5.3.1 潤滑油の物理的性質

5.3.1 潤滑油の物理的性質(Physical properties of lubricating oil)

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以前の勤務先で、性能検査装置の潤滑油管理の一環として、毎月納入される新油の性状管理のため、月次で性状特性の成績表の提出をお願いしていました。その時にお願いしていた特性を列挙すると、

・色(ASTM)
・密度
・引火点
・流動点
・粘度(動粘度);40℃,100℃
・粘度指数
・酸価

 

です。これらの内、本稿では密度、粘度を中心に取り上げていきたいと思います。

 

1.密度(density)(測定密度、比重、API度)

JIS K2249-1~4「原油及び石油製品 -密度の求め方-」に、密度、測定密度、比重、API度が規定されています。

 

(1)密度(density)

密度は、試料の単位体積当たりの質量として定義されます。JISではその温度条件を付すことになっています。なお、JISでは、質量および、体積、温度の単位はそれぞれgおよび,cm3,℃ とします。

a) 密度(15℃): 15℃における試料の密度。単位は g/cm3
b) 密度(t℃): t℃における試料の密度。単位は g/cm3

原油および石油製品については、密度は、通常は15℃のときの値、”密度(15℃)”で表します。

ここで注意しなければいけないのは、密度は空気の浮力による影響を補正した値であることです。これは真空中での測定値に相当します。ちなみに、15℃、1cm3の乾燥空気の質量は0.001226gです。

(2)測定密度(observed density)

JIS K2249-4の付表Ⅰ表に示される原油および、燃料油、潤滑油それぞれの温度に対する密度換算表を用いて、密度(15℃)へ換算する際に必要な値です。この値は、基準温度(15℃)で校正されたソーダ石灰ガラス製の浮ひょうで測定したときの目盛の読みに相当します。

(3)比重(reiative density)

比重は、”温度t1においてある体積の試料の質量と、温度t2においてそれと等体積の4℃における水の質量との比”と定義されます。相対密度ともいいます。比重は無次元量です。

比重については、試料および水の温度条件を示す記号を付けて次のように表します。

a) 比重15/4℃: 15℃におけるある体積の試料の質量と、それと等体積の4℃における水の質量との比。 比重 15/4 ℃ は、数値的には密度(15℃)の近似値になります。比重 15/4 ℃と密度(15℃)との間には次式の関係があります。

\(d_{ 15 } = s_{ 15 } \times 0.999 97 \)      (式5.3.1.1)

ここに、 \(d_{ 15 } \):密度(15℃)
     \(s_{ 15 } \):比重15/4 ℃

 

b) 比重t1/t2 ℃: t1℃におけるある体積の試料の質量と、それと等体積のt2℃における水の質量との比。

 

c) 比重60/60℉: 56℃(60℉)におけるある体積の試料の質量と、それと等体積の15.56℃(60℉)における水の質量との比。

 

(4)API度(degrees API)

API度は、アメリカ石油学会(American Petroleum Institute)が制定した比重の表示方法です。USでは、石油類の比重の表示方法として広く用いられています。”APIボーメ度”もしくは”API比重”と呼ばれることもあります。

API度は、比重60/60℉ と次式に示す関係があります。

\( A= \displaystyle \frac{ 141.5 }{ s_{ 60 }} – 131.5 \)    (式5.3.1.2)

ここに、  A: API度
      \(s_{ 60 } \): 比重60/60℉

 

2.粘度(viscosity)

(1)粘度

粘度とは、粘りの度合いを示すもので、潤滑状態を支配する基本的なパラメータです。

粘度には、流体の運動状態から導かれる絶対粘度と、密度との関係を考慮した動粘度の2種類の粘度を考えることが多いです。

 

a) 絶対粘度(absolute viscosity)

図5.3.1.1に平行二平面の間に、粘性のある流体が充満されており、片側の平面は静止、もう片側の平面は相手面と平行に速度Uで移動している状態を示します。二平面間の距離は比較的小さく、移動平面の動きが比較的ゆっくりの場合は。流れの状態は層流になります。

層流状態では、二平面間の流速分布は、(a)に示すように直線状になります。この状態の流体内部を巨視的に考えると、(b)に示すような二平面に平行な薄い層の積み重ねと考えると、流体に生じる抵抗力は、これらの層同士がせん断する際の摩擦抵抗と考えることが出来ます。

