1.5 トライボロジーの特質

1.5 トライボロジーの特質(Characteristics of Tribology)

スポンサーリンク

 

1. トライボロジーに関連する学問体系

トライボロジーが対象とする分野は、具体的には摩擦・摩耗・潤滑の3つです(図1.5.1)。

図1.5.1 トライボロジーに関係する学問分野

これに関連する技術や学問は非常に多岐にわたります。トライボロジーの考え方の基礎となるのは、機械学と材料学、化学です。潤滑はそれらを統合して考えなければならない学際領域の問題です。例えば相対する2表面の摺動に関わる潤滑を考えて見ましょう。まず2表面の形状要素(機械学)を考えなくていはいけません。潤滑剤の保持や流れ方、表面粗さなどを考慮する必要があります。摺動材料の特性(材料学)も大きく影響します。2表面の材料の硬さの差、熱膨張の程度など材料の特性に、潤滑状態は大きく影響されます。さらに潤滑剤の性状(化学)は潤滑の良否を決定づける最も重要な要素です。

潤滑の諸問題は、これらの3つの分野からも一つの現象に対して数多くの要因が複合的にお互いに影響するので、理論的・実験的に解析するのには多くの困難があり、研究が活発な分野です。

 

2.トライボロジーの適用

1.項で、トライボロジーが対象とする分野は、摩擦・摩耗・潤滑の3つの分野であることを述べました。このうち、潤滑は摩擦や摩耗を制御する役割があります。残りの2つ、摩擦・摩耗についてはこれらの不具合を最小限にすることを目的としています。

ここで、低減するとは言えないのは、摩擦や摩耗が大きくなる場合の方が望ましい事例もあるからです。図1.5.1は、摩擦や摩耗特性が影響する現象について例示しています。

図1.5.2 摩擦特性・摩耗特性が影響する事例

例えば、軸受や滑り案内は、摩擦も摩耗も最小化が要求されますが、一方消しゴムは紙の上に書かれた文字の黒鉛などの粒子を除去する必要があることから、摩擦も摩耗も大きいほうが、消しゴムが要求される機能を満足します。

 

3.トライボロジーの効用

トライボロジーを正しく適用することができれば、以下に示す効果が期待できます。

(1)設備の信頼性向上
回転機器などの動機器の運転が安定して行えます。予期しない機器の停止が減少します。そのため停止による各種の損失、例えば設備の修理や、製品製造ができないなどを防止することができます。設備の稼働率を向上させることにより利益の改善が見込まれます。

(2)高速化
潤滑が改善されれば、機械を高速で運転することが可能になります。その結果、高機能を得ることができたり、稼働率が向上します。また、高速化により機械は小型化、軽量化できる利点があります。

(3)精密化
2表面の摺動抵抗が低減されたり温度変化が小さくなることにより、運動や位置決めの精度が上がります。例えば工作機械などでは、製品の製作精度の向上を図ることができます。

(4)経済性
摩擦が低減されることにより、動力費の低減が図られます。また、摩耗の現象も期待できるので、機器の長寿命化が得られることにより、メンテナンスコストの低減やリプレースまでの期間の延長が見込まれます。

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門   岡本純三 他   幸書房
Engineering Tribology  G.W. Stachowiak, A.W. Batchelor  Butterworth Heinemann

 

引用図表
図1.5.1 トライボロジーに関係する学問分野  ORG
図1.5.2 摩擦特性・摩耗特性が影響する事例 Engineering Tribology 改

 

ORG:2018/12/5