2.1 固体表面の性質

2.1 固体表面の性質(Solid surface properties)

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1.固体表面の形状と計測方法

1.1 表面形状の種類

トライボロジーは表面形状の影響を受けます。表面形状については巨視的な形状と微視的な形状とが考えられます。

巨視的な形状は、例えば平面、球面、円筒面などに分類されます。機械要素の接触部や摺動部の解析でも、これらの単純な形状に置き換えて解析されます。例えば、玉軸受は球面と円筒面との接触問題として取り扱われます。このように、巨視的形状は二面間の接触や流体潤滑について検討する際に、用いられます。
一方、微視的な形状は固体摩擦のように、二表面が直接接触する部位では、巨視的な形状より表面粗さやうねりなどの微視的な形状です。表面粗さは微小な凹凸を表し、うねりは表面粗さより長い周期で繰り返される起伏を表します。平滑な表面というものは原子レベルのサイズでは可能ですが、通常の工学的に製作できる平滑面は数十nm程度が限界です。したがって、幾何学的に正確な平面や球面は存在しません。工学的な表面は必ず凹凸があります。

 

1.2 微視的な表面形状の測定方法

表面の微視的な形状を測定する方法は、接触式表面形状測定と非接触式表面形状測定とに大別されます。

(1)接触式表面形状測定
接触式表面形状測定方法としては、AFMカンチレバーをプローブに用いた原子力顕微鏡もあるが、一般的にはプローブにダイヤモンド針を用いた触針式面粗さ計が用いられています。触針式面粗さ計は、触針(スタイラス)の先端が試料の表面に直接接触して表面の状態を測定します。触針は検出器に取り付けられています。この触針が試料の表面をなぞって触針の上下運動を電気的に検出します(図2.1.1)。その電気信号を増幅、ディジタル化などの処理を行い記録します。

図2.1.1 触診式面粗さ計の原理

この方式では、基本的には二次元的にしか測定できません。したがって加工方向に微視的な形状の差異が出るような加工方法では測定方向によって測定される形状に差異が生じて、摩擦や摩耗に対する影響を見誤る場合があります。

触針式面粗さ計による加工方法が異なる面の測定例を示します(図2.1.2)。

図2.1.2 加工方法の差異による表面性状の違い

触針式面粗さ計の主な特徴を示します。

・長所
 /明瞭な形状波形が得られる。
 /測定距離を比較的長くとることができる。

・短所
 /スタイラスが摩耗して正しく形状をトレースできない場合がある。
 /測定力によって試料表面に傷を残す。
 /スタイラス先端のRより小さな溝の測定はできない。
 /測定時間が長くかかる。
 /粘着性のある試料の測定はできない。

(2)非接触式表面形状測定
非接触式表面形状測定方法としては、プローブとして光を用いるものが主ですが、電子線を用いた反射式電子顕微鏡(SEM)や、イオンビームを用いたイオン顕微鏡も形状観察の観点から含まれると考えられます。

プローブを光にした非接触式表面形状測定は、白色干渉光学系や、共焦点光学系を用いたものの他に、プローブとしてレーザー変位計を用いた表面形状測定器があります。

非接触式表面形状測定の特徴は以下のようになります。

・長所
 /三次元計測ができる。
 /試料表面を傷つけない。
 /接触式と比較して、より微小な凹凸を測定できる。
 /測定時間が短い。

非接触式表面形状測定器による測定例を示します。

図2.1.3 非接触式表面形状測定器によるアルミニウム加工面の測定例

(3)表面形状測定器の種類と概要
(1)、(2)項でも述べたが、表面形状を測定する方法は接触式と非接触式とに大別されます(表2.1.4)。この表に示す垂直分解能と測定領域は市販品の平均的な値を示しています。

表2.1.4 表面形状測定器の種類と概要

 

1.3 微視的な表面性状を表すパラメータ

微視的な表面性状については、触針式粗さ計による測定についてはJIS B0601-2001、接触式・非接触式形状測定器による測定についてはISO 25178が規定されています。

一般的に使用されている触針式粗さ計の計測結果については、JIS B0601-2001に表面粗さを定量的に表す処理方法がいくつか示されています。

\(Rz\):最大高さ … 基準長さにおける粗さ曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和を求めて表したもの。
\(Ra\):算術平均粗さ … 基準長さにおける粗さ曲線のZ(x)の絶対値の平均を表したもの。
\(Rq\):二乗平均平方根高さ … 基準長さにおける粗さ曲線の二乗平均平方根を表したもの。表面粗さの標準偏差を意味する。

