1.2 イオンビーム加工(IBM: ion beam machining)

1.2 イオンビーム加工(IBM: ion beam machining)

 

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イオンビーム加工は、数百keV程度の運動エネルギーを持つ不活性ガスイオン(主としてArイオン)を、固体材料表面に照射したときに、材料原子が固体材料の表面から真空中に放出される、スパッタリング現象を利用して、固体表面から原子・分子単位で除去する加工法です。
この加工法は、スパッタリングにより材料表面から放出された原子を、対向して置かれた基板に付着させて薄膜を形成させる付着加工にも利用できます。

1. イオンビーム加工の種類

イオンビームを固体材料表面に照射したときに生じる作用は、イオンビームの運動エネルギー(加速電圧によって決定される粒子速度)に依存します(図1.2.1)。

(1)イオンのエネルギー(加速電圧)が数eV~数十eV程度までの低い領域では、照射されたイオンが材料表面を動きまわり、最終的に表面の安定なところにとどまるマイグレーションもしくは付着堆積が生じます。

(2)加速電圧が、数百eV以上になってくると、最初に述べたスパッタリングにより、エッチングなどの除去加工を行います。

(3)さらにエネルギーが高く、数十keVになると、イオン自身が固体中に侵入する、イオン注入効果が生じます。

図1.2.1 イオンビームの運動エネルギーと固体表面の相互作用

2. スパッタ率

図2.1.2は、不活性ガスのイオンをアルゴンイオン(Ar+)、ヘリウムイオン(He+)を、銅材料に照射した場合のイオン加速電圧(運動エネルギー)とスパッタ率との関係を示しています。スパッタ率は、1個のイオンが固体表面に衝突したときに、スパッタリング現象で、固体表面から放出される原子に数で定義されます。

ヘリウムイオンと比較して質量の大きいアルゴンイオンでは、500eV程度以上になるとスパッタ率が1より起きくなります。この領域ではエッチングなどの除去加工に利用されます。加速電圧が数十keV の領域ではスパッタリング現象が支配的になりますが、一部のイオンは極表面層に侵入します。

図1.2.2 イオン加速電圧とスパッタ率との関係

3. イオン侵入深さ

イオンの加速電圧と平均投射飛程(イオンが固体内部に侵入する深さ)との関係を、図2.1.3に示します。

アルゴンイオンの場合、加速電圧が20keV程度では、数十nm(ナノメートル)の深さまで侵入します。さらに、数百keVを超えると、イオンは深く固体中に侵入するようになり、スパッタ率をが低下しイオン注入が支配的な現象になります。

一方、ヘリウムイオンのように小さくて軽いイオンの場合、スパッタリングはほとんど起こらずに、固体中に侵入します。

図1.2.3 イオン加速電圧とイオン侵入深さとの関係

4. イオンビーム加工装置

従来から、ビーム径が数cm~数十cmと口径の大きなイオンビーム加工装置が、パーマロイやダイヤモンド等の材料に微細加工を施すために使用されてきました(図2.1.4)。
最近は、半導体素子の高密度化や量子素子の開発に伴い、DRAM製作時のレクチルやマスクの修正、量子細線の製作のために、0.1~0.01µm径のイオンビームを発生可能な集束イオンビーム加工装置(FIB:focused ion beam machining apparatus)が多く用いられるようになりました。

ただし、物理的なスパッタリング現象によってのみ加工を行うのは、エッチング速度が遅い点と、再付着が起きる点などが問題になります。これらを解決するために、材料表面の原子と揮発性の化合物をつくる活性ガスを吹き付けながら、同時にイオンビームを照射して、除去加工を行うイオンビーム援用化学加工装置(IBACE: ion beam assisted chemical etching)の開発が検討されています。

また、活性ガスを直接イオン化して、生じた活性化したイオンを加工物に照射して、除去加工を行う反応性イオンビームエッチング(RIBE: reactive ion beam etching)も検討されています。

これらの方法では、物理的作用によるスパッタリングに加えて、活性イオンや励起種等と被加工物との間の化学的作用も利用できます。そのため、加工速度や選択比(フィルムの加工速度/基板の加工速度)高められます。また、イオンのエネルギーを十分低くすれば、材料の損傷がほとんど無い加工が可能になります。

図1.2.4 イオンビーム型加工装置

5. イオンビーム加工の加工特性

イオンビームを利用した加工における加工特性で、もっとも重要な特性は加工速度でVn(μm/h)です。これは,、被加工物質と入射イオンとの組合せ、イオンのエネルギーE(eV)、イオン入射角 θ( °)、被加工物の結晶方位、加工時の被加工物の温度、残留ガス中の酸素濃度などによって大きく異なります。

図1.2.5に、集束イオンビーム加工装置による加工例を示します。

図1.2.5 集束イオンビーム加工装置による加工例

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-07章
JWES接合・溶接技術Q&A1000 Q-11-01-27

 

引用図表
[図1.2.1] イオンビームの運動エネルギーと固体表面の相互作用   JWES接合・溶接技術Q&A1000
[図1.2.2] イオン加速電圧とスパッタ率との関係   JWES接合・溶接技術Q&A1000
[図1.2.3] イオン加速電圧とイオン侵入深さとの関係    JWES接合・溶接技術Q&A1000
[図1.2.4] イオンビーム型加工装置      機械工学便覧 第6版 β03-07章
[図1.2.5] 集束イオンビーム加工装置による加工例    筑波大学技術報告24;69-72, 2004  ”FIB装置を用いた微細加工”

 

ORG: 2017/8/11