液体の性質

液体の性質(Properties of liquids)

 

 

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1. はじめに

物質が取り得る形態は、固体、液体、気体の3つの状態があります。これを物質の三態といいます。また、これらは、相という言葉を用いて、固相、液相、気相ともいいます。

この内、液体と気体とを合わせて流体といいます。流体は、容器に合わせて形状が容易に変化する点が、固体とは異なります。

固体は、せん断力を受けると、小さな場合は弾性変形を起こし、せん断力を取り除くと元の形状に戻ります。せん断力が大きくなると、塑性変形を起こし永久変形を起こして元の形状に戻らなくなります。

一方、流体は、せん断力の大きさに応じて、連続的に変形します。これは、流体の慣性とは関係なく発生します。流体の場合は、せん断力の大きさと変形速度は直接関係します。

流体の内、気体は液体とは異なり、膨張して容器を完全に充満します。沸点に非常に近い状態にある気体、もしくは液体と接触している気体を、通常蒸気といいます。流体はいずれも圧縮可能ですが、気体は液体と比較してはるかに圧縮性があります。

物質は3つの状態、すべての状態で存在できます。この典型的な例はH2Oで、それぞれ 氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)です。 氷を一定の圧力で加熱していくと、氷は融点で水に、沸点で水蒸気に変化します。 一定温度で、水蒸気の圧力が増加すると、水蒸気は飽和(蒸気)圧力で、水に変化します。

固体の粒子は、液体中に懸濁または混合することが可能です。液体中に固体粒子が分散した分散系を、懸濁液(suspension)といいます。固体粒子が液体中に均一に分布しているとき、均一混合物(homogeneous mixture)といいます。 濃度勾配が発生するとき、不均一混合物(heterogeneous mixture)と呼ばれます。

液体中に固体、別の液体、または気体が溶解している状態を溶液(solution)といいます。互いに溶解しない2種類の液体は、機械的作用によって混合できます。 このような混合物をエマルジョン(emulsion)といいます。エマウジョンは分離するのが非常に難しい場合があります。

ポンプとして取り扱う液体は、以下に示す特性を理解しておく必要があります。

  ・ 状態の変化
  ・ 粘度
  ・ 密度
  ・ 圧縮率
  ・ pH値
  ・ 危険性

 

2. 液体の特性

2.1状態の変化

2.1.1融点(melting point):SI単位;℃

融点は、物質が固体から液体に変化し、また液体から固体に固化する温度です。ほとんどの物質の融点は、非常に限られた範囲でのみ圧力に依存します。圧力に対する依存性を考慮しなければならない場合は、固相と液相の境界は、圧力-温度線図の融解曲線によって示されます。

 

2.1.2 沸点(boiling point):Sl単位;℃

沸点は、液体の飽和蒸気圧がその液体の表面に加わる圧力と等しくなる温度をいいます。沸点は通常、標準化大気圧、101.325 kPa(760 mmHg)で表されます。標準大気圧での水の沸点は100℃です。すべての液体の沸点は、圧力に大きく依存します。

 

2.1.3 蒸気圧(vapor pressure):SI単位;Pa,kPa,MPa、非SI単位;bar

すべての液体は蒸発します。蒸気またはガスは、分子の交換により液体の自由表面上に蓄積します。蒸気の分圧は、液体から出る分子と同じ数の分子が液体に戻る点まで上昇します。この平衡状態における液体の分圧は、飽和蒸気圧もしくは単に蒸気圧といいます。

飽和蒸気圧は温度のみに依存し、液体温度の上昇とともに増加します。特定の温度では、液体表面上の平衡圧力が飽和蒸気圧よりも低くなることはありません。蒸気の圧力を下げようとすると(真空ポンプなどを使用して)、直ちに蒸発が増加します。つまり、液体が沸騰することになります。液体内の圧力が局所的に実際の温度での飽和蒸気圧まで低下すると、液体中に蒸気泡が発生します。ポンプの設置位置によっては、蒸気泡がキャビテーションを形成して、重大な機械的損傷が発生し、ポンプ性能が著しく低下する可能性があります。