それぞれ、図2.1.5(a),(b),(c) に示します。


(a) Rz:最大高さ


(b)  Ra:算術平均粗さ


(c)  Rq:二乗平均平方根高さ

図2.1.5 各種粗さの表示方法

しかし、これらの値から粗さの大きさはわかりますが、粗さの形状に関する情報は与えられませんので、粗さ曲線を正確に定義するためには情報が不足します。これを補うためにアボット(Abbot)の負荷曲線といわれるものがあります。図2.1.6にアボットの負荷曲線の例を示します。

アボットの負荷曲線は、粗さ曲線の中心線に平行な線により切断された測定された表面の実質部分の長さの合計 \(\Sigma s\) の全体の長さ\(l\)に対する比率を図示したものです。アボットの負荷曲線は、面の粗さ形状により形が決まります。

例えば、エンジンのピストンの摺動部は、潤滑剤を保持するポケットが適正量あって、しかも、山部が平坦な粗さ形状が望ましいことがわかっています。

図2.1.6 アボットの負荷曲線

 

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2.固体表面の物理的・化学的性質

1項では固体表面の幾何学的な性質について考えました。しかし、摩擦や潤滑にとって重要な因子としては物体表面自身の性質があります。真空中に置かれた清浄な表面では固体表面の物理的・化学的性質に依存しますが、空気中での固体摩擦や潤滑剤中における摩擦でも、固体表面と二表面間に介在する気体分子や潤滑剤の分子とが相互に作用して摺動特性に影響を与えています。

一般に固体表面は、固体と気相や液相と接している境界面になります。固体表面の原子は高い表面エネルギーを持っています。その大きさは、固体から新しい表面が作られる際に、結晶内部で切断された原子間の結合エネルギーの総和に等しくて、おおよそ 103 erg/cm2程度になります。したがって、固体表面は化学的に活性を持ちます。

大気中で固体表面が新しく作られると、化学的な活性をもった表面に酸素や水蒸気がすぐに吸着されて、酸化膜や水蒸気吸着膜で覆われます。潤滑剤中でも新生表面が摩耗などにより生成すると、固体表面に油分子や潤滑剤中に溶存している空気や水分、さらにいろいろな活性分子が吸着されます。

油分子の吸着については別のところで記述します。ここでは、固体表面への気体分子の吸着について示します。
気体分子運動論によれば、単位体積(1cm2)の固体表面に単位時間(1sec)で衝突する気体分子の数nは次式で与えられます。

\(n=3.52×10^{22}\large\frac{P}{\sqrt{MT}}\)  (式2.1.1)

ここで、
\(P\):圧力(\(Torr\))
\(M\):気体の分子量
\(T\):温度(\(K\))

温度を常温(300K)、空気の分子量を30とすると、固体表面1cm2に衝突する分子の数nは、毎秒2.82×1023個になります。
一方、固体表面1cm2に存在する固体原子の数は約1015個ですので、固体表面の1個の原子に、毎秒108個つまり1億個の空気分子(窒素または酸素)が衝突しています。これが固体表面に吸着したり酸化膜を形成します。

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房
トライボロジーの基礎 長谷亜蘭  精密工学会誌 Vol.12No.181 No.7 2015年
表面粗さ測定入門線粗さ編(AS_92823_TG_151177_JA_1068-3.pdf) キーエンス
摩擦面の計測と分析 https://www.juntsu.co.jp/surface/surface_kaisetsu01.php ジュンツウウネット21

 

引用図表
図2.1.1 触診式面粗さ計の原理  表面粗さ測定入門線粗さ編 キーエンス
図2.1.2 加工方法の差異による表面性状の違い  トライボロジーの基礎 長谷亜蘭
図2.1.3 非接触式表面形状測定器によるアルミニウム加工面の測定例  表面粗さ測定入門線粗さ編 キーエンス
表2.1.4 表面形状測定器の種類と概要 摩擦面の計測と分析 ジュンツウウネット21
図2.1.5 各種粗さの表示方法  表面粗さ測定入門線粗さ編 キーエンス
図2.1.6 アボットの負荷曲線  トライボロジー入門

 

ORG:2020/2/4