A3.1 軸受

A3.1 軸受(bearing)

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本コンテンツで述べる流体機械は、エネルギーを変換するために動的に運動する機械なので、エネルギーの変換を行う流体要素を保持するための軸受が必要となります。

ターボ形流体機械や容積形回転式流体機械では、回転する流体要素を支持するために軸受が必要です(図A3.1.1)。一般的に軸にはラジアル荷重(軸と直角方向)とスラスト荷重(軸方向)の2種類の荷重が作用します。それぞれラジアル軸受とスラスト軸受とで受け持ちます。

図A3.1.1 回転運動体の支持   (大橋秀雄 p105)

往復式の容積形流体機械の場合は、一般的には回転するクランクシャフトと、回転運動を往復運動に変換するクロスヘッドを支持する軸受が必要になります(図A3.1.2)。クランクシャフトは回転運動を支持する必要があるので、ラジアル軸受とスラスト軸受が必要になります。

図A3.1.2 往復運動体の支持   (大橋秀雄 p105)

以上、流体機械にはいろいろな軸受が用いられています。軸受の作動原理は大きく分けると、ボールやころの転がり接触を利用する転がり軸受と、油膜の潤滑作用を利用して面で荷重を受けるすべり軸受とがあります。

転がり軸受は、多くはJISなどの国家規格に形状が決められており、専門メーカにより各種形式のものが製作市販されています。寸法や寿命などがカタログ等に示されており、できる限りこれを利用するほうが、設計・製作の工数を削減できます。またコスト的にもすべり軸受と比較すると有利な場合が多いです。潤滑のための付属要素を考えると一般的に小形・軽量になります。さらに保守・管理の面からも、交換軸受を容易に入手できるメリットがあります。

すべり軸受は、転がり軸受では以下の高度な要求を満足するのが難しい場合、採用されます。

・軸径が極めて大きい場合(例えば、水車の軸)
・軸の周速度が高い場合(例えば、高速回転するタービン軸)
・著しい変動荷重が作用する場合(例えば、内燃機関のクランクシャフト)
・極めて長寿命が要求される場合

一般に、高速化、大型化、長寿命化の要求度合いが大きくなるにつれて転がり軸受からすべり軸受に移行します。ただし、転がり軸受についても進歩が著しく、以前ではすべり軸受が採用されるレベルでも転がり軸受が用いられる場合も多いです。本サイト管理者が学校を卒業して親戚のポンプメーカに就職した頃は、すでに古い設計のポンプでしたが、支承要素としてすべり軸受を使用しているポンプがカタログ上は残っていました。

 

1. 転がり軸受

転がり軸受は、取付け場所の制約、荷重の種類、負荷荷重の大きさ、要求寿命に応じて、いろいろな形式のものが用いられています。

流体機械に比較的よく用いられる転がり軸受を、図A3.1.3示します。

転がり軸受は、設計回転数n、ラジアル荷重Fr、スラスト荷重Faが与えられると、寿命時間を計算で求めることができます。また、円筒ころ軸受や針状ころ軸受以外のラジアル軸受は、ある程度のスラスト荷重を支持することができます。

図A3.1.3 各種転がり軸受と適応荷重   (大橋秀雄 p106)

ラジアル軸受とスラスト軸受とが同時に作用する回転軸を支持するための軸受の組合せは、

・(ラジアル荷重用軸受)+(複合荷重用軸受)
・(ラジアル荷重用軸受)×2+(スラスト荷重用軸受)

のいずれかを用いる必要があります。

図A3.1.4に前者の場合の転がり軸受の組合せの例を示します。

図A3.1.4 転がり軸受の組合せ例   (大橋秀雄   p107)

転がり軸受の潤滑には、グリース潤滑、油浴潤滑、滴下給油、噴霧潤滑、ジェット潤滑などいろいろな方式があります。

グリース潤滑、油浴潤滑は、低・中速回転の軸受に適しています。回転が高速になるにつれて跳ね飛ばしなどで転がり箇所への給油が難しくなります。高速回転で軸受の潤滑と冷却とを確実に実施するため、潤滑油を強制的に注入するために噴霧潤滑やジェット潤滑が採用されます。

よく見かけるターボポンプでは、ほとんどが油浴潤滑で軸受が潤滑されています。図A3.1.5は油を掻き揚げて転がり軸受の転動面に供給するオイルリングによる潤滑例です。オイルリングによる潤滑の場合、油面は転がり軸受の最外径の下端より下にして、潤滑油はオイルリングによりすくい上げて、スリンガにより跳ね飛ばされて軸受箱の内面上面に到達して、壁面を伝い転がり軸受の転動面に流れ込み潤滑作用と冷却作用とを行います。

ただし、オイルリングによる油浴潤滑は、あまり高速回転には適しません。油面は若干高くなりますが、直接スリンガにより油面から潤滑油を跳ね飛ばす方式が用いられることが多いです。


図A3.1.5 油浴潤滑の例   (寺田進  p207)

また、油浴潤滑では油面を一定に保つことが求められます。化学プラントなど多数の流体機器が使用されますのメンテナンスの簡便化のため、油面を一定に保持する目的で自動給油装置が用いられます。簡便でよく使われるのは、コンスタントレベルオイラーです(図A3.1.6)、

図A3.1.6 コンスタントレベルオイラー   (Karrasik PumpHandbook p2.115)

 

2.すべり軸受

2.1 ラジアル荷重を受ける軸受

すべり軸受のうち、ラジアル荷重だけを支持するものは、ジャーナル軸受と呼ばれます。軸は軸径にわずかな隙間(クリアランス)を加えた内径の円筒形の軸受金の中で回転します。軸と軸受金との隙間に潤滑油膜が形成されます。