いろいろな液体は、温度の関数としてそれぞれ大きく異なる蒸気圧値を示します。固体状態の物質の中には、液体状態を経ずに直接気体状態に変化するものもあります。これを昇華(sublimation, deposition)といいます。例として、水の相を示す完全な状態図を図1に示します。三重点では、3つの状態すべてが同時に存在する可能性があります。 実際には、固体 – 気体変換を示す物質には、二酸化炭素やヨウ素などがあります。

図1水の状態図  出典:Handbook of Pumps and Pumping

 

注記:

圧力のSI単位のPaは非常に小さい値です。ほとんどのポンプの用途では、吸入圧力にはPaまたはkPa、吐出圧力にはMPaを使用する必要がある場合があります(特に油圧ポンプの場合)。ポンプ業界特にターボポンプの製造業では、接頭辞の変更がオペレーターを混乱させ、潜在的に危険な状況につながる可能性があることが懸念されます。一方、MPaは非常に大きな単位です。小さな数字が、大きな圧力を表します。そこで特にターボポンプの製造業では、bar(バー)の方がはるかに適した単位です。ほぼ重力単位系のkgf/cm2の場合と値はほぼ同じになります。接頭辞は必要ありません。

ただし、圧力値を示す場合は、絶対圧(A,abs)またはゲージ圧(G,gage)を付けて示す必要があります。

 

状態の変化の重要性:

液体を取扱うポンプで、輸送性と閉塞、凍結、または凝固のリスクを評価する場合、融点(凝固点または凝固点)を知っておく必要があります。

また飽和蒸気圧に関する情報は、許容吸込リフトおよびNPSHa / NPIPa を計算するために必要です。飽和蒸気圧は、ポンプ形式、速度、シャフトシールの選定要件を選択する際に考慮しなければならない重要な要素です。

 

2.2 粘度(viscosity)

SI単位:
絶対粘度(absolute viscosity); Ns/m2
動粘度(kinematic viscosity);m2/s

その他のユニット:
絶対粘度; cP
動粘度 ; cSt

異なる速度で流れる2つの液体層の間には、分子効果により接線抵抗、すなわちせん断応力が発生します。 せん断応力は液体の内部摩擦によって引き起こされます。または逆に、液体は内部摩擦によってせん断力を伝達します。

動いている液体はせん断力の影響により継続的に変形します。 せん断応力の大きさは、せん断変形の速度と粘度に依存します。

 

2.2.1 ニュートンの粘性の法則(Newton’s law of viscosity)

粘度は、層流に対してニュートンの粘性の法則によって定義されます(図2)。

図2粘性の定義  出典:Handbook of Pumps and Pumping

\( \tau = \mu \displaystyle\frac{\Delta \nu }{ \Delta y } \)

ここで:
 \( \tau \) = せん断応力(N/m2
  \( \mu \) = 粘性係数 (Ns/m2,kg/ms)
  \( \Delta \nu \) = 粘度の変化 (m/s)
  \( \Delta y \) = 層間の距離 (m)

 

2.2.2粘性係数(dynamic viscosity,absolute viscosity)

粘性係数は、SI単位系 システムでは、単位は次のようになります。

    1 kg/ms = 1 Ns/m2

他の単位系では次の通りです。

    1ポイズ = 1P = 0.1 kg/ms
または
 1センチポアズ = 1 cP = 0.01P = 0.001 kg/ms

 

2.2.3 動粘度、動粘性係数(kinematic viscosity)

粘性係数を液体の密度で除したものを動粘度(または動粘性係数)といい、記号は \( \nu \) で示されます。

\( \nu = \displaystyle\frac{ \mu }{ \rho } \)

