3.1 境界層の構造と境界摩擦

3.1 境界層の構造と境界摩擦(Boundary layer structure and boundary friction)

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0.はじめに

一般に、機械要素が摺動する面(例えば、旋盤の主軸台とベースを思い浮かべてください。)は、摩擦や摩耗を低減するため、潤滑剤が使用されます。特に、潤滑油のような油性液体が一般的に使用されています。

摺動する2つの面が潤滑油膜により完全に隔てられている場合を流体潤滑状態(Fluid lubrication condition)といい、摩擦の状態は潤滑油の粘性によってのみ決定されます。

しかし、滑り速度が減少したり、荷重が大きくなったりすると油膜厚さが減少します。油膜厚さが、摺動面の表面粗さより薄くなると流体潤滑油膜の一部が破れて、摺動面の凸部同士が直接接触することになります。直接接触する凸部の摺動部は、乾燥摩擦状態(Dry friction condition)になります。その周辺部は、表面に吸着した油分子の極めて薄い層により潤滑されている状態になります。この極めて薄い油の層で潤滑される状態を境界潤滑状態(Boundary lubrication condition)といいます。

なお、一般の摺動面では、表面の凹部に潤滑油膜が存在しますので、流体潤滑,境界潤滑,乾燥摩擦の3つの潤滑状態が混在しているのが普通です(図3.1.1)。このように3つの状態が混在している潤滑状態を、混合潤滑状態(Mixed lubrication state)といいます。

図3.1.1 混合潤滑状態の模式図

境界潤滑状態では、潤滑油中の界面活性物質が摺動部表面に吸着して境界層(boundary layer)を形成して、2つの面が直接接触することを妨げて、摩擦や摩耗を減少させます。

注記:本項で述べた混合潤滑状態を境界潤滑として広義に解釈される場合も多いですが、本篇では、境界潤滑状態は、流体潤滑ほど油膜層が厚くなく、しかも乾燥摩擦のような固体表面が直接接触する状態でもない、潤滑油の極めて薄い層による潤滑部のみと定義します。

 

1.境界層の構造

固体表面の境界層は、油中の存在する活性物質の分子が、油中から表面に吸着して形成されます。油中の活性物質の濃度が増加すると、吸着量も増加します。時間の経過とともに、ある平衡吸着量に到達します。このときの吸着膜は、化学吸着による単分子膜(図3.1.2)あるいは、ファン・デル・ワールス力による物理吸着による多分子膜(図3.1.3)が形成されます。これらを総称して、境界層といいます。

図3.1.2 化学吸着の模式図

図3.1.3 物理吸着の模式図

 

化学吸着膜は、固体表面と強く結合するため、表面をより有効に保護します。化学吸着を行う物質は、末端が”-OH”,”-NH3”,”-COOH”などの極性基を持つ直鎖分子が有効になります。図3.1.2に示すように、固体表面とは極性基の部分で結合し、表面に対してほぼ垂直に配向します。単分子膜の強さは膜と表面の結合力と鎖状分子同士の凝集力により決まります。また、この場合の表面との結合力は極性基の種類により異なります。

物理吸着の要因となる、ファン・デル・ワールス力などの分子間凝集力は分子の形や長さなどの影響を受けます。

 

2.吸着状態による吸着熱の差異

吸着分子と固体表面との結合力の強さの程度を示す尺度として吸着熱が用いられます。吸着熱は、極性基の極性が強いほど大きく、固体表面に吸着しやすい性質を表します。

物理吸着の場合の吸着熱は、10 kcal/mol(=42 kJ/mol)以下の小さい値をとります。一方化学吸着の場合は、10 ~ 100 kcal/mol(=42 ~ 420 kJ/mol)と高い値をとります。吸着熱が大きいほど、摩耗防止性が向上します。

物理吸着は固体表面との結合は弱く、吸着反応は可逆的で温度上昇により脱離しやすくなります。一方、化学吸着の吸着反応は非可逆的で脱離し難いと言われています。

吸着分子は、固体表面に対して選択性があります。例えば、脂肪酸は金,銀,白金などに対しては、物理吸着を行いますが、その他の金属には化学吸着をします。例えば、代表的な飽和脂肪酸であるステアリン酸は、鉄の表面に化学吸着して、ステアリン酸鉄(石けん)を形成します。

 

3.吸着膜が潤滑性に及ぼす影響

化学吸着は吸着分子と固体表面との結合力が強いため、吸着反応は非可逆的で脱離しにくいといわれています。そのため、摩擦減少のために使用される添加剤(摩擦低減剤)は、化学吸着する分子が適しています。例えば、代表的な直鎖飽和脂肪酸であるステアリン酸が鉄表面に吸着する場合、化学吸着をして、ステアリン酸鉄(石けん)を形成して摩耗を防止させる効果があります。

鎖状分子間の結合力は、鎖が長くなるほど大きくなります。分子量が大きいほど摩擦は減少します(図3.1.4)。ただし、潤滑性は分子の極性基の種類によって異なります。

図3.1.4 鎖状分子の長さと摩擦係数

また、固体表面に界面活性物質が吸着することにより、機械的強度が低下します。この現象はレビンダー効果(Rehbinder effects)と呼ばれ、旧ソビエトのレビンダーにより発見されました、

 

4.化学吸着と物理吸着

化学吸着と物理吸着との差異についてまとめたものから、潤滑に関連する項目について抜き出しました(表3.1.5)。

表3.1.5 化学吸着と物理吸着との差異

 

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門    岡本純三 他   幸書房

 

引用図表
図3.1.1 混合潤滑状態の模式図   トライボロジー入門
図3.1.2 化学吸着の模式図     トライボロジー入門
図3.1.3 物理吸着の模式図     トライボロジー入門
図3.1.4 鎖状分子の長さと摩擦係数   トライボロジー入門
表3.1.5 化学吸着と物理吸着との差異 インターネット開示分の改

 

ORG:2018/10/9