5.3.2 潤滑油の化学的性質

5.3.2 潤滑油の化学的性質(Chemistry of lubricating oil)

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潤滑油が必要とする化学的性質の主要なものについて示します。また、それらの性質を試験する方法についても述べます。

1. 酸化安定度(JIS K2514-1,2,3)

潤滑油は、高温条件や空気との接触により酸化劣化を引き起こします。酸化劣化した場合、粘度の増加や、酸価の増加、スラッジ生成などを引き起こします。酸化安定度は、空気中の酸素による酸化劣化反応を抑制する程度と定義されます。
酸化安定度の試験として、JISではK2514-1,2,3の3つの規格が発行されています。

(1)JIS K2514-1: 内燃機関用潤滑油酸化安定度

この規格では、主に内燃機関用潤滑油(エンジン油)の酸化安定度を求める方法を規定しています。
容器中で試料を触媒と一緒に高温で撹拌して、規定時間後の粘度及び酸価の変化と、挿入したガラス棒に付着したラッカー状の物質の状態を調べます。

(2)JIS K2514-2: タービン油酸化安定度

この規格は、タービン油、添加タービン油など、比較的添加剤が多くない潤滑油の酸化安定度を求める方法を想定しています。
容器に、試料と触媒とを一緒に入れ、高温で酸素を吹き込んで劣化の程度を調べます。

(3)JIS K2514-3: 回転圧力容器式酸化安定度

これは、ボンベに試料と、水、触媒とを一緒に入れて、酸素を圧入して高温で回転させ、酸素の消費により、規定の圧力までボンベの圧力が低下するまでの時間を求めます。

2. 泡立ち(JIS K2518)

潤滑油の泡立ちは、潤滑不良、キャビテーション、オーバーフローによる潤滑剤の損失などを引き起こして、使用する装置の機械的な故障を引き起こすことがあり、本規定による泡立ち性の評価は、これらの問題に対する指標となりえます。

泡立ち度、泡安定度の2つの評価方法があります。また、試験温度の種類により24℃に保った試料で行う泡立ち試験と、試験温度150℃で行う高温泡立ち試験があります。

(1)泡立ち度は、規定温度で規定時間空気を吹き込んだときの泡まつの体積(ml)で評価します。泡立ち試験では空気吹込み終了直後、高温泡立ち試験では空気吹込み終了直前の泡まつの体積で評価します。

(2)泡安定度は、泡立ち度の測定後、空気供給を遮断して、規定時間経過した後に残っている安定な泡まつの体積(ml)で評価します。泡立ち試験の場合は10分後の泡まつの体積、高温泡立ち試験では、5秒、15秒、1分、5分、10分の各時間経過後の泡まつの体積で評価します。

3. 抗乳化性(JIS K2520)

蒸気タービンや熱函圧延機などは、潤滑油に水蒸気或いは水が混入する恐れがあります。油は水分の混入により乳化して潤滑性を失い、種々のトラブルが発生します。そのため、水分が混入する恐れのある機械に使用される潤滑油は、乳化し難く、また乳化しても水分の分離性が良好な性質に優れている必要があります。この性質を抗乳化性といいます。

抗乳化性の試験は、JIS K2520に示されており、抗乳化性試験と蒸気乳化度試験とが規定されています。

(1)抗乳化性試験は、試料40ml、純水40mlを規定のガラス製シリンダに取り、規定の試験温度(例えば82℃)に保ち、かきまぜ板で1500min-1で5分間かきまぜた後、かきまぜ板を引き上げて、乳化した試験液を5分ごとに、油層,水層および乳化層の容量を記録して、乳化層の体積が3ml以下になった時点を試験終了とします。測定結果は、

油層(ml)-水層(ml)-乳化層(ml) [経過時間;分]

で示します。

60分経過しても分離しない場合は、その時点での油層,水層および乳化層の体積を報告します。

例1:20分経過時点では乳化層が5ml(> 3ml)残っていたが、25分経過後完全に分離す多場合
     40-40-0 (25)

例2:20分経過時点で完全には分離しなかったが乳化層が3mlになった場合
     39-38-3 (20)

例3:60分経過時点でも乳化層が3mlを超えて6ml残った場合
     38-36-6 (60)

