3.3 境界摩擦に対する速度,荷重,温度の影響

3.3 境界摩擦に対する速度,荷重,温度の影響(Influence of speed, load and temperature on boundary friction)

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1.速度の影響

通常のストライベック線図(図3.3.1)では、境界潤滑の領域では速度がゼロ付近の摩擦係数が示されていませんが、マクロ的な摩擦と同様に、静止摩擦の状態が大きく、運動摩擦状態へ移行するに、摩擦係数が低下して、一定値に落ち着きます(図3.3.2)。さらに速度が増すと境界潤滑領域から混合潤滑領域に移行して、摩擦係数はさらに低下します。

また、境界潤滑下でも、スティック・スリップ現象が発生します。

図3.3.1 ストライベック線図

図3.3.2 境界摩擦状態での摩擦係数の速度特性

 

2.荷重の影響

極めて小さい荷重では、境界膜の破断の割合は小さいので、荷重とは無関係な境界膜部の摩擦の占める割合が大きいので、摩擦係数が増大します。また、荷重が大きくなると境界膜の破断が増加して金属凝着が促進されるので、摩擦は増加します。

 

3.温度の影響

摩擦面の温度が上昇して、ある臨界温度にに到達すると境界膜の潤滑能力が失われ、摩擦係数が急上昇します(図3.3.3)。この温度を転移温度(transition temperature)といいます。吸着膜は固体表面に結合してますが、転移温度はその結合が弱くなる、いわば吸着膜の融点に相当します。図3.3.3には、物理吸着をするプラチナの場合と、化学吸着をする堂の場合の転移温度を示していますが、何れの場合も転移温度は、吸着膜の融点のほぼ等しくなります。

 

図3.3.3 ステアリン酸吸着膜摩擦係数の温度特性

また、吸着膜は脂肪酸金属となっているので、一般には脂肪酸より融点が高くなっています。例えば、図にはありませんが、脂肪酸が鉄の表面に吸着されると、より融点の高い脂肪酸鉄(石けん)になりますので、その融点までは固体表面が保護されることになります。

しかし、吸着膜は熱に弱く、摺動時の摩擦熱により表面温度が上昇すると、軟化したり脱離したりします。そのため、たかだか百数十℃程度で潤滑能力が失われます。

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門   岡本純三 他   幸書房
トライボロジーの基礎  長谷亜蘭   精密工学会誌  Vol.81,No.7 2015

 

引用図表
図3.3.1 ストライベック線図  トライボロジーの基礎より改
図3.3.2 境界摩擦状態での摩擦係数の速度特性  トライボロジー入門
図3.3.3 ステアリン酸吸着膜摩擦係数の温度特性 トライボロジー入門

 

ORG:2018/10/14