図5.3.1.1 二平面間の流れ(層流)

 

1687年、ニュートン(I. Newton)は実験の結果から次の関係を見出しました。

\( F = \displaystyle \eta \frac{ AU }{ h } \)    (式5.3.1.3)

ここに、
\( F \):運動面に発生する抵抗力 (N)
\( A \):二平面間の面積 (m2
\( U \):移動速度 (m/s)
\( h \):二平面間の間隔 (m)

\( \eta \)は、粘性の大きさを示す比例定数になります。\( A = 1 m^2 \)および、\( U = 1 m/s \)、\( h = 1 m \)のときに、\( F = 1 N \)になるような粘性を、\( 1 Pa・s \)(パスカル秒;\( 1 Pa・s = 1N・s/m^2)\)と定義します。\( \eta \)は絶対粘度(absolute viscosity)または粘性係数と呼ばれます。

SI単位になる前は、CGS単位系で\( P \)(ポアズ;\( 1 P = 0.1 Pa・s \))および、実用的にはその1/100の\( cP \)(センチポアズ)が用いられます。実用的には現在でも\( cP \)単位は用いられています。

図5.3.1.1は流体内部で、高さ方向の速度変化が一様な例ですが、実際の局面では、二面が曲面であったり、流体内に圧力差があったりして、流速の変化が一様でないことがあり、二面間の流れを一般化して、微小厚さ\( dy \)の層について上下面の速度差が\( du \)であるとき、単位面積あたりのせん断抵抗力はせん断応力になるので、この値をτとすると、

 \( \tau = \displaystyle \eta \frac{ du }{ dy } \)    (式5.3.1.4)

の関係が成立します。(式5.3.1.4)をニュートンの粘性の式といいます。

主な流体の絶対粘度を、表5.3.1.2 に示します。

表5.3.1.2 いろいろな流体の絶対粘度

 

b) 動粘度(kinematic viscosity)

動粘度は、絶対粘度を流体の密度で除したものとして定義されます。

\( \nu = \displaystyle \frac{ \eta }{ \rho } \)     (式5.3.1.5)

ここに、
\( \nu \):動粘度 (m2/s)
\( \eta \):絶対粘度 (Pa・s)
\( \rho \):密度 (kg/m3

CGS単位系では10-4m2/s=1 ST(ストークス)およびその1/100のcSt (センチストークス;10-6m2/s)が用いられています。現在でもセンチストークスは良く用いられています。また、SI単位系で示すときも、mm2/sで示されることが多いです。

動粘度は、管路抵抗や、流れの状態を示すときによく用いられます。管理者は長年流体機器系の技術者でしたので、流体機器の設計では動粘度で考えることが多かったです。

 

 

(2)粘度の測定方法

粘度の測定には、長年にわたり様々な機器が開発されてきました。工学的なアプリケーションで一般的に用いられるのは、毛管粘度計が広く使用されていますが、回転粘度計、工業用粘度計もよく使用されています。

一般に、毛管粘度計はニュートン流体の粘度測定に適します。回転粘度計は非ニュートン効果が大きい流体に適しているとされます。工業用粘度計は石油製品の測定に使われます。

a) 毛管粘度計(capillary viscometer)

毛管粘度計の例を図5.2.1.3に示します。

図5.3.1.3 毛管粘度計の例

 

何れもガラス製で、これに油を入れてから高温水槽に入れて温度を一定にした後、油も上の標線の上まで吸い上げて、次に油を自然落下させて油面が2本の表面の間を通過する時間t(秒数)を測定します。

粘度計は1基ごとにあらかじめ標準粘度油により校正されており、個々に粘度計定数cが与えられており、

\( \nu = ct \)   (式5.3.1.6)

として動粘度が求められます。

毛管粘度計の原理deltaは、断面が円形の毛細管中を通過する粘性流体の流量測定で、単位時間当たりの流量Qをハーゲンーポアズイユ(Hargen-Poiseuille)の式の関係を用います。

\( Q = \displaystyle \frac{ \pi R^4 }{ 8 \eta L } \Delta p \)    (式5.3.1.7)

ここに、
\( R \):円管の半径 (m)
\( L \):長さ (m)
\( \Delta p \):長さ方向の圧力差 (Pa)

 

