3.4 表面温度と境界摩擦

3.4 表面温度と境界摩擦(Surface temperature and boundary friction)

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摺動などによる表面温度の上昇は、境界膜の破断や、固体表面が雰囲気による化学反応の促進、固体表面層の軟化など、摺動面に大きな影響を及ぼします。摺動面の状態の変化は、潤滑状態に極めて大きな影響を与えます。しかし、摩擦が起きている状態でその固体表面の状態を測定することはかなり困難です。

 

 

1. 表面温度の測定

摩擦により消費されるエネルギーは、固体表面の摺動部近傍の弾性・塑性変形に使用されます。さらに、その一部分は熱に変化します。

真実接触面が荷重W、速度 vで相対運動をして際に、接触面に発生する発熱量Qは接触面の摩擦係数をμとすると、

 

  (式3.4.1) 

で表されます。それぞれの単位は、W: [N],v:[m/s] になります。

発熱により真実接触面の温度は著しく高くなります。しかし通常は、表面から内部に向かっての温度勾配が大きいので、接触面温度を測定することは困難です。例えば、摩擦・摩耗面なので熱電対を接触面に直接埋め込むことは出来ないので、この方法では真の表面温度の測定はできません。

これを解決する手段として、相対して摺動する部材が異種金属である必要がありますが、この場合は摺動部材自身で熱電対が構成されますので、起電力が発生することにより、摩擦面の表面温度の測定が可能になります。その原理を図3.4.1に示します。

図3.4.1 熱電対法による摺動面温度の測定

 

回転円板材料を鋼材、スライダーをコンスタンタンで製作し、乾燥摩擦状態での表面温度測定を測定した例を、図3.4.2に示します。図からわかるように、表面温度は瞬間的に、800℃以上に達しています。この温度のことを閃光温度(flash temperature)といいます。測定される閃光温度は、多くの接触点での温度の平均値になるので、より高温の接触点もあると考えられます。

図3.4.2 乾燥摩擦状態での摺動面温度測定の例

この現象は、相対する固体表面が潤滑されている場合も同様で、高温の閃光温度が観察されています。従って、境界潤滑状態でも固体表面同士が接触する真実接触面でも、表面温度は高温になっています。なお、表面温度の最高値はその材料の融点になります。

 

2. 境界潤滑膜の破断

一般に境界潤滑状態では、境界膜は荷重により部分的に破断しています。摺動面では境界膜の生成と破壊(摩耗)が部位を移動しながら行われています。境界膜の生成と破壊のバランスは温度依存性があります。滑り速度や荷重が大きくなると表面温度が上昇し、凝着が広い範囲に発生して、ついには全面的な焼付きまで進行します。

焼付きについては、摺動面の特性が影響します。同じ金属同士の場合互いに溶解して凝着して、焼付きを起こしやすいです。いわゆる、”とも金”といわれるものです。

次に、添加剤の潤滑膜への作用を考えましょう。

油性を改善する添加剤を含んでいない、原油から精製された状態の基油に、摩擦低減剤である脂肪酸を添加した場合の温度による摩擦係数の影響を図3.4.3に示します。低温では脂肪酸が、固体表面に吸着膜を形成するので摩擦係数が小さくなります。しかし、温度が上昇して吸着膜の融点を超えると、その機能を失い、摩擦係数が上昇します。

これに対して、極圧添加剤といわれる添加剤は、高温・高荷重により固体表面の温度が上昇したときに固体表面と反応して、融点が高くせん断強さが小さい無機物の固体皮膜を形成します。極圧添加剤には、硫黄やリン、亜鉛などを含む有機化合物が使用されます。

従って、摩擦低減剤と極圧添加剤とを組み合わせて、基油に添加すると、図3.4.3の点線で示されるように、低温から高温まで適切な潤滑状態を維持するようになります。

図3.4.3 添加剤による温度と摩擦係数との関係

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門   岡本純三 他   幸書房

 

引用図表
図3.4.1 熱電対法による摺動面温度の測定 トライボロジー入門
図3.4.2 乾燥摩擦状態での摺動面温度測定の例 トライボロジー入門
図3.4.3 添加剤による温度と摩擦係数との関係 トライボロジー入門

 

ORG:2018/10/18