ここで、
 \( \nu \) = 動粘度、動粘性係数 (m2/s)
 \( \mu \) = 粘性係数 (kg/ms)
 \( \rho \) = 密度 (kg/m3)

動粘度の SI単位は 1 m2/s です。

他の単位系としては、次の単位が用いられます。

1ストークス = 1St = 0.0001 m2/s
または、
1cSt = 0.01St = 0.000001 m2/s = 1 mm2/s

ちなみに、20℃、0.1MPaの水の動粘度は1cStです。

 

2.2.4 ニュートン液体(Newtonian liquids)

層流においてニュートンの粘性の法則に従い、せん断速度や時間に関係なく一定の粘性を示す液体を、ニュートン液体といいます(図3)。
ニュートン液体の例として、水、水溶液、低分子液体、油および油留分などがあります。

図3 ニュートン液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping

 

2.2.5 非ニュートン液体(non-Newtonian liquids)

ニュートンの粘性の法則に従わない液体を、非ニュートン液体といいます。ほとんどの高分子液体、懸濁液、およびエマルジョンは非ニュートン特性を示します。 非ニュートン液体は通常、次の3つの主要なグループに分類されます。

(1)非時間依存性
     塑性液体
     擬塑性液体
     ダイラタント液体

(2)時間依存性
     シクソトロピー液体
     レオペクシー液体
    不可逆性液体

(3)粘弾性

 

(1)非時間依存性液体

時間に依存しない液体は、流動プロセスの時間の長さの影響を受けません。図4を参照してください。 特定の温度での層流の場合のせん断応力は、完全にせん断速度によって決まります。 ニュートン液体とのアナロジーから、次式で示されます。

\( \tau = \mu_{ 1 } \displaystyle\frac{ dv }{ dy } \)

ここで、

\( \mu_{ 1 } \) = 見かけの粘性係数

図4 非時間依存性液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping

・塑性液体が流れはじめるためには、一定の最小せん断応力(降伏応力)が必要です。見かけの粘性係数は、せん断速度が増加するにつれて、静止状態の無限大から減少します。

例:練り歯磨き、軟膏、グリース、マーガリン、紙パルプ、プリンターインク、エマルション など

・擬塑性液体の場合、せん断速度が増加すると見かけの粘性係数は減少します。

例:高分子溶液、ゴム、ラテックス、ある種の溶融物質、マヨネーズ など

・ダイラタント液体の場合、せん断速度が増加すると見かけの粘性係数が増加します。

例:油絵具のベース、高濃度の小さな粒子を含む懸濁液: セメント、石灰、砂、デンプン など

 

(2)時間依存性液体

時間依存性液体の見かけの粘性係数は、せん断速度だけでなく、流れが継続する時間の長さにも影響されます。図5を参照してください。

図5 時間依存性液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping

・シクソトロピー液体は、流れはじめると見かけの粘性係数μ1は減少します。 流れが停止すると、一定時間経過後に元の粘性係数に戻ります。

例:塗料、ゼラチン状食品 など

・レオペクシー液体は、流れはじめると見かけの粘性係数μ1は増加します。流れが停止すると元の粘性係数に戻ります。

例:ある種の石膏懸濁液。

・不可逆性液体は、流れが停止した後も、元の見かけの粘性係数にまったく戻らないか、非常に長い時間が経過しないと回復しない可能性があります。 これらの液体については、慎重に取り扱う必要があります。

例:チーズ凝固物質(カード)、ヨーグルト、マーマレード など

(3)粘弾性液体

粘弾性液体には、弾性と粘性の両方の特性を示す液体が含まれます。 粘弾性液体は弾性変形と粘性変形の両方を受けます。 流れが止まると、弾性変形がある程度逆転します。

例:アスファルト、液体ナイロン、ゴム、ポリマー溶液 など

 

