A3.3 推力バランス

A3.3 推力バランス(Thrust balance)

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1.推力バランスとは

ターボ形ポンプの羽根車が流体から受ける力には、流体へのエネルギー伝達の主成分である周方向成分\( F_{ \theta } \)の他に、軸方向成分\( F_{ a } \)、半径方向成分\( F_{ r } \)があります。軸方向成分、半径方向成分はポンプ性能への影響より、機械的部分の強度に影響します。

軸方向成分\( F_{ a } \)は、遠心要素のみでなく軸流要素でも発生します。半径方向成分\( F_{ r } \)は、基本的に遠心要素のみ発生します。

 

2.軸方向推力のバランス

2.1 軸流ポンプの軸方向推力

軸流ポンプは、一般に動翼列と静翼列が一組になります。ここで動翼列の前後に検査面Ⅰ、Ⅱを想定して、運動量の法則を適用します。

軸流式の場合は、軸分速度\( v_{ a } \)は変化しないとして軸方向の運動量変化はないと考えられます。検査面Ⅰ、Ⅱを流体が通過する間に上昇する圧力を\( \Delta p \)とし、流体の通貨面の外径を\( D_{ o } \)、内径を\( D_{ i } \)とすると、発生する軸方向の力\( F_{ a } \)は、

 

\( F_{ a } = \Delta p \times \displaystyle \frac{ \pi }{ 4 } \times ( D_{ o }^2-D_{ i }^2) \)   (式A3.3.1)

 

となり、軸方向推力\( T \)に等しくなります。動翼列は回転軸に固定されているので、軸方向推力\( T \)はスラスト荷重として回転軸に作用します。多段の場合は各段の翼列に働く軸方向推力の和がスラスト荷重として回転軸に作用します。

図A3.3.1 軸流羽根車の軸方向推力  大箸秀雄  流体機械 p116

 

2.2 遠心式ポンプの軸方向推力
2.2.1 軸方向推力の発生

遠心式流体要素では、流体の軸方向の運動量の変化により発生する軸方向推力と、羽根車から吐出された高圧流体\( p_{ 2 } \)により羽根車の主板と側板とに作用する力の内、釣合わない成分が軸方向推力として作用します(図A3.3.2)。

図A3.3.2 遠心式羽根車の軸方向推力   大場利三郎  流体機械  p101

流体の軸方向の運動量変化\( \rho Q v_{ a1 } \)も軸方向推力として作用しますが一般的には小さい値になりますので無視することが多いです。ここで、\( v_{ a1 } \)は羽根車入口での流体の軸分速度を示します。

次に、羽根車の主板と側板とに作用する吐出圧\( p_{ 2 } \)による不釣り合い力は、直径\( D_{ s } \)(軸貫通部)から\( D_{ 1 } \)(吸込み口口径)との間の不釣り合い力の平均値を\( {p_{ 2 }}^{ ′ } \)とすると発生するスラスト力は、

\( F_{ a } = \displaystyle \frac{ \pi }{ 4 } \times ( D_{ 1 }^2 – D_{ s }^2)( {p_{ 2 }}^{ ′ } -p_{ 1 }) \)    (式A3 .3.2)

 

吐出圧により主板・側板に作用する圧力は特に半径方向に均等ではありません。羽根車の主板・側板とケーシングの壁面との液体はある程度回転しているので、羽根車のハブ部と比較して外周部の圧力ははるかに高くなります。圧力分布の計算式は色々あるようですが、管理人は詳しくはないので、例えば図A3.3.2に示すように放物形状になると考えても問題ないように思います。一般的には、式A3.3.2で示されるスラスト力は正味圧力と不釣り合い部の面積との積の70~80%程度のなるといわれています。

 

 

2.2.2 単段ポンプの軸方向推力の低減方法

前項で見た軸方向推力をそのままスラスト軸受で受けるのは、たとえ単段ポンプであっても、スラスト軸受に過大な負荷を与えることになるので、通常な何らかの軸方向推力の軽減方法が採用されます。

