2.4.2 固体摩擦の発生原因

2.4.2 固体摩擦の発生原因(Cause of solid friction)

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1. 凹凸説

レオナルド・ダ・ヴィンチをはじめ、アモントン、クーロンなどの、初期の摩擦関係の研究者のほとんどは、以下の観察結果から、摩擦は表面の凹凸によるものと考えました。
(1)摩擦係数は材質にあまり関係が無くほぼ一定の値を示す。
(2)表面が粗いほど摩擦が増加する。

アモントンは、摩擦の原因を相対する二表面の凸部同士がひっかかることによる抵抗と考えました。この考え方は凹凸説とよばれています。上記の2つの観察結果をうまく説明できると思われました。

後述しますが、アモントンの凹凸説に対して、イギリスのデザギュリエ(J. Desaguliers, 1683-1744)は、鉛の球の一部を削り取った酸化されていないきれいな面を互いに強く押し付けて摩擦させると凝着する事実などから、凝着が摩擦の原因であると提唱しました。

クローンは、デザギュリエが提唱した凝着の重要性に留意していましたが、凝着の考え方では第二法則(摩擦は接触面積に無関係)をうまく説明できませんでしたので、凝着力の影響は限定的であると考えて、摺動する二表面の凸部のかみ合いが摩擦の原因であるとして、摩擦は上側の物体が下側御物体の凸部の斜面に沿って引き上げるのに必要な仕事と考えました。

図2.4.2.1 凹凸説の説明

図2.4.2.1(a) に、凹凸の一つを模した斜面上を移動する物体を示します。傾きが\(\theta\)の斜面上を物体が水平方向に力\(F\)の力で押されており、2面間に摩擦は無いと考えます。水平方向の力\(F\)は斜面に沿って物体を上方に押し上げる力\(W\)と斜面への法線力\(N\)とに分解できます。この場合、\(F\)が見かけの摩擦力になります。

その大きさは、

\(F=W \cdot \tan \theta\)  (式2.4.2.1)

になります。また、斜面を降りるときに位置エネルギーは回収されないものとします。

今、図2.4.2.2(b) は実際の斜面を模した、いくつもの凸部がかみ合っている場合を示します。全荷重を\(W\)、それぞれのかみ合っている部分にかかるを\(Wi\) (i=1,2,3,…)、移動に必要な水平力を\(F\)とすると、

\(F=\Sigma Wi \cdot \tan \theta\)   (式2.4.2.2)

\(W=\Sigma Wi\)   (式2.4.2.3)

これより、摩擦係数\(\mu\)は、

\(\mu=F/W= \tan \theta\)  (式2.4.2.4)

と表されます。これより摩擦係数\(\mu\)は表面の凹凸状態(粗さ)を示す\(\theta\)のみの関数になります。このことから、摩擦の第二法則が成立するとしました。

しかし、現在では、凹凸の影響は、摩擦の主原因ではなく、硬い凸部による軟らかい表面の掘り起こしの際の抵抗になると考えられています。

凹凸説は19世紀までは支持されていましたが, 20世紀に入りイギリスのハーディー (w. B. Hardy,1864 – 1934) らによる物質の表面性状についての研究などによって,凹凸説の矛盾が表面化してきました。

 

2.凝着説

当時アモントンにより提唱された凹凸説に対して、イギリスのデザギィリエ(J. Desaguliers, 1683-1744)は、以下の観察結果を見出しました。

・表面の面粗度を小さくすると摩擦が増大する。
・2個の鉛の球の、一部分をそれぞれ削り取って新生面を露出させてお互いに押し付けて摩擦させると強く凝着する(図2.4.2.2)。

図2.4.2.2 デザギュリエの鉛球凝着実験

これらの結果は凹凸説では説明できず、摩擦抵抗は二表面の凝着が原因であるとの分子論的な考え方を提案しました。しかしながら、デザギュリエの説では、凝着力は接触面積が増加するにつれて増大することになり、摩擦の第二法則(摩擦は接触面積に無関係である)との整合性が取れないという問題がありました。

20世紀になると、イギリスのハーディ(W. D. Hardy,1864-1934)等により表面分子膜など表面性状の研究が進み、デザギュリエの分子論的な考えを支持するデータが蓄積されてきました。

続いて、ドイツのホルム(R. Holm)は電気接点の抵抗を測定することにより真実接触面積を測定しました。このことより真実接触面積と見かけの接触面積とは異なることが明確になりました(図2.4.2.3)。また、真実接触面積は荷重の増加に比例して増えることも発見しました(1946年)。そして、二表面の接触は凸部同士で起こり、その接触部分は塑性変形して凝着し、滑り方向の力が加わると凝着部分がせん断を生じます。これらの凝着部分にせん断を起こす力が摩擦力であるとしました。これによりデザギィリエによる観察結果が説明できるようになりました。

図2.4.2.3 見かけの接触面積と真実接触面積

その後、バウデン(F. P. Bowden, 1903-1968)や、テイバー(D. Taber, 1913-2005)らの研究によって、凝着説は摩擦の主要因として広く認められるようになりました。

 

3.掘り起こしによる摩擦

物体表面の粗さによる凹凸の組合せが摩擦の要因であるとした凹凸説は、凝着説により摩擦の主要因ではないとされましたが、摩擦の要因としてほかに、硬い材料が柔らかい材料の表面を滑る場合に、硬い方の材料が柔らかい方の材料表面に食い込んで、柔らかい方の表面を塑性流動により掘り起こして、微細な溝を形成することがあります。この現象を掘り起こしによる摩擦といいます。

これについては、凝着説の詳細な説明とともに別項で述べる予定です。

 

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参考文献
トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房

 

引用図表
図2.4.2.1 凹凸説の説明   トライボロジー入門参考
図2.4.2.2 デザギュリエの鉛球凝着実験   トライボロジー入門Add
図2.4.2.3 見かけの接触面積と真実接触面積   トライボロジー入門

 

ORG:2020/1/15