潤滑油の供給には、いろいろな方法があります。横軸のジャーナル軸受へのもっとも簡単な給油法は、オイルリングによる潤滑方法です(図A3.1.7)。転がり軸受への適用の場合と同様、軸にはめられた1から2個のオイルリングが、回転軸との摩擦により転動して軸受箱に溜められた潤滑油を軸摺動部まで供給します。この方式は軽負荷、低速軸受に使用されます。

図A3.1.7 オイルリング式ジャーナル軸受(横型)  (大橋秀雄  p108)

重負荷、高速で使用されるジャーナル軸受では、油ポンプで潤滑油を加圧して直接軸受部に強制給油するようにします。強制給油することにより、潤滑油膜の形成が確実になります。また、多量の給油により軸受温度上昇を抑えることができます。

立軸のジャーナル軸受の場合、軸心の位置を拘束するだけなので、ラジアル荷重は通常の場合ほとんどかかりません。中型程度のポンプでは(中型の定義が難しいですが)、ほとんどの場合円筒型の軸受金を用います。ただし、高速軽荷重で使用される軸受は、系の危険速度の2倍以上の回転速度範囲では油膜力が不安定になりオイルホイップ(oil whip)現象が発生して回転軸が激しく振動することがあります。これは潤滑油膜の不安定性による自励振動現象です。回転機械では軸系の振動は絶対に避ける必要がありますので、特に大型の水力機械では、軸受金をいくつかのセグメントに分割して、それぞれのセグメントにくさび上の油膜を形成させて軸心を安定させる、油浴潤滑式セグメント形ジャーナル軸受が用いられます(図A3.1.8)。

図A3.1.8 油浴潤滑式セグメント形ジャーナル軸受  (大橋秀雄  p109)

 

2.2 スラスト荷重を受ける軸受

スラスト荷重を支持するすべり軸受でもっとも単純なものは、軸に固定したスラストカラーにかかる荷重を平面の軸受金で支持する方式です(図A3.1.9)。ただ、この方式では荷重を受ける油膜圧力を発生するくさび状流路ができにくいので比較的低荷重の用途に限られます。

 

図A3.1.9 スラスト軸受    (大橋秀雄  p109)

大きなスラスト荷重を支持するには、スラストカラーをいくつかのスラスト片で支持する、ミッチェル形スラスト軸受が必要になります。ミッチェル形スラスト軸受は、各スラスト片毎に油膜圧力を発生するくさび状油膜が形成されるため負荷能力が大きくなります。図A3.1.10に、一般に用いられているミッチェル形スラスト軸受(横軸)を示します。この図の場合、両方向のスラスト荷重を支持するためにスラストカラーの両側にスラスト片が配置されています。なお、ミッチェル(Mitchell)形軸受は、キングスベリー(Kingsburry)軸受ともいわれます。

図A3.1.10 ミッチェル形スラスト軸受(横軸)   (大橋秀雄p110)

 

3. 取扱流体を潤滑に用いる軸受

取扱流体が清澄液の場合は、潤滑油の代わりに取扱流体を用いてすべり軸受を潤滑する場合があります。しかし、取扱流体が油を除いて、潤滑性は期待できないので、軸受の許容荷重は油潤滑の場合と比較すると小さくなります。

軸受材料は、取扱液に腐食されないものを選択する必要があります。取扱流体が水の場合は、焼付けなどが起こりにくいゴムやベークライト、テフロン、ナイロンが使われます。昔はリグナムバイタと呼ばれる木材が用いられることもありました。リグナムバイタは現存する木材の中では最も硬く最も重い木といわれます。摩擦などで温度が上昇すると樹脂が染み出してきます。現在ではワシントン条約付属書Ⅱに記載されており、市場性があまり無い材料です。

図A3.1.11は立軸ポンプの水中での振れ止め用ジャーナル軸受として用いられるゴム軸受を、図A3.1.12は、船舶の船尾スクリューの指示に用いられるリグナイムバイタ軸受を示します。

図A3.1.11 ゴム軸受   (ポンプとその使用法  p82)

図A3.1.12 リグナムバイタ軸受   (ポンプとその使用法 p81)

 

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参考文献
流体機械  大橋秀雄  森北出版
流体機械  大場利三郎/神山新一   丸善
ポンプとその使用法   梶原滋美   丸善
渦巻きポンプの設計と製図   寺田進   理工図書
新版 ポンその設備計画・運転・保守  日本機械学会  丸善
ポンプハンドブック I.J.Karassik et al. 池口稔久他  地人書館
Pump Handbook   I.J.Karassik et al.   McGraw Hill

 

引用図表
図A3.1.1 回転運動体の支持  大橋秀雄
図A3.1.2 往復運動体の支持  大橋秀雄
図A3.1.3 各種転がり軸受と適応荷重  大橋秀雄
図A3.1.4 転がり軸受の組合せ例  大橋秀雄
図A3.1.5 油浴潤滑の例  寺田進
図A3.1.6 コンスタントレベルオイラー  Pump Handbook Karassik
図A3.1.7 オイルリング式ジャーナル軸受(横型) 大橋秀雄
図A3.1.8 油浴潤滑式セグメント形ジャーナル軸受  大橋秀雄
図A3.1.9 スラスト軸受  大橋秀雄
図A3.1.10 ミッチェル形スラスト軸受(横軸) 大橋秀雄
図A3.1.11 ゴム軸受  ポンプとその使用法
図A3.1.12 リグナムバイタ軸受  ポンプとその使用法

 

ORG:2020/03/28