2.2.6 粘稠度

グリースやアスファルトなどの一部の非ニュートン液体の場合、粘度の測定では流動特性に関する十分な情報が得られません。そのため、粘稠度で評価することがあります。

グリースの場合、稠度がその性状を表す尺度になります。これは、25℃に加熱・保持されたグリースサンプルが入った試験容器に円錐が押し込まれる深さ(1/10mm単位)で評価します。浸透力は、グリースを撹拌することにより稠度が変化するかどうかにより決まります。硬質グリースは浸透力が低く、軟質グリースは浸透力が高くなります。 グリースのメーカーは、各品質のちょう度数値を記載しています。

さらにまた、2つの潤滑グリースが同じ稠度であっても、それぞれの基油(成分となる潤滑油)の粘度に応じて異なる流動能力を持っている可能性があります。基油のグレードと増粘剤の種類も選定時のヨウ化項目にする必要があります。

 

2.2.7雑記

・ 動粘性係数の値は、温度に依存します。 温度が上昇すると、粘度が低下します。 ある種の液体は加熱するとポンプで送出しやすくなります。

・ 動粘性係数は、液体の潤滑特性の指標になります。 1cSt未満の低い値の液体では、追加の潤滑が必要になる場合があります。

・ 動粘性係数は、密度の温度依存性も考慮する必要があります。 10MPa以上の圧力では、粘度に圧力依存性が観察される場合もあります。

・ 管路流れの損失係数はレイノルズ数に依存し、レイノルズ数は動粘性係数に依存します。

・ ターボポンプの性能はレイノルズ数に依存します。標準的なポンプデータは、水に対するものです。他の液体をポンプで送液する場合は、特性線図を修正する必要があります。

・ 回転容積式ポンプは高粘度液体の取扱いに適していますが、ターボポンプにおける比速度のような、選択に役立つパラメータはありません。 粘度の影響はポンプサイズによって異なります。 回転容積式ポンプの場合、粘度が増加すると効率が低下し、NPSHR が増加します。 容積式ポンプに対する粘度の影響は、ポンプの型式とサイズによって異なります。

・ 粘性係数は、層流におけるせん断応力とせん断速度の比として定義されます。 乱流の場合、この比率は、液体粒子のランダムな動きによって引き起こされる層間の運動量の交換によって影響されます。

・ 一般的ではありませんが、鉱物油の粘度評価方法として、昔からエングラー法、セイボルト法、やレッドウッド法などの独自の試験法による評価がなされてきました。これらの試験は、何れもサンプル油がオリフィスを通過するのに必要な時間を測定することになります。動粘性係数の測定になります。

 

 

2.3 密度と相対密度

2.3.1 密度(density)

SI単位: kg/m3
記号: \( \rho \)

液体の密度は、液体の質量をその体積で除したものになります。液体の密度は、液体が非常に圧縮性でない限り、温度によってわずかに変化し、圧力によってもわずかに変化します。液体の密度は、溶存気体の量にわずかながら影響されます。ガスを溶解する能力は温度と圧力に依存するため、これらのパラメータには間接的に依存します。ただし、密度に対する溶解ガスの影響は一般に無視できます。

 

2.3.2 比重(相対密度)(specific gravity, relative density)

単位:無次元
記号: \( d \)

比重は、標準条件(大気圧;101.325kPa、4℃)における液体の水に対する密度の比をいいます。相対密度という言い方も海外でよく用いられます。

注記: ターボポンプでよく用いられる水頭に圧力を変換する場合は、液体の密度または相対密度に関する情報が必要になります。ターボポンプでは、揚程と比重とを使用して動力を計算します。 容積式ポンプは、差圧を使用して動力を計算するため、密度や比重は影響しません。

 

2.4 圧縮率(compressibility)

すべての液体はある程度は圧縮可能です。 ターボポンプの場合は、一般的に液体の圧縮率は無視することができます。一方、容積式ポンプを検討する場合は、圧縮率を考慮しなければならない場合があります。例えば、水は鋼よりも約100倍、空気よりも約0.012倍の弾性があります。圧縮率は温度に大きく依存し、圧力にわずかに依存します。