一般的に採用される軸方向推力の低減方法について以下に示します。

(1)ウェアリングリング(wearing ring)の採用

最も一般的な片吸込み単段ポンプでは、羽根車の主板側・側板側にウェアリングリング(wearing ring)を設けます(図A3.3.3)。両側のウェアリングリングの径を等しくするとスラストを受ける面積が等しくなります。この径内に主板側と側板側とを導通するバランスホール(balance hole)を設けることにより、主板側のウェアリングリング内の液室は吸込み圧力とほぼ等しい圧力に保持されることになります。ボリュートから主板側ウェアリングリングを通過した漏れ液は、バランスホールを通過して吸込み側に戻ります。バランスホールからの戻り液は、吸込み側に流入する主流と衝突して流れを乱します。効率を重視する大型の単段吸込みポンプの場合は、バランスホールの代わりに、主板側ウェアリングリング内液室と吸込み側とを連絡する配管を設けることもあります。

図A3.3.3 ウェアリングリングの採用  ポンプハンドブック p55

 

(2)主板に裏羽根を設ける(図A3.3.4)

主板に放射状の裏羽根を設けることにより、羽根車の主板に働く圧力を減少させ、主板側からの軸方向推力を減少させます。ただ、この設計は一般に取扱液に砂などを含むスラリーポン王に採用されることが多く、主目的は羽根車の主バントケーシングとの隙間に異物が侵入して摩耗等の問題を軽減させるためです。軸推力低減方法として使用されることはまれです。

図A3.3.4 裏羽根の採用  ポンプハンドブック p55

 

(3)両吸込羽根車の採用(図A3.3.5)

両吸込羽根車では、片側に働く圧力分布は、他の側の圧力分布と理論上は等しくなり、軸推力は相殺するはずですが、実際は以下の理由で零にはなりません。

1)2つの吸込み口へ通じる吸込流路の流れは両側で等しくなく、均一でもない。
2)ポンプの吸込口前のエルボ部が吸込口に接近しているなどの外的条件により、両側の巣込み口への流れが不均一になります。
3)吐出し側のケーシング流路の両側の形状が完全には対称になっていないのと、羽根車位置がボリュート中心からわずかにずれている場合があることにより、羽根車の側板とケーシング間の流れの状態が対称ではなく両側の側板に加わる圧力が不均等になります。

 

これらの要因が重なり、軸推力が発生する恐れがあります。従って、両吸込遠心ポンプでも、スラスト軸受は必要です。

図3.3.5 両吸込みポンプの採用  ポンプハンドブック  p54

 

 

2.2.3 多段ポンプの軸方向推力の低減

ポンプ軸に作用するスラスト荷重は、スラスト軸受により支持されますが、スラスト荷重が大きくなるに従って、スラスト軸受での機械損失が増加して、機械効率が低下します。

この機械損失の増加をさせないために、ポンプトータルで羽根車に作用する軸方向推力を軽減する必要があります。軸推力軽減方法については色々な方法が考えられます。

 

(1)バランス装置による軸推力の低減

これはすべての羽根車を同じ向きに配置して最終段に推力バランス装置を設ける方式です。方法としてはバランスドラム形、バランスディスク形が考えられます。

1)バランスドラム形(図A3.3.6)

回転軸にバランスドラム(balance drum)と呼ばれる円筒を嵌めて、バランスドラムの羽根車側の端面には吐出圧力pdが作用し、もう一方の端面は吸込み側と連絡させているバランス室の圧力が作用するようにしています。バランス室の圧力は吸込み圧力psに近い圧力になります。バランスドラムの両側に作用する圧力差により、一定の大きさのバランス推力が発生します。

図A3.3.6 バランスドラム形推力バランス装置   大橋秀雄 流体力学  p117

 

2)バランスディスク形(図A3.3.7)

軸推力低減のためにバランスドラムの代わりに、バランスディスク(balance disk)を用います。バランスディスクはバランスドラムと異なり周方向隙間が可変することにより、羽根車軸推力とバランス推力とが打ち消し合うように作動する自動調節機能を持っています。

バランス推力が羽根車推力以上になると、軸は右側に移動することによりディスクとバランスシートとの隙間が増加します。その結果、羽根車側からバランス室への漏洩流量が増加して吸込み側に逆流する流量が増加します。バランス室と吸込管を連絡するバランス間の途中には絞りが挿入されており、漏洩流量の増加に従ってバランス室内圧力が高まって、バランスディスクの前後に働く圧力差が減少してバランス推力が低下します。バランス推力が少ない場合はいま述べた現象と逆の作用が起きます。

バランスディスク形は、隙間が可変して羽根車推力とバランス推力とが常の釣合う特徴があります。ただし、軸方向の変位は拘束する必要があり、また過渡的な不釣合い推力を支持するためスラスト軸受は必要となります。

