4.4 アブレシブ摩耗(abrasive wear)

4.4 アブレシブ摩耗(abrasive wear)

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1.アブレシブ摩耗とは

アブレシブ摩耗は、2つの面が摺動する摩擦面で、硬い突起がある場合に、軟らかい材料に食い込んで、表面を掘り起こすことにより起こります。アブレシブ摩耗には、2つの種類があります(図4.4.1)。

図4.4.1 アブレシブ摩耗

 

①相対運動する摩擦面の片方が、硬くて面粗度の大きい凹凸の激しい面が、軟らかい面上を滑ることによっておこる摩耗(二元アブレシブ摩耗
②相対寸動する2面間に硬い固形粒子が存在することにより起こる摩耗(三元アブレシブ摩耗

①の二元アブレシブ摩耗は、硬い方の面の突起部が軟らかい面に食い込んで、その相対運動によって、軟らかい面を切削する形態をとります。
②の三元アブレシブ摩耗は、硬い固形粒子が軟らかい方の面に食い込んで、硬い方の面を削り取っていく形態をとります。

これらは、軟らかい方の面が硬い凹凸によって削られるという点では共通です。なお、二元アブレシブ摩耗は、バイトなどで材料を切削する切削加工と、三元アブレシブ摩耗は、研磨粒子を使用するラップ加工やバフ加工と同じ原理です

アブレシブ摩耗は、ざらつき摩耗や凹凸摩耗、研削材摩耗ともよばれることもあります。

 

2.アブレシブ摩耗による摩耗量

アブレシブ摩耗を定量的に理解するために、図4.4.2に示す単純化したモデルを仮定します。

図4.4.2 円錐状突起によるアブレシブ摩耗モデル

摺動面の片側の硬い方の表面に1個の突起があり、他方の表面は平滑で軟らかいと仮定します。突起の形状は、半頂角θの円錐形と仮定します。この突起に付加される荷重Wのよって深さhだけ、相手に食い込んで、その状態でLだけ移動したとします。

この突起が通過した部分が全て摩耗粉となって軟らかい方の材料の表面から外部に排出されるものと考えます。軟らかい方の材料の押込み硬さ、すなわち塑性流動圧力をpfとすると、突起が移動するときの受圧面は、円錐が進行する方向の進行方向の反面になりますので、

  (式4.4.1)

 

  (式4.4.2)

 

となります。

摩耗量Vは、円錐の縦断面積1/2・(2r)h に移動距離Lを乗じた量になります。

 

 (式4.4.3)

 

従って、摩耗量は突起の鋭さ(θ)に比例するとともに、削られる方の材料の硬さ(pf)に反比例します。

なお、これらの関係は二元摩耗を想定して検討しましたが、三元摩耗でも突起が硬質粒子とすれば、同じ関係が成り立ちます。

 

3.三元アブレシブ摩耗

アブレシブ摩耗の摩耗量は、他の摩擦形態よりかなり大きくなります。各種の摩耗の比摩耗量の範囲について一例を、図4.4.3に示します。

図4.4.3 各種摩擦形態ごとの比摩耗量

 

三元摩耗における、硬質粒子の供給方法による摩耗量の時間的変化を、図4.4.4に示します。

図4.4.4三元摩耗における硬質粒子の供給方法と摩耗量の時間的変化

 

図の(a)は、摺動面に最初に硬質粒子を供給した後、摺動させ続けた状態、(b)は、硬質粒子を連続的に供給しながら摺動し続けた状態の結果を示します。

(a)の状態では、最初は大きい摩擦速度が次第に小さくなっていきます。これは、摺動の過程で硬質粒子の角が取れて丸くなり、食い込み量が減少するためです。しかし、(b)の場合のように常に新しい硬質粒子が供給されると大きな摩耗を引き起こします。

アブレシブ摩耗に対しては、境界潤滑程度の油膜の厚さでは効果がありませんので、機械の摺動面には、土砂や研削性の粒子が混入しないように密封を完全にすることが必要です。また、混入した場合に速やかに除去できるように、潤滑系統には、フィルタを設置するなどの方策をして、速やかに除去する必要があります。

また、三元摩耗において、摺動材料の硬さと摩耗し難さとの関係を、図4.4.5に示します。
低合金鋼(EN24 BS970;JIS SNCM439相当)の摩耗量を1として、摩耗抵抗比を示しています。硬い材料ほど摩耗し難いのがわかります。

図4.4.5 三元摩耗における摺動材料の硬さと摩耗し難さとの関係

 

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門   岡本純三 他   幸書房
摩耗メカニズムの研究事例と動向  長谷亜蘭  表面技術Vol.65 No.12_2014
Modern tribology handbook  Bharat Bhushan et al.  CRC Press
Engineering tribology 2nd ed   G. W. Stachowiak, A. W. Batchelor  Butterworth Heinemann

 

引用図表
図4.4.1 アブレシブ摩耗   トライボロジー入門より改
図4.4.2 円錐状突起によるアブレシブ摩耗モデル  中嶋 明 アブレシブ摩耗における摩擦・摩耗機構の実験による解析より改
図4.4.3 各種摩擦形態ごとの比摩耗量   Modern tribology handbook より改
図4.4.4三元摩耗における硬質粒子の供給方法と摩耗量の時間的変化 トライボロジー入門
図4.4.5 三元摩耗における摺動材料の硬さと摩耗し難さとの関係  Engineering tribology

 

ORG:2018/11/5