圧縮率として使用される値は、動作条件での値を採用しなければなりません。一般的には、圧縮率の定義は次式で示される、体積弾性率で表されます。

圧縮率 \( = \displaystyle\frac{ 1 }{ K } \)

\( K = \rho \displaystyle\frac{ \Delta p }{ \Delta \rho } = – V \displaystyle\frac{ \Delta p }{ \Delta \rho } \)

ここで、

\( K \) = 液体の体積弾性率 (N/m2)
\( p \) = 液体の圧力 (Pa)
\( \rho \) = 液体の密度 (kg/m3)
\( V \) = 液体の体積 (m3)
\( \Delta \) = 変化の大きさ

 

圧力の変化による体積の変化は、定義から直接計算できます。

\( \Delta V = – \displaystyle\frac{ V \Delta p }{ K } \)

ここで、マイナス記号は、圧力が増加すると体積が減少することを示します。

水蒸気線図では、広範囲の圧力と温度における水の密度と比容積が簡単に求められます。一方、他の液体の場合、圧縮率のデータは入手が困難な場合があります。

 

 

2.5 音速(acoustic velocity)

ただし、音響の場合、圧縮率は非常に重要です。 音速、つまり波の速度は、体積弾性率と圧縮率に直接関係します。 配管内で共鳴が発生した場合、大きな影響を与えるために音速を知る必要があります。音響共鳴は、破壊的な配管振動や大きな圧力脈動を引き起こす非常に深刻な問題となる可能性があります。 吸込配管では、共振によりキャビテーションが発生して、ポンプの損傷や性能の低下につながる可能性があります。

体積弾性率から計算された音速は、純粋で清浄な液体に適用されます。液体に気泡や固体粒子が含まれる場合、音速は理論値より大幅に低下します。テストは真の値を見つける唯一のアプローチである可能性があります。

各種液体の体積弾性率と音速の参考値について、表6に示します。

表6各種液体の体積弾性率と音速  出典:Handbook of Pumps and Pumping

 

 

2.6 pH値(pH value)

水溶液中の水素イオンの濃度は溶液の酸性度の尺度であり、pH 値として表されます。

pH値の定義は、

\( pH = \log_{ 10 }\displaystyle\frac{ 1 }{ H^+ } \) 

ここで、

H+ = 水素イオン濃度(mol/I)

 

例えば、H+ = 10-4mol/lの場合、pH値 = 4 になります。

pH値は、水素指数(hydrogen exponent)ともいいます。

pH値は、0 ~ 14 の間で変化します。酸性溶液の pH値は 0 ~ 6.5、中性溶液のpH値は 6.5 ~ 7.5、アルカリ性または塩基性溶液のpH値は 7.5 ~ 14になります。酸性溶液では青色リトマス試験紙の色が赤色に変わります。アルカリ性溶液は赤色リトマス試験紙の色が青色に変わります。

酸として反応するすべての水溶液には、過剰な水素イオンH+ が含まれます。アルカリとして反応するすべての水溶液には、過剰な水酸化物イオン OH が含まれます。水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度の積は、一定の温度では常に一定です。

たとえば 22℃ では、イオン積は次のようになります。

H+ x OH = 10-14 mol/I

水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度が等しい場合、つまり

H+ = OH = 10-7 の場合

pH = 7 で、溶液は中性です。

純水は非常に導電性が低いです。 水は、塩、酸、塩基などのいわゆる電解質が溶解することにより、導電率が上昇します。これらの物質は水に溶解すると、反対の電荷を持つ2つの成分に分解され、それによって電流が流れるようになります。

