8.1 陽極反応の種類

8.1 陽極反応の種類(types of anodic reaction)

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本項では、電解質水溶液に浸漬した金属を陽極にした場合の電極反応について記述します。

1.電解質水溶液のpHによる分類

電解質水溶液のpHによって、次の3種類の反応が考えられます。

(1)酸性溶液:単純な金属イオンとして溶出する場合

(2)アルカリ性溶液:オキソアニオン(オキシ陰イオン)として溶出する場合

(3)中性溶液:金属が溶出するとともに、電解質水溶液中のアニオン(陰イオン)と結合して、難溶性の水酸化物もしくは酸化物に変化して金属表面を覆う場合

 

これらの反応が一義的に行われるか、さらにはその反応の難易や、pHの範囲は、金属や電解質水溶液の種類によって異なります。
最初、酸性溶液中で単純な金属イオンとして溶出する場合でも、電流密度を大きくすると陽極付近に金属イオンが蓄積して、一方水素イオンは陰極側に移動して減少するため、金属イオンと電解液中のアニオンとからなる金属塩(塩基性塩)あるいは水酸化物が、過飽和になり陽極上に沈殿するようになります。この化合物層はち密ではなくポーラス状になっています。この穴の中では電解液と陽極面とが接しており濃度変化が一層大きくなり、ついには(3)の条件に到達して、水酸化物もしくは酸化物が陽極上に直接生成されるようになって、途中で発生した金属塩(塩基性塩)はこれらに置き換わることにより、陽極面をち密に覆うようになります。金属イオンの状態で溶出して沈殿した化合物層は耐食性はありませんが、直接陽極に生成する化合物の皮膜は金属表面を保護する作用が大きいです。

 

2.皮膜の電気的性質による分類

皮膜が、非常に緻密で欠陥が無い理想的な状態の場合を考えましょう。1項で示した(3)の場合や、または電解の結果(3)の条件になった場合でも、化合物の単分子層が金属表面に生成すると、金属と電解液との接触が絶たれるため、それ以降の陽極反応は変化します。陽極電流が流れるためには、皮膜を通って金属イオンもしくは陽孔が外側に移動するか、アニオン(陰イオン)または電子が逆方向に移動するかの、何れかの状態になります。この差異は皮膜物質の導電性の有無に区別して考えられます。

(4)生成皮膜が良導電性の場合:
物質の電気伝導度は、電子的伝導σε(電子+陽孔)とイオン性伝導σi(カチオン+アニオン)とから成立しており、σε+σi=1の関係が成立します。
酸化物の皮膜が良導電性の場合、皮膜中を電子が通過する方が金属イオンが通過するよりずっと容易であるのでσε≒1 となり、陽極皮膜表面に吸着しているアニオン(陰イオン)が持つ電子が皮膜を通過して金属に移動します。この場合の陽極反応は、電解液中のアニオン(陰イオン)のOH-やSO42- が中和、放電して酸素を発生することになります。通過する電荷の全てが酸素発生の放電に消費されるので、陽極皮膜の厚さは初期の薄い層以上の厚さにはなりません。このような状態を、金属が陽極的に不動態(passive state)といいます。

硫酸中のFeやNiは電解電圧が低い場合はイオンとして溶出しますが、電圧を高くすると不動態になります。この場合の不動態は電解電圧を低くすると活性化する不安定な不動態状態です。

 

(5)生成皮膜が絶縁性の場合
皮膜が絶縁性の場合は、σi ≫ σεとなるので、アニオン(陰イオン)の放電は起こらないので、電荷の移動は陽極皮膜内をイオンが移動することにより行われます。すなわち。金属イオンが皮膜内を外側に向かって移動する、或いは皮膜表面に吸着したアニオン(陰イオン)が内側に向かって移動することにより皮膜の反対側に移動して、負号が反対のイオンと結合して酸化物になります。このようにして皮膜が成長する過程を陽極的酸化(anodic oxidfation)といいます。

陽極皮膜に構造上の欠陥がなければイオンの移動は困難であるので、イオンの移動に対する抵抗が大きいほど高電圧を付与しなければならなくなります。従って良伝導性の場合、皮膜は目に見えないくらい薄くなります。

(1)~(5)までの陽極反応は、模式的に表8.1.1のように分類されます。

表8.1.1 電解液中の金属の陽極反応の分類

但し実際の反応は、例えば不動態の皮膜は単分子層ではないし、絶縁性皮膜も皮膜を構成する物質の構造上の不完全さがあり漏洩電流が流れます。これらを勘案すると、実際の陽極反応では以下のような事象を生じます。

(1)皮膜が機械的に不安定な場合、皮膜の成長中に割れや剥がれ、膨れ、せん断などにより割れ目が生じて、その部分に電解液が侵入して皮膜の成長が促進されます。

(2)皮膜物質が電解液に反応する性質があり、多数のピットを生じるような浸食を受ける場合、ピットを通じて電流が流れるため皮膜の成長が促進されます。

(3)極端な場合、金属と皮膜との界面で皮膜が形成されるのと同じ速度で、皮膜と電解液との界面で皮膜の溶解が生じます。この性質を利用すると、電解研磨になります。

 

 

 

 

参考文献
自動車用アルミニウム合金材の表面処理  三村達也、島田隆登志  UAJC Technical Reports, Vol.2 (2)

 

引用図表
図9.5.1 金属酸化塩処理概念図  自動車用アルミニウム合金材の表面処理

 

ORG:2019/1/19