Ⅱ.1.1. 実際の切削加工

Ⅱ.1.1. 実際の切削加工(actual cutting)

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実際の切削加工の大部分は、切れ刃が切削方向に対して傾いていたり、切れ刃が一つの直線ではない三次元切削(three dimensional cutting)ですが複雑になるので、基礎的な切削機構を理解するうえでは、切削方向と工具の切れ刃とが垂直になる二次元切削(orthogonal cutting)で考えるのが普通です。

1.被削性(machinability)

被削性は、被削材の削りやすさを表します。被削性の評価は、次の4項目により行われます。

・仕上げ面性状と加工精度
・切削抵抗と切削動力
・工具寿命
・切りくず処理性

これらの項目は相互に関連しています。例えば、

・切削抵抗が増大すると、工具寿命は短くなります。
・切削抵抗が増大すると、仕上げ面粗さが悪くなります。

2.切りくず(chip)

切りくずは、被削材より除去される不要部分です。しかし、その形態は切削形状は、その切削状態をよく表します。また、その処理性は実用的にも重要です。

切りくずの形態については、JISB0170では、4種類に分類されています。ただし、実際の加工では、切りくずの形態を明確に分類することは難しいので、一般的には連続形切りくずと不連続形切りくずの2種類に分類することが多いです。
切りくずの形態は、被削材の種類や切削条件により決まります。

JISB0170に示される分類は以下のようです。

(1)流れ形切りくず(flow type chip)

すくい面に沿って連続的に生成される切りくずです。切削抵抗の変動が無く、良好な工作物の仕上げ面を得ることができます。延性材料を切削する場合に生じることが多い切りくずです。

一般には、すくい角が大きい場合や切削速度が大きく、バイト送り量・切込み量が小さい場合、切削油剤の供給が多い場合などに生成されやすい切りくずです。

(2)せん断形切りくず(shear type chip)

断片的な破片が連続的に生成される切りくずです。比較的もろい材料の切削時に、バイト送り量・切込み量が大きい場合に生成されやすい切りくずです。
切削力が変動するために、流れ形切りくずより、工作物の仕上げ面は悪くなります。

(3)むしり形切りくず(tear type chip)

切りくずがすくい面に粘りついて刃先に溜まり、刃先前方に裂け目が生じる切りくずです。切削条件を最適化すれば流れ形切りくずになる場合もあります。

(4)き裂形切りくず(crack type chip)

切りくずが、切削時に流れ形切りくずのように変形せずに、切れ刃前方にき裂を生じます。

鋳鉄など非常にもろい工作物を切削する場合に生成されやすい切りくずです。

図Ⅱ.1.1.1 切りくず生成形態の種類

3.構成刃先(built-up edge)

構成刃先とは、軟鋼やアルミニウム合金、黄銅、ステンレス鋼などの延性材料を、比較的低切削速度(50m/min前後)で切削した場合に、被削材の一部がすくい面上に凝着したもので、被削材よりも非常に硬い組織になっています。また、被削材の材質と切れ刃が高い親和性を持つ場合にも発生しやすいです。

構成刃先は、”発生→成長→分裂・脱落”のサイクルを短い時間で繰り返します。”分離・脱落”は、切りくずの裏に凝着します(図Ⅱ.1.1.2)。

図Ⅱ.1.1.2 構成刃先

構成刃先が発生すると、実質的に刃先が鋭くなって切削抵抗が減少したり、工具の刃先が保護されることにより摩耗が減少するなど有利な点があります。その反面、上述したように構成刃先は不安定で、加工精度に次のような悪影響を与えます。

(1) 構成刃先の生成,脱落によって、不連続形切りくずが発生し、切削抵抗が絶えず変動します。そのため、工作物の形状精度が悪くなります。

(2) 構成刃先の材料は一般的には硬くなっているとはいえ、被削材そのものですので、同じ材質で切削していることになり、加工精度は悪くなります。

(3) 構成刃先は切れ刃に凝着しており、大きく脱落する場合、切れ刃先端も脱落し刃先が欠損することがあります。

4.びびり振動(chatter vibration)

剛性の低い工作物や、工具、工作機械を使用する場合や、大きな切削幅で加工する場合に、激しい振動をともなうことがあります。これをびびり振動といいます。

びびり振動には、断続切削により切削力が変動して、工作機械の固有モードを加振して発生する強制びびり(forced chatter)と、切削時の切れ刃の摩耗や切削抵抗の変化など加工プロセス内に振動を増幅させる不安定性を持つ自励びびり(self-excited chatter)の2種類があります。

何れにしても、びびり振動が生じると、仕上げ面粗さが著しく大きくなり、工具欠損も起こりやすくなります。
最悪の場合は、工作機械を故障させることもあるため避けなければならない現象です。

 

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参考文献
機械工学便覧第6版β05-09章    (社)日本機械学会
新編機械工作下巻     養賢堂
絵とき旋盤加工基礎のきそ     澤 武一  日刊工業新聞社

 

引用図表
[図Ⅱ.1.1.1] 切りくず生成形態の種類   新編機械工作下巻改
[図Ⅱ.1.1.2] 構成刃先   新編機械工作下巻改

 

ORG:2018/1/6