(2)蒸気乳化度試験は、試料20mlを試験管に採り、約23℃の乳化槽に浸します。これに水蒸気を吹き込んで乳化させ、試料温度を約90℃に保持します。凝集水の容量が約20mlに達したら、約94℃に保持した分離槽に移して、油(試料)が20ml分離する時間(秒)を測定します。
試験結果は、油層の分離量が20mlに達したときの秒数を、蒸気乳化度として表します。20分経過しても分離油が20mlに達しない場合は、1 200秒以上と表します。

4. 中和価(JIS K2501)

中和価は、酸価及び塩基価の総称で、測定対象の潤滑油中の酸性または塩基性物質の量に相当する水酸化カリウム(KOH)のmg数で表したものです。滴定する対象によって、全酸価、強酸価、全塩基価、強塩基価の4種類があります。

(1)全酸価は、潤滑油中の全ての酸性成分(ナフテン系油や添加剤中の酸性物質、使⽤中に⽣成した有機酸など)を全て合せた量を表します。全酸価は、潤滑油の精製度の⽬安としてや、製造⼯程の管理指標としてとらえられますが、ユーザ側からは、潤滑油使用中の管理、或いは潤滑油の劣化程度を知るための⽬安として広く⽤いられています。

⼀般に潤滑油は、劣化するに従って全酸価は増加する傾向になります。しかし、添加剤が多いエンジン油やギア油の場合、添加剤のうちの酸性物質の消耗のためいったん全酸価が低下したり、劣化しても全酸価の値は変化しない場合もありますので、寿命の指標とする場合は、メーカへの問合せが必要です。

また、強酸価は潤滑油中の強酸性成分の量を示します。通常はディーゼルエンジン油などの内燃機関油で、燃料排気より混入してくる硫酸量の管理に利用されます。

(2)塩基価と強塩基価とは、潤滑油中の塩基性物質の総量を示します。塩基性物質は、有機塩基や、無機塩基、アミノ化合物、弱酸塩(せっけん)、多塩基の塩基性塩、重金属塩、酸化防止剤、清浄剤などの添加物で、天然の石油留分にはほとんど存在しない物質です。塩基価はエンジン油の評価や潤滑油の管理に用いられます。

(3)試験方法

JISに規定されているのは、「指示薬滴定法(セミミクロ指示薬滴定法を含む)」、「電位差滴定法」、「指示薬光度滴定法」があります。指示薬法は主に淡色系の潤滑油の、電位差滴定法は、使用済の潤滑油など指示薬の変色がわかりにくい暗色~黒色の潤滑油に適用されます。

5. 銅板腐食(JIS K2513)

銅板腐食は、銅版を⽤いて⽯油製品全般の腐⾷性を調べる⽅法です。航空燃料油に適用するボンベ法と、それ以外の燃料油や潤滑油に適用する試験管法とがあります。ここでは試験管法について記述します。
よく磨いた銅版を約30mLの試料に完全に浸し、潤滑油の場合は試験温度100℃で試験時間3h保持した後、銅版を取り出し洗浄して、同伴腐食標準と比較して、試料の銅に対する腐食性を判定します。判定結果は、変色番号(1,2,3,4)で示します。

表:銅板腐食標準による腐食の分類 (JIS K2513)

6. 熱安定度(JIS K2540)

耐熱性に劣る潤滑油では、熱変性物が(炭素質)不要分を増加させて、粘度の増加や清浄度の悪化、フィルター目詰まりなどのトラブルの原因となります。特に高温のピストンやシリンダを潤滑し、かつ冷却されながら長期間にわたって使用されるエンジン油には高度な耐熱性が要求されます。
潤滑油の耐熱性を評価するための試験方法としては熱安定度試験、パネルコーキング試験の2種類が設定されていますが、実機性能との相関は十分でありません。そのため、潤滑油の熱安定性(耐熱性)の大まかなふるい分けに使われているのが現状です。

(1)熱安定度試験:JIS K2540に規定されています。硬質ガラス製ビーカに試料20gを採り、空気恒温槽の回転盤にセットし、120℃で回転盤を回転させます。試験後放冷して、試料および試料容器底部の析出物の有無により潤滑油の耐熱性を評価します。