毛管粘度計は、圧力差\( \Delta p \)を測定油自身の油面の高さにより与えます。油の密度を\( \rho \)とすると、

 

\( \Delta p = \rho g h \)  (式5.3.1.8)

 

になりますので、(式5.3.1.7)は以下のようになります。

 \( \displaystyle \frac{ \eta }{ \rho } = \nu = \displaystyle \frac{ \pi R^4 g H }{ 8 L Q } \)    (式5.3.1.9)

 

となります。

いま、体積\( V \)の流体が毛管から流出する時間を\( t \) とすると、\( V = Qt |)であるので、

\( \nu = \displaystyle \frac{ \pi R^4 g H }{ 8 L V } t \)  (式5.3.1.10)

となります。

\( R,h,L,V \)が与えられた粘度計で\( t \)を測定すれば、動粘度\( \nu \)が得られます。

 

b) 工業用粘度計(short tube viscometer)

毛管粘度計と同様の測定原理で、毛管粘度計がガラス製であるのに対して、より強い構造を持たせたものが工業用粘度計です。代表的なものとして、レッドウッド(Redwood)、セイボルト(Saybolt)、エングラー(Englar)などの粘度計があります。図5.3.1.4に、レッドウッド粘度計を示します。ほかの形式も構造はほぼ同じです。

レッドウッド粘度計は、中心の容器に試料油を入れて、その周囲を温湯で囲んで所定の温度に保持されます。その状態で弁(鋼球)を持ち上げると試料油はノズルを通過して下のフラスコに落下します。フラスコには標線が付けられていて、試料油の落下開始から標線まで溜まる時間(秒数)を測定します。何れの種類の粘度計でも、測定値の秒数をそのまま用いられます。

例えば、セイボルト粘度計は、潤滑油の場合はユニバーサル型を用いますが、例えば、45SUSの表記は、Saybolt Universal 粘度計での流出時間が45秒であることを示しています。

図5.3.1.4 レッドウッドNo.1粘度計

 

c) 回転粘度計(Rotational Viscometer)

同心二円筒の隙間に試料油を入れて、どちらかの円筒を回転させると試料油の粘性のためもう一方の円筒が回転力を受けるので、その力を測定します。

図5.3.1.5 で回転粘度計の原理を説明します。外側の円筒を回転させると、内側の円筒は粘性による回転力とねじり線の反力とが釣り合った回転位置で停止します。その角度を読むことにより粘度が求められます。

図5.3.1.5 回転粘度計の原理

 

二円筒間の隙間\( h \)は小さいと仮定し、隙間の円筒面の表面積を\( A \)、外筒の周速度を\( U \)、内筒の半径を\( r \)、内筒表面に発生する回転力を\( F \)とすると、内筒に作用する回転モーメント\( M \)は、

\( M = Fr \)    (式5.3.1.11)

(式5.3.1.3)より、

 \( M = \displaystyle \eta \frac{ AUr }{ h } \)   (式5.3.1.12)

これより粘度は、

 \( \eta = \displaystyle \frac{ h }{ AUr } M \)   (式5.3.1.13)

 

ここで、\( A,h,U,r \)が与えられるので、\( M \)を測定すれば、粘度が求められます。

ここでえられる粘度は、絶対粘度です。

 

(3)粘度指数(viscosity index)

潤滑油の粘度は、一般に温度により大きく変化します。図5.3.1.6に鉱物油の温度-粘度特性の一例を示します。

図5.3.1.6 鉱物油の温度-粘度特性

 

図からわかるように温度が上昇すると、粘度は急激に低下します。このような温度による粘度の変化の程度を数値で表す粘度指数という概念が考えられました。

粘度指数の概念は、産業上の必要性から考えられました。1920年ごろのアメリカでは、原油が採油個所により温度-粘度特性が異なるのが知られていました。例えば、ペンシルバニア原油は最も優れているのに比較して、ガルフコースト(テキサス)原油は温度により粘度が大幅に変化するため、最悪の状態でした。油の温度-粘度特性を正確に表すパラメータとして粘度指数が、1929年にディーン(E.W. Dean)とデービス(G.H.B. Davis)により提案されました。粘度指数の概念は、対象となる油の動粘度を温度に対する粘度変化が大きく異なる2種類の油の粘度と比較する経験的なパラメータです。当時は基準となる2種類の油として、ペンシルバニア原油とガルフコースト原油とから生成された油を用いました。これらの油は210℉(98.89℃)で同じ粘度を持っているため、ペンシルバニア原油からの油には粘度指数100、ガルフコースト原油からの油には粘度指数お0を割り当て、粘度指数を次式で定義しました