このように2つの成分に分離することを、電離といいます。このようにして形成された荷電粒子はイオンと呼ばれます。正に帯電したカチオン粒子と、負に帯電したアニオン粒子とに区別されます。正に帯電した粒子は、上添え字 + で表され、負に帯電した粒子は、上添え字 で表されます。金属と酸中の水素は、電離して陽イオンを生成します。一方、酸残存物とアルカリ性ヒドロキシル基は、負に帯電したアニオンを生成します。

pH値が4未満の液体の場合、水素イオン濃度は、ほとんどの金属の溶解速度に影響を与える要因になります。正に帯電した水素イオンは、金属表面で金属原子へ電子を与えて、それらの固体結合を破壊します。イオン自体は電子を放出することにより、原子状態に戻り、分子結合して金属表面から、気泡として離れます。 従って、水素イオンの濃度が高いほど、つまり液体の pH値が低いほど、溶解プロセスは速くなります。

約4 ~ 9のpH値の範囲では、例えば、液体中に存在する溶存酸素が、鉄の腐食を引き起こします。放出された水素は、pH0 ~ 4の領域のように気泡の形で残るのではなく、すぐに酸素と結合して水を生成します。 同時に鉄は酸化して錆を発生します。非金属材料に対するpHの影響は、場合場合によります(図7)。

pH値は、金属の損傷における重要な要因ですが、考慮する必要がある要因は、これ以外にもあります。化学物質、特に酸やアルカリの濃度 (pH値とは異なります) は、腐食や損傷の程度に重要な影響を与えます。 溶存酸素は金属部品の腐食に重要な役割を果たします。 現在、化学的な損傷を引き起こすあらゆる範囲の有機化合物や生物学的化合物が存在しますが、それらの多くはpH値とはまったく無関係です。一部の化学物質は非常に濃度が低い場合でも、化学的損傷、漏洩、および毒性の危険性の両方の観点から、深刻な危険性を考慮しなければなりません。

図7非金属材料に対するpH値の影響  出典:Handbook of Pumps and Pumping

 

 

2.7 危険性(hazard)

最近は、日本語でも「ハザード」という言葉がよく用いられます。ここでは、以下のように定義します。

 

危険(hazard)とは、「人身傷害、物的損害、環境破壊、またはこれらの組み合わせの可能性がある物理的状況」と定義します。

この定義から、3つの異なる種類のリスクが考慮されていることがわかりますが、場合によっては、1 つの危険が他の危険につながる可能性があります。 たとえば、火災は深刻な健康被害をもたらす可能性があります。

有害物質(hazardous substance)とは、: その化学的特性により、危険をもたらす物質。

 

2.7.1 健康被害(health hazards)

ポンプの取扱者は、液体とその蒸気がオペレーターや従業員の健康に与える影響を考慮する必要があります。 ほとんどの国には、危険と判断される物質を、従業員が暴露するのを制限する法律があります。ポンプで送られる液体が地域の規制に記載されている場合は、ポンプの製造元に通知する必要があります。 健康被害の種類を特定する必要があります。

もう1つの健康被害は、騒音です。一部の国では、許容可能な騒音レベルと暴露時間を規定する規制(日本では、騒音規制法、労働安全衛生法など)があります。ポンプの種類によっては、本質的に騒音が発生するものもあります。一般的には、大型の機器になるほど、騒音は大きくなります。騒音レベルは、防音パネル等を取り付けることで軽減できますが、機器へのアクセスが妨げられるため、機器の保守性が大幅に低下する傾向があります。

場合によっては、機器へアクセスするため、防音パネルを取り外して廃棄しなければならない場合があります。

この問題を回避するため、工場では「耳保護具使用エリア」を定めて、エリア表示を行い、そのエリア内立ち入る際は、耳保護具(耳栓、イヤーマフなど)を着用することを義務付けています。

 

2.7.2 物理的危険(physical hazard)

物理的危険には、火災や爆発、腐食や温度が含まれます。危険を伴うリスクの程度は、液体と蒸気の性質により異なります。液体が雰囲気温度ですぐに蒸発するかどうか、および蒸気が空気より軽いか重いかなどが影響します。軽い蒸気は、屋外設置の場合は容易に大気中に拡散しますが、重い蒸気は液だまり、くぼみや排水溝などに集合する可能性があります。可燃性の上限濃度と下限濃度とは、蒸気の許容濃度を考慮する際に重要です。

