9. りん酸塩処理(Phosphoric acid salt treatment)

9. りん酸塩処理(Phosphoric acid salt treatment)

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りん酸塩処理はと、りん酸のかい離(平衡)反応を利用して水溶液から、不溶性のりん酸金属塩を、処理される金属材料表面に析出させる表面処理の一種です。りん酸塩化成処理の主成分として用いられるりん酸は、正りん酸(オルソりん酸):H3PO4です。
りん酸は三塩基性酸なので、水溶液のpHに応じて、3段階にかい離します。かい離段階ごとの25℃でのかい離定数を示します。

水溶液中での反応は、かい離の段階が進むほど反応が進まず、難溶性になります。
また、りん酸は3種類のかい離状態の応じて、3種類の金属塩を生成します。

第一りん酸塩(Primary phosphate)     Me(H2PO4)2
第二りん酸塩(Secondary phosphate)    MeHPO4
第三りん酸塩(Tertiary phosphate)     Me3(PO4)2

上記の式は、Meが2価の金属の場合を示しています。Na,Kなどのアルカリ金属との組合せの場合は、それらの塩は何れも可溶性ですが、第一りん酸塩の水溶液は酸性を、第二りん酸塩、第三りん酸塩の水溶液はアルカリ性を示します。
一方、Zn,Feなどの2価の金属の場合は、第一りん酸塩の場合は可溶性、第二りん酸塩の場合は可溶性もしくは難溶性、第三りん酸塩の場合は難溶性であることが多いです。
従って、りん酸塩処理は、水溶液中の第一もしくは第二りん酸金属塩を、化学反応によって不溶性である第三りん酸金属塩として、材料表面に析出させる技術といえます。
りん酸塩処理で、処理液中に添加する金属イオンと被処理金属材料との組合せにより、表9.1に示す塩を析出させることができます。主として、鉄製品に使用されますが、Zn,Al,Cd,Sn製品にも応用されます。

りん酸塩処理による、最初の反応は腐食反応ですので、実際に保護皮膜が析出されるのは、引き続いて起こる副反応によるものです。

 

りん酸塩処理の歴史は、非常に古く、古代エジプト時代の遺跡から、鉄器がりん酸鉄皮膜で覆われたものが発掘されています。これが積極的にりん酸鉄処理を行ったものか、たまたま同時に埋葬された人骨から溶出したりんにより、結果的にリン酸皮膜が析出したかについては議論がわかれるところです。
近代の工業的に利用されるりん酸塩処理技術は、1906年イギリスで開発されたりん酸鉄処理でした。それから10年ほどの間に、りん酸亜鉛処理、りん酸マンガン処理、りん酸亜鉛カルシウム処理が開発されました。
その後、イギリスの特許使用権を取得した米国のParker兄弟がParker Rust Proof(PRP)者を設立して、第一次世界大戦の戦時需要を背景に規模を拡大しました。ここから、りん酸塩処理技術が、通称「パーカー処理」、「パーカライジング(Parkerizing)」で呼ばれるようになりました。 1929年には、処理時間がそれまでの1時間程度から10分に短縮する技術が開発されました。PRP社から「ボンデライト(Bonderite)」の商標で製品化されました。ここからりん酸塩処理は「ボンデ処理」、「Bonderizing」と呼ばれるようになりました。現在では、りん酸塩処理の総称として、「パーカー処理」、「ボンデ処理」は同じものであり、得られる皮膜は「ボンデ皮膜」といわれています。

さらに塑性加工の分野では、りん酸亜鉛処理+石けん処理により得られた潤滑皮膜(りん酸亜鉛/金属石けん/ナトリウム石けんの3層皮膜)を、単に「ボンデ皮膜」という場合もあります。
最近のりん酸塩処理技術の発展は、自動車車体向けの塗装下地用りん酸亜鉛処理に集約されます。その他のりん酸塩処理についてはあまり大きな進歩がありません。塗装下地用りん酸亜鉛処理については別項に示します。

 

 

参考文献
表面処理    日本金属学会
塗装前処理としてのりん酸塩処理   中山隆臣  表面技術  Vol.64,No.12 2013

引用図表
表9.1  りん酸塩処理液成分と皮膜組成  塗装前処理としてのりん酸塩処理

 

REVICE:2017/5/21