 \( VI = \displaystyle \frac{ L – U }{ L – H } \times 100 \)   (式5.3.1.14)

\( VI \)の値が大きいほど温度に対する粘度の変化は小さくなります。

このように粘度指数は2種類の標準油による相対評価値です。

現在では、試料となる油の粘度の値がわかれば(式5.3.1.14)に示される\( L,H \)の値は数表の形で与えられていたリ、計算式で与えられたりしています。また、基準温度も40℃と100℃になっています。

粘度指数の概念は。大元は特定の油を標準として決められたものなので、粘度指数が100以上或いは0以下のものも存在します。鉱油系潤滑油の場合、パラフィン系の方がナフテン系より粘度指数が大きくなります。

粘度指数については、以下のリンク先もご参照ください。

油圧工学入門 3.2.1 油温と粘度

 

(4)圧力による粘度変化

一般に液体の粘度は圧力が高くなるほど高くなります。鉱油系潤滑油では\( 300MPa \)程度で固化が始まるまでは粘度上昇が起こります(図5.3.1.7)。圧力\( p \)における絶対粘度\( \eta \)は、大気圧での絶対粘度を\( \eta_{ 0 } \)とすると粘度と圧力の関係はBarusの式と呼ばれる次式が用いられます(ナフテン系鉱油の場合)。

\( \eta = \eta_{ 0 } \exp ( \alpha p ) \)   (式5.3.1.15)

\( \alpha =1.0197 \times (0.6 + 0.965 \log_{ 10 } \eta_{ 0 } ) \times 10^{ -5 } \)

ここで、
\( \eta \):圧力p (kPa)における粘度(mPa・s)
\( \eta_{ 0 } \):圧力101.325 (kPa)における粘度(mPa・s)

\( \alpha \)は圧力による粘度上昇の度合を表す圧力粘度係数と呼ばれるものです。鉱物油では20(GPa)-1 程度になります。

図5.3.1.7 鉱油系潤滑油の圧力-粘度特性の例

 

(5)耐荷重性能

主として極圧潤滑油が、境界潤滑状態の下でどれだけの荷重に耐えて焼付防止できるかの限界を調べるために、耐荷重能試験が用いられます。試験方法にはいくつかの種類がありますが、JIS K2519-2017「潤滑油-耐荷重能試験方法」に規定されているのは、”曽田式四球法”、”チムケン法”の2種類です。ちなみに、この規格に対応する国際規格は現時点で制定されていません。

国内では四球試験法がよく用いられます。図5.3.1.8 は、曽田式四球試験機の例です。これは鋼球を4個使用します。下の3個は三角形に固定してその上で残りの1個をすべり接触で回転させる構造です。鋼球部分を試料油に浸漬して、接触荷重を次第に増加させると、鋼球に焼付きが生じます。その荷重を試料油の耐荷重能とします。

図5.3.1.8 曽田式四球試験機の例

 

各種の耐荷重能試験機と試験条件とを、表5.3.1.9に示します。

表5.3.1.9 耐荷重能試験機と試験条件

 

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参考文献
トライボロジー入門    岡本純三 他   幸書房
(一社)潤滑油協会(JALOS)様HP: http://www.jalos.jp/jalos/qa/articles/012-S46.htm
JIS K2519-2017「潤滑油-耐荷重能試験方法」

 

引用図表
図5.3.1.1 二平面間の流れ(層流)   トライボロジー入門
表5.3.1.2 いろいろな流体の絶対粘度   トライボロジー入門
図5.3.1.3 毛管粘度計の例    トライボロジー入門
図5.3.1.4 レッドウッドNo.1粘度計    トライボロジー入門
図5.3.1.5 回転粘度計の原理    トライボロジー入門
図5.3.1.6 鉱物油の温度-粘度特性    トライボロジー入門
図5.3.1.7 鉱油系潤滑油の圧力-粘度特性の例    (一社)潤滑油協会HP
図5.3.1.8 曽田式四球試験機の例     JIS K2519
表5.3.1.9 耐荷重能試験機と試験条件      トライボロジー入門

 

ORG:2020/8/31