膜を生成させます。その目的は耐摩耗性の付与、及び摺動特性を改善することにあります。

物理蒸着には、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングの3つの種類があります。

 

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1. 真空蒸着

真空蒸着の原理は、反応容器内を高真空(10^-2Pa以下)にした状態で、コーティングしたい蒸発物質を加熱して蒸発させて、被処理物に皮膜を形成(堆積)させます。

蒸発源の加熱方式には、抵抗加熱方式と電子ビーム加熱方式とがあります。

[図1] 真空蒸着の基本的な原理と加熱方式

(1)抵抗加熱方式
タングステン(W)、タンタル(Ta)などの高融点金属製のボート上に蒸発物質を載せて、ボートに取り付けられたヒータで、直接加熱します。ボートの代わりに、セラミックス製のるつぼをヒータで加熱する形式もあります。

(2)電子ビーム加熱方式
水冷されたルツボに入れた蒸発物質に、電子ビームを照射して蒸発させます。

真空蒸着の適用例は、ガラスやプラスチック製品へのコーティングの例が多いです。アルミニウムを蒸着したミラーやコンパクトディスク、レンズの反射防止膜の生成に利用されています。

2. スパッタリング

スパッタリングの原理は、成膜したい金属をイオン化した不活性ガスで弾き飛ばして被処理物に付着させます。成膜したい金属を”ターゲット”と呼び、被処理物を”基板”と呼びます。ターゲットと基板との間に直流高電圧を付加(印加といいます)することで、アルゴンなどの不活性ガスをイオン化して、カソード側のターゲットに衝突させます。その結果ターゲットから金属が飛び出して、弾き飛ばされた金属イオン粒子は、反対側の基盤に付着して成膜します。

微量の窒素や炭化水素ガスを、チャンバー内に導入することで、金属の窒化膜や炭化物の皮膜を成膜することができます。これは、”反応性スパッタリング”と呼ばれています。成膜は低温でも可能ですので、プラスチック素材にも適用されます。

スパッタリングの代表的な方式には、直流二極スパッタリングや、マグネトロンスパッタリングなどがあります。

[図2] スパッタリングの原理

平行平板型直流二極スパッタリング;イオン衝撃により陰極側のターゲットから叩き出された原子または分子が、陽極側に設置した処理物に叩き付けられてたい積し、皮膜を形成します。

マグネトロンスパッタリング;ターゲットの裏面にマグネットを配置して、皮膜速度の高速化を図ります。

適用例:
チタン(Ti)系硬質膜(TiN,TiAlN)やクロム(Cr)系硬質膜(CrN,CrAlN)の生成に利用されています。

3. イオンプレーティング:

イオンプレーティングの原理は、
(1)蒸着金属と被処理物とを入れた容器を10^-3~10^-5Pa程度の高真空してから、不活性ガス(アルゴン)や反応性ガス(窒素、炭化水素など)を注入して、蒸着金属と被処理物との間に高電圧を印加して、プラズマを発生させます。
(2)加熱蒸発した金属粒子は、正の電圧を付加することにより、プラズマ中で、電子と金属とが衝突、金属粒子がプラスのイオンになり、被処理物に向かって進むとともに、その途中で金属粒子と反応性ガスとが結びついて化学反応が促進されます。例えば、蒸発金属がチタン(Ti)、反応性ガスが窒素の場合は、窒化チタン(TiN)の化合物ができます。
(3)この化合物の粒子は、マイナスの電荷の非処理物に向かい加速されて、高エネルギーで衝突して、金属化合物として被処理物表面にたい積されます。

プラズマの発生方式には大きくは2種類あります。中空陰極放電法式(HCD法;Hollow Cathode Discharge)とアーク蒸発方式(Arc Ion Plating)です。

・中空陰極放電方式:
1)高真空引きした真空炉にArガスを注入し、直流電圧を印加し、Ar+イオンと電子に電離します。
2)被処理物を+側(アノード)にチャージすると、電子が被処理物に衝突して熱エネルギーが発生し被処理物を昇温(400~500℃)させます。被処理物をー側(カソード)にチャージするとArの+イオンが被処理物に衝突して表面がエッチング清掃されます。
3)蒸着金属に電子ビームを照射して蒸発させ、プラズマ領域でイオン化して、活性化して被処理物に蒸着させます。
4)反応性ガスのプラズマをイオン化している蒸発粒子と結合させれば金属化合物の皮膜を成膜することもできます。これは反応性イオンプレーティングと呼ばれています。例えば、蒸発金属にチタン(Ti)、反応性ガスに窒素を用いると、窒化チタン(TiN)膜を生成します。

・アーク蒸発方式:
1)高真空雰囲気において、ターゲット(蒸着金属)をー側(カソード)と陽極(アノード)との間で、真空アーク放電を発生させます。
2)アーク放電によりターゲット表面から、材料を蒸発、イオン化して負のバイアス電圧を印加した被処理物表面にイオンをたい積させることにより、皮膜を形成します。
3)イオン化する過程で反応性ガスを導入すると、金属化合物の皮膜を形成します。

適用例:
スパッタリングと同様、チタン(Ti)系硬質膜(TiN,TiAlN)やクロム(Cr)系硬質膜(CrN,CrAlN)の生成に利用されます・

特徴:
他の物理蒸着法と比較して、被膜の密着性に優れています。従って、使用条件の厳しい切削工具や金型などに適用されます。機械部品や、自動車部品にも適用分野は広がっています。

[図3] イオンプレーティングの原理

[図4] イオンプレーティングの適用例;ドリル

 

参考文献
金属表面処理の基礎知識 6:PVD と CVD   仁平 宣弘  イプロス
わかる めっきの基礎  プレーティング研究会    日刊工業新聞社
東邦化研(株)HP                   https://www.tohokaken.jp/what.html

 

引用図表
[図1] 真空蒸着の基本的な原理と加熱方式   金属表面処理の基礎知識 6
[図2] スパッタリングの原理             金属表面処理の基礎知識 6
[図3] イオンプレーティングの原理         金属表面処理の基礎知識 6
[図4] イオンプレーティングの適用例;ドリル   Pixabay