これは日本国内で使用するポンプには影響しないですが、EU域内では、機械指令 89/392/EEC (修正 98/37/EEC) により、機器(この場合はポンプ)の安全性に対する責任は、機械設計者に課されています。 機械はあらゆる面(設置、試運転、操作、保全の各段階)で安全になるように設計されていなければなりません。

設計者が完全に安全な機械を考案できない場合は、懸念される問題点を文書化し、推奨される予防措置をユーザーに伝達する必要があります。このことは、すべてのEU諸国における法的要件であるため、機械設計者は第三者により、その義務を免除されることはありません。

 

2.7.3 環境有害性(environmental hazard)

地球における資源量と廃棄物処理能力は、有限です。汚染物質のリストは長くなる一方で、放出可能な汚染物質の量には徐々に厳しい制限が課されてきています。ポンプの取扱者は、ポンプおよび設置場所からの液体/蒸気の漏れによる、環境への影響を十分に認識しておく必要があります。 環境問題は、2つの異なる地域性に分けて考えることができます。

  – ローカル

  – グローバル

プラントサイトが都市に囲まれているか、都市に近接している場合、障害が発生すると、人、建造物や、生物の生息地に、どのようなリスクが生じる可能性がありますか? 世界的にみて、化学物質の漏洩が継続的に発生する場合、累積的な影響はどのようなものになる可能性がありますか?

その様なリスクについても、考慮しなければなりません。

 

2.7.4 設置時の危険性評価(installation hazard assessment)

ユーザーとシステム設計者は、取扱い液体とポンプ設置に関して入手可能なすべての関連する事実を、完全に把握する必要があります。

設備設計時に行われた仮定はすべてポンプの製造元に示す必要があります。ユーザーは、考えられるすべての危険に付随するリスクを評価し、取扱液体に漏れがある場合にはどのような漏れが許容されるかを決定する必要があります。 リスク評価で検討される液体の特性については、表8を参照してください。

表8 リスク評価で検討される液体の特性  出典(翻訳):Handbook of Pumps and Pumping

 取扱液体の性状によっては、使用する配管接続の型式も決まります。ねじ込み、全面座フランジ、平面座フランジ、リングタイプジョイントなどです。プロセスの異常状態は評価の一部として考慮する必要があります。1時間または2時間以上続く異常状態は、ポンプおよび付属機器の選択に重大な影響を与える可能性があります。

ポンプの設置場所(屋内か屋外か)によって、ポンプから漏れ出た液体の挙動が決まります。屋外であれば液体が蒸発しても、周囲の雰囲気の空気が常に動いているので、蒸気はすぐに分散しますが、一方密閉された部屋では、徐々に蒸気が蓄積して、危険な状態になる可能性があります。ポンプ使用者は、これらの項目を評価して、必要な予防措置を取らなければなりません。

ポンプの使用目的を正確に定義するのはユーザーの責任です。一方、要求された性能を満足する機器を供給するのはポンプメーカーの責任です。

 

 

 

参考文献
Handbook of Pumps and Pumping Chapter 2 Properties of liquids  Brian Nesbitt  Elsevier Science & Technology Books  2006年

 

引用図表
図1水の状態図  出典:Handbook of Pumps and Pumping
図2粘性の定義  出典:Handbook of Pumps and Pumping
図3 ニュートン液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping
図4 非時間依存性液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping
図5 時間依存性液体  出典:Handbook of Pumps and Pumping
表6各種液体の体積弾性率と音速  出典:Handbook of Pumps and Pumping
図7非金属材料に対するpH値の影響  出典:Handbook of Pumps and Pumping
表8 リスク評価で検討される液体の特性  出典:Handbook of Pumps and Pumping

 

ORG:2024/01/12