2.4.1 アモントン・クーロンの摩擦の法則

2.4.1 アモントン・クーロンの摩擦の法則(Ammonton-Coulomb’s law of friction)

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1.摩擦の基本法則

摩擦現象をマクロ的に観察した経験則として次の4つがあげられます。

(1)摩擦力は垂直荷重に比例する。
(2)摩擦力は見かけの接触面積には無関係である。
(3)運動摩擦の摩擦力は、滑り速度には無関係である。
(4)静止摩擦力は運動摩擦力よりも大きい。

これらは。アモントン・クーロンの法則とよばれています。これらのうち、(1)と(2)とはアモントンの法則ともよばれるものですが、最初にこの2つの法則を発見したのはレオナルド・ダ・ウィンチ(Leonardo da Vinci, 1452~1519)(図2.4.1.1)といわれています。ダ・ヴィンチは彼の草稿の中で、重さを2倍にすると摩擦も2倍になること、接触面積は摩擦にほとんど影響しないことを記述しています。彼はまた、「摩擦力の大きさは物体の重さの四分の一である」とした、定量的な記述をしているそうです。摩擦係数の概念を既に持っていたことになります。
その後、おおよそ200年後にフランスのアモントン(G. Amontons, 1663~1705)(図2.4.1.1)によって、これらの2法則が再発見されました。アモントンも、「摩擦力は荷重の三分の一である」と述べており、ダ・ヴィンチと同様、摩擦係数の概念を認識していました。

さらに、アモントンの100年後、フランスのクーロン(G. Coulomb, 1736~1806)(図2.4.1.1)はアモントンの2法則を確認したうえで、(3)、(4)の法則を発見しました。

 

この、アモントン・クローンの法則は、荷重や速度の広い範囲にわたって成立する経験則ですが、近年、必ずしも成立しない場合が多くわかってきました。例えばゴムなどの弾性体では、(1)の法則が成り立たちません。また、これらの法則は流体潤滑された面には適用されません。

図2.4.1.1 レオナルド・ダ・ヴィンチ,アモントン,クーロン

 

2.摩擦係数

アモントン・クーロンの法則によれば、摩擦力をF、垂直抗力をPとすると、

\(\small{ F=\mu P }\)  (式2.4.1.1)

の関係が成立します(図2.4.1.2)。比例定数μは摩擦係数として呼ばれ、見かけ上の接触面積に依存しないことを示しています。実際にはμの値は摺動面の微視的形状および物体の材質や温度、速度、潤滑の有無などによって変化します。特に潤滑の有無は摩擦係数に大きく影響を与えます。

図2.4.1.2 アモントン・クーロンの法則(2)法則

また摩擦係数の値は、静摩擦力と動摩擦力とは運動の仕方が異なるので、それぞれ静摩擦係数、動摩擦係数としてあらわされます。静止した状態での摩擦力が静摩擦力で、Fを静止状態で徐々に大きくして、滑り始める直前の静摩擦力の最大値が、最大静摩擦力(あるいは限界摩擦力)で、一般的にはさらにFを大きくすると物体が動き出して動摩擦力に代わります。

アモントン・クーロンの法則の(2)法則を、動摩擦状態に適用すると、動摩擦係数(coefficient of kinetic friction)μkを用いると、

\(\small{ F=\mu_{ k } P }\)  (式2.4.1.2)

という形で表されます。

μk が一定である摩擦をクーロン摩擦(Coulomb’s friction)と呼ばれます。無潤滑状態(乾燥摩擦)や境界潤滑状態では、極端に速度が小さい場合や大きい場合、面圧が極端に大きい場合や小さい場合を除くと、ほぼクーロン摩擦として扱えます。

 

また、アモントン・クーロンの法則の(4)法則に示される静摩擦力は、最大静摩擦力を意味します。最大静摩擦力については、動摩擦力の場合と同様、静摩擦係数(coefficient of static friction)μs を用いると、

\(\small{ F=\mu_{ s } P }\)  (式2.4.1.3)

の関係が成立します。

従って、物体が滑り始めるまでの静摩擦力は、μsP 以下の値でFと釣り合っていることになります。

 

以下に、色々な材質の組合せの摩擦係数を示します。本表はMarks’ Standard Handbook for Mechanical Engineers に記載の表を簡略化したものです。測定条件等については、原本に当たってください。

表2.4.1.3 高分子材料以外の摩擦係数の例

表2.4.1.4 高分子材料の摩擦係数の例

 

3.摩擦法則からの外れ

上述したように、アモントン・クーロンの法則は広い範囲で成り立ちます。一般に固体摩擦、あるいは境界潤滑の場合、摩擦係数は定数にあることを示しています。

しかし、アモントン・クーロンの法則の妥当性については、現在でも議論が続いています。例えば、弾性体の静摩擦係数は荷重が増加するにつれて静摩擦係数が減少することが、実験的、理論的に青山学院大学の松川教授他の研究者により求められました。これはアモントンの(1)法則からの外れになります。

つまり、

\( (静摩擦係数)=(ある定数)+(別の定数)\times(荷重)^{(-1/3)}\) 

という形で表されます(図2.4.1.5)。

図2.4.1.5 静摩擦係数の荷重依存性

アモントンの法則がどのような場合に成立し、どのような場合に成立しないかを考えると、一般的にはアモントンの法則は成り立ちませんが、荷重や物体の大きさが十分大きいもしくは十分小さい場合についてのみ近似的に成り立つと考えられます。

アモントンの法則から外れる振舞いが起こる原因は、摩擦が働く物体の接触面で起こる局所的な前駆滑りあることが発見されました。通常は、物体を動かすためには最大静摩擦力以上の力を与えなければならない、それ以下の外力では物体は全く動かないと考えられてきたのですが、実際は、最大静摩擦力以上の外力で起こる物体全体の滑り運動の前駆現象として、最大静摩擦力以下の外力で局所的な滑りが起こっていることが明らかになりました。

 

(本項については、あらためてより詳しく、まとめる予定です。)

 

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参考文献
トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房
機械工学便覧 第6版 α02-04章  日本機械学会
Marks’ Standard Handbook for Mechanical Engineers  Tenth edition
局所的前駆滑りによるアモントン則の破れと新しい摩擦法則  松川宏,大槻道夫,中野健   表面科学Vol.36,No.5

 

引用図表
図2.4.1.1 レオナルド・ダ・ヴィンチ,アモントン,クーロン   Wikipedia
図2.4.1.2 アモントン・クーロンの法則(2)法則       機械工学便覧 第6版
表2.4.1.3 高分子材料以外の摩擦係数の例   Marks’Standard Handbook 参照
表2.4.1.4 高分子材料の摩擦係数の例   Marks’Standard Handbook 参照
図2.4.1.5 静摩擦係数の荷重依存性   表面科学Vol.36,No.5

 

ORG:2019/12/17