図A3.3.7 バランスディスク形推力バランス装置   ポンプハンドブック p58

 

(2)羽根車の配置による軸推力の低減

偶数段の羽根車で、半数ずつ反対向きに配列することにより軸方向推力を低減させる方法で、自己釣合い形といいます(図A3.3.8)。各段の配列については以下の点について考慮されなければなりません。

1)構造ができるだけ簡単であまり複雑にならないようにすること。
2)両端はできるだけ初めの方の段(吸込み圧力が大きくない)段を配置すること(軸封部からの漏れの観点より)。
3)隣り合う段の段差(圧力差)をできるだけ小さくすること。

しかし、これらを同時に満足することはできないので、いずれかに重点を置いて設計します。

図A3.3.8 自己釣合い形   大橋秀雄 流体工学 p116

 

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3.半径方向推力のバランス

3.1 遠心型羽根車の半径方向推力
3.1.1 半径方向推力の発生

ターボ式ポンプの場合、羽根車の形式は遠心、斜流、軸流それぞれの要素を問わず、本来流れの軸対象性は強く、羽根車自体での半径方向軸推力は大きくありません。

しかし、遠心型羽根車では、羽根車で得られた速度エネルギーを圧力エネルギーに変換するボリュートの存在により、設計流量点以外ではボリュート全周の圧力が一様ではなくなり、図A3.3.9のように変化します。これに伴って羽根車外周の圧力も円周方向で変化するため、羽根車には半径方向の力\( F_{ r } \)が作用します。この力を半径方向推力あるいはラジアルスラストといいます。

半径方向推力は、吐出量の変化に対して二次曲線に近い変化をします。ステパノフ(Stepanoff)による実験式が知られています。

\( F_{ r } =0.36 \displaystyle \{ 1- \left( \frac{ Q }{ Q_{ n }} \right)^2 \} \rho g H d_{ 2 } {b_{ 2 }}^{ ′ } \) (式A3 .3.3)

ここで、
\( H \) :全揚程 \( ( m ) \)
\( d_{ 2 } \) :羽根車の外径 \( ( m ) \)
\( { b_{ 2 }}^{ ′ } \) :主板、側板を含めた羽根車出口幅 \( ( m ) \)

図A3.3.9 ボリュート圧力の周方向変化 機械工学便覧 6th ed  ɤ02-02-1章 p44

 

3.1.2 半径方向推力の低減方法

全揚程が高くなると半径方向推力が大きくなります。過大にあると軸径を太くしたり、軸受の負荷能力を高めたりする必要があります。従って、半径推力を低減するためボリュートを2つ以上に分割したり(図A3.3.10a)、2つのボリュートを対象に設ける2重ボリュート(図A3.3.10b)にして羽根車外周の圧力を釣合わせるようにします。

図A3.3.10a ボリュートの分割 大橋秀雄 流体機械 p118

図A3.3.10b 2重ボリュート 機械工学便覧 6th ed  ɤ02-02-1章 p44

 

 

 

参考文献
流体機械  大橋秀雄  森北出版
流体機械  大場利三郎/神山新一   丸善
ポンプハンドブック I.J.Karassik et al. 池口稔久他  地人書館
機械工学便覧 6th ed ɤ02-02-1章  日本機械学会

 

引用図表
図A3.3.1 軸流羽根車の軸方向推力  大橋秀雄  流体機械
図A3.3.2 遠心式羽根車の軸方向推力   大場利三郎  流体機械
図A3.3.3 ウェアリングリングの採用  ポンプハンドブック
図A3.3.4 裏羽根の採用  ポンプハンドブック
図A3.3.5 両吸込みポンプの採用  ポンプハンドブック
図A3.3.6 バランスドラム形推力バランス装置   大橋秀雄  流体力学
図A3.3.7 バランスディスク形推力バランス装置   ポンプハンドブック
図A3.3.8 自己釣合い形   大橋秀雄  流体機械
図A3.3.9 ボリュート圧力の周方向変化 機械工学便覧 6th ed  ɤ02-02-1章
図A3.3.10a ボリュートの分割 大橋秀雄 流体機械
図A3.3.10b 2重ボリュート 機械工学便覧 6th ed  ɤ02-02-1章

 

ORG:2020/10/31