5.6 油による潤滑法(給油法)

5.6 油による潤滑法(給油法)(Oil lubrication method)

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1.潤滑方法

機器への潤滑の目的は、摺動面の信頼性や耐久性を確保と向上を図るために摺動面への給油技術を確立することにあります。潤滑材を適切な量、適切な頻度で、摺動面に確実に供給することが最も基本になります。想定される最悪の条件に対応して、しかも経済的に安定して潤滑剤を供給する技術は、設計者にとって設計のハードルが高いものと想定されます。

油による潤滑方法について、玉川大学(2007年当時)の似内先生がジュンツウネットに21で解説されている、給油・給脂法についての解説記事に沿って記述していきます。

給油法は、大きく全損式と反復式(回収式)に分類されます。それぞれの方式について種類を示します(表5.6.1)。元の記事では、ここに記載の方法以外の種類の記述や、選定に大きく影響する設備費や保全費、労務費などについても比較しており、ぜひ訪問してください。

表5.6.1 給油法の分類

 

表5.6.1に示した各種給油法で、代表的なものについて要点を示します。

全損式は油を使い捨てにするので、機構は簡単ですが消耗品コストが必要ですし、保全上も例えば給油間隔に注意を払う必要があります。一方反復式は、潤滑油を保持する機構が必要で構造は若干複雑になりますが、消耗品コストが抑えられます。また一般には信頼性が高くなります。

 

1.1 全損式給油法

(1)滴下潤滑
潤滑油を重⼒を利⽤して滴下する⽅法で,最も基礎的な潤滑法です。油容器に貯められた潤滑油を重⼒によって滴下します。滴下油に作用する力は重力のみで、周囲温度が変化することにより粘度が変化し給油量が変化します。さらに容器内の圧⼒の変化によっても給油量が変化するので注意が必要です。

(2)噴霧潤滑
霧吹きの原理を応⽤した噴霧給油器により潤滑⾯に潤滑油と空気が混在した霧状の潤滑油(オイルエア)を供給する⽅式で、フォッグ(fog)潤滑あるいはオイルミスト(oil mist)潤滑などとも⾔われます。オイルエアの供給圧⼒は0.1〜0.5MPa程度と低いですが、オイルエアを潤滑⾯に確実に供給することができて、圧縮空気による冷却効果が⼤きいことが特徴です。また潤滑油は霧状に供給されるので、潤滑油消費量を減少させることが出来ます。

 

1.2 反復式給油法

(1)油浴潤滑(含む ⾶まつ潤滑/リング潤滑/ディスク潤滑/チェーン潤滑/カラー潤滑)
潤滑油をタンクなどの容器の下部に貯めておいて、機械の⼀部である運動部分が、溜まった潤滑油の中を通過することにより、摺動⾯に潤滑油を供給する潤滑⽅⽅式を、広く油浴潤滑と⾔います。⻭⾞や軸受⾃⾝の回転部分の一部がタンク内潤滑油に浸漬して、回転を利⽤して潤滑油を供給する⽅式に限定して油浴潤滑ということもあります。

 

(2)パッド潤滑
詰め物給油ともいいます。潤滑油中にフェルトなどを浸漬させて、⽑細管現象を利用してにより潤滑⾯に潤滑剤を供給する⽅式です。パッドは荷重を受ける側とは反対側に取り付けられます。

 

(3)循環潤滑
潤滑油を循環させ繰り返し使⽤する潤滑⽅式を総称して循環給油⽅式といいます。循環系を含む装置全体を、循環給油システムといいます。潤滑油は給油ポンプで潤滑⾯に供給される場合が多く、その場合強制潤滑ともいいます。なお、循環給油の中で、潤滑油を⽐較的⾼圧でノズルからオイルジェットの形で供給する方式をジェット給油あるいはノズル潤滑などといいます。ジェット給油システムは装置として複雑になりますが、給油量や給油温度を⾼精度でコントロールでき、冷却効果も⼤きいことより、過酷な潤滑⾯には⽋かすことができません。ジェット給油では、⼀般には給油圧⼒は0.1〜0.5MPa,ノズル径が1〜2mm,軸受1個あたりの給油量は500mL/min以上とします。使⽤条件が⾼速、⾼温になるほど供給圧⼒および給油量を増す必要があります。

 

 

2.給油法の選定

給油法を決定するにあたって。大きくは3つの段階で検討する必要があります。

第一段階:どこに潤滑油を供給するか。

第二段階:どれくらいの潤滑油を供給するか(給油量)。

第三段階:給油方式はどれを採用するのか。

 

第一段階、第二段階は、潤滑が必要な対象物によりおおよそ決定できるが、給油方式については、給油の目的何かによって2つの要因があります。

一つ目は、純粋に潤滑作用を期待する場合で、流体潤滑膜が確保できる給油法であればよい場合です。もう一つは、潤滑法に潤滑作用に加えて冷却効果を期待しなければならない場合です。この場合は、摩擦摺動面での熱負荷に対する余裕をどの程度に見積もるかにより決まります。

全損式給油法は、潤滑油膜を潤滑面に形成することに主眼が置かれ、必要最小限量の給油を行うため、噴霧式を除いて冷却効果は期待できないので、冷却効果を期待する場合は反復式を選定することが基本になります。
なお、噴霧式給油法については、潤滑油による冷却効果ではなく、圧縮空気による冷却効果が期待できます。

 

 

3.清浄度の保持

摺動面が流体潤滑の状態でも、形成される油膜は一般的には厚くても数十μm程度です。もし、潤滑系が開放されていると、空中の舞い上がる土砂が摺動面に侵入する危険性が増大します。風の力で舞い上がる土砂の粒径は大きい場合で100μm程度で、小さい粒子の場合摺動面に侵入する恐れがあります。砂の主成分はSiO2で研削砥石の硬さに匹敵しますので、摺動面に侵入すると軸や軸受を損傷させます。損傷が進むと摺動面からの摩耗粉が発生して、加工硬化で硬くなったり酸化物になり硬くなるので、更に摺動面の損傷が進む恐れがあります。このような粒子が油中に留まると、摺動面の損傷が進行するので、潤滑油からこれらの固形粒子を除去する必要があります。
また、水分が侵入すると、錆が生じます。錆が発生して、剥離した粒子が同様に異物が発せします。
従って油に異物が混入して、摺動面に侵入しないようにする対策が必要になります。対策の例として、以下のようなものがあげられます。

(1)外部からの異物の侵入を防ぐ。
ガスケットやオイルシール、ダストリップなどを用いて摺動面を隔離します。

(2)油中固形物の除去
特に反復式潤滑装置の場合、フィルターを潤滑系内に挿入して、固形物を除去します。

(3)潤滑系の清浄化
潤滑系を組み立てる際、初期には配管等に固形物(コンタミナント)の残存がしばしば認められます。プラント等では、初期の段階でフラッシング(洗浄)を行うことにより、配管中の異物を除去することが行われます。

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房
給油・給脂⽅法の種類と特徴    ジュンツウネット21  https://www.juntsu.co.jp/tribology-doc/feature-lubricator.php
潤滑故障例とその対策   日本潤滑学会編   養賢堂

引用図表
表5.6.1 給油法の分類  給油・給脂⽅法の種類と特徴    ジュンツウネット21_参考

 

ORG:2019/6/23