(2)パネルコーキング試験:JIS K2540がタービン油、内燃機関用潤滑油を主とした対象とするのに対して、本方法はJISではなく、Federal Test ;Method No.791B, Method No.3462で規定されています。本方法は、自動車用エンジン油や油圧油などにも適用することができます。
この方法は、潤滑油が高温部分に比較的短時間接触した場合に発生する固形分解物(主に炭化物)の生成傾向を調べます。

7. 引火点(JIS K2265-1,2,3,4)

石油製品は、消防法上危険物の分類に用いられており、安全管理面上最も重視される性状の一つです。例えばエンジン油などでは、燃料油などの軽質油への混入の目安になっています。

引火点の定義は、規定条件で試料を加熱して小さな炎を近づけたときに、油蒸気と空気との混合気体が先行を発して瞬間的に燃焼する試料の最低温度です。JISに規定されている方法には4種類ありますが、潤滑油の測定には、密閉式(ペンスキーマルテンス密閉法;-3)および開放式(クリーブランド開放法;-4)とが適用されます。
引火点の測定結果は、密閉式の方が開放式よりやや低めの値を示します。引火点の情報は火災や爆発の危険予知に関わりますので、一般的には低めの値を示す密閉式で測定します。

8. 流動点(JIS K2269)

石油製品の低温時の流動性の目安(低温流動性)で、寒冷地、あるいは冷凍機用潤滑油では、特に重要な性質です。

所定のガラス製の試験管に試料45mlを採り、45℃に加熱した後、所定の位置に温度計を置き設置した後、試料をかき混ぜないで、冷却浴(複数段階の温度があります)で冷却し、試料温度が2.5℃下がるごとに冷却浴から試験管を取り出して、試験管を倒しても動かなくなったら、水平に倒して正確に5秒間試料が動かなければ、このときの温度計の読み(取り出し時の温度)に、2.5℃加えたものを流動点とします。0℃を起点として2.5℃の整数倍で表します。

鉱物油の場合、流動点は主として油中に含まれるワックス分が多いほど高くなります。そのため、ワックス分の多い鉱物油は、脱ろう処理を行ってから潤滑油の基油に使用します。一般的な基油の成分と、流動点との関係は以下の通りです。

流動点高: n-パラフィン > 単環アロマ > イソパラフィン > 多環アロマ,単環ナフテン > 多環ナフテン :流動点低

また、潤滑油の粘度は、温度に対して2乗対数で変化しますので、低温時の流動性は少しの温度差で著しく悪くなります。筆者の遠い過去の経験ですが。ロシアシベリア地区にポンプを納入した際、通常の粘度の潤滑油(添加タービン油)が使えず、日本(特に夏季)で使用すると、粘度が低すぎて、ベアリング寿命に影響するのではと思うような作動油を選定した記憶があります。

9. 曇り点(JIS K2269)

曇り点とは、試料を規定の方法でかき混ぜないで冷却したとき、パラフィンワックスその他の固体が析出、分離し始める温度をいいます。

測定方法は、流動点と同じ器具を使用します。JIS規格も流動点と同じ規格に記述されています。
水分をあらかじめ完全に除去した試料を予期曇り点より14℃高い温度に保ちます。この試料を試験管に規定量採り、温度計を付けたコルク栓で密閉します。さらに試料の入った試験管を外管に挿入して、冷却浴に入れて保持します。試料温度がよき曇り点付近に到達したら、1℃温度が下がるごとに試験管を速やかに取り出して試料の底部に曇りが生じたか否かを確認して、速やかに元に戻します。取り出しから元に戻すまでは、3秒以内を目安とする必要があります。

石油固形分である、パラフィンワックスによる曇りは通常の場合は試験温度が最低となる試験管底部に現れます。試料全体がわずかに曇る場合は、試料中の微量水分によることが多いので、規定された方法で水分を除去してから、再度試験を行う必要があります。

 

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参考文献
トライボロジー入門    岡本純三 他   幸書房
潤滑油の試験⽅法の概要と意義 | 潤滑油の試験・測定・分析選定BOX | ジュンツウネット21    https://www.juntsu.co.jp/oiltest/oiltest_kaisetsu01.php
JIS規格

引用図表
表:銅板腐食標準による腐食の分類  JIS K2513

 

